蒼い道を二人で歩み続けながら(全年齢版)
笹原 篝火
美術教室での秘め事
美術教室での秘め事
─── 蝉の声でかき消されるふたりの甘い声・・・
***
この高校に入学してから夏になる。校舎の周りは木々で囲まれており、この時期はうるさいほど蝉が鳴き声を響かせていた。
汗をかきながら校舎内通路を上る。少し小高い所に校舎があるからだ。
都市住まいであった鞠があえてこの辺鄙な高校を撰んだかというと、中学生時代に友達関係がおもわしくなかったからだ。
とにかく中学生時代のクラスメイトと同じ高校には行きたくなかった。
だから親と教師の反対を押し切り、片道1時間以上かかるこの私立高校を撰び、受験した。
晴れて合格し、新しい新生活・・を鞠は別に望んでいなかった。
これといって友達も作らず、ただひたすら黙々と勉強し、高校生活を送る。
周りのクラスメイトは友達とはしゃいだり共学校なだけに恋人をつくっていちゃつく生徒も多かったが、それにはまったく目をくれず、鞠は自分の世界に入っていた。自分を知っている人はこの学校にはいない。自分だけの一人の世界・・その物だと思っていたのだ。
そして授業が終わると部活にも所属せず遊びにもよらずまっすぐに家に帰る。
こんな日々を続け・・7月となる。
今日も午前中の授業を終え、お弁当を片手にお気に入りの中庭に行こうとしたが、担任に呼び止められた。
「姫里さん、ちょっといいかしら」
「あ・・はい、先生」
担任は女性の先生。年齢は40代ぐらいだろうか。授業は物理を担当していた。鞠と同じぐらいの身長で年齢の割にはかなり若く見えている人だった。しかも、担任の仕事をしっかりしている。多分鞠の日々の生活態度が気になり声をかけたのだろう。
「あなた、あまりクラスメイトとお話してないわよね。楽しく生活できてる?」
痛いところを突いてくる。個人的に鞠は自分の世界にはいっていたいのだ。友達とかの話題は鞠的に耳が痛い話だ。
「友達・・はあまりいませんが、私的には一人が好きなので・・」
「そう?まぁ、でももう少し周りの人と打ち解けて気持ちを楽にしてすごさないとストレスとかたまっちゃうんじゃないかと思うのよ」
「・・ご心配かけて申し訳ございません」
「いや、別に個人のことに口出しはしないけど・・ちょっとクラスから浮いちゃっているかなと思ってね・・。そういえば姫里さん、部活所属してなかったわね。気になる部活とかなかったかしら」
「・・はい、部活は・・いいかなと・・ 気になる部活もなかったので」
「うーん、まぁ、部活なり研究会にはいればあなたの趣味や興味にそうお話や活動ができていいと思うんだけど・・。まぁ、いいわ。もし気になるのがあったらいってちょうだい?この時期でも入部できるからね」
と、いうと担任はどさっと新学期の時に渡していた入部案内を手渡す。
(はぁ・・興味ないっていったのになぁ・・)
「・・ありがとうございます・・」
「はい、これ入部届けね。なるべく人とお話しないとだめよ?共同活動も勉強の一環なんだからね?ごめんね、これからお昼だというのに呼び止めて」
「いえ・・」
担任は軽く、手をふって鞠の元を去って行った。
「はぁ・・」
鞠は深くため息をつく。お弁当を片手にぶら下げ、そして手の上にたくさんの入部案内。
(・・これ・・すてちゃおうか・・。でも先生にばれると怒られそうだし・・。ご飯食べた後にロッカーにおいておこう)
そのままとぼとぼと階段を降りて中庭に向かう。そして肩でドアを押しながら校舎から出た。
─ヒュ!!
・・っと、外にでた瞬間に突風が吹く。ちょっと目にゴミが入り目をつむっている間に、手にあった入部案内は風に舞った。
「あ!! やばい・・」
お弁当を入り口に置いて急いで散らかった入部案内集める。
(結構、遠くに飛ばされたのもあるなぁ・・。また風が吹く前に集めないと・・)
地面を見ながら一枚一枚拾い集めた。そして最期の一番遠くにあった案内を拾おうとした瞬間、すっと、視界に手がはいってきてその入部案内を拾われてしまった。
どきっとする鞠。おそるおそる拾い上げた手の主を見上げる。
「・・へぇ・・この時期に入部希望者がいるのね」
見たことがない生徒・・リボンの色から三年生だということが分かった。
すらっとした体に長い黒髪。綺麗な顔立ちをしていた。
「あ・・すみません・・拾って頂いてありがとうございます・・」
「いーえ。あなた一年生ね。まだ入部きまってないの?」
「あ、いや・・私、元々帰宅部だったので・・さっき担任に無理矢理入部勧められて」
「へぇ・・。で、やっぱ部活に入る気はないわけね」
その彼女はひらひらとチラシをなびかせて見ている。できればはやく返して貰ってこの場から去りたいのだが・・。
「あの・・それ、頂いていいですか・・?」
「あ、はいどうぞ!」
彼女は笑顔になると、鞠に案内を渡す。
「ありがとうございます・・」
鞠はその案内の彼女の手から受け取った・・瞬間、彼女は鞠の手を握る。
「え?」
鞠は急に手を握られ動揺する。元々友達がすくなかったから体を触られる機会もすくなかったからだ。
「えっとね、実はその案内。あたしの部のなんだ」
「あ・・え・・・そ、そうなんですか」
「うーん、うちは三年と二年しかいなくてね。新年生がほしかったけど今の所入部希望いなかったから・・」
「はあ・・」
「あなた、絵が好き?」
「絵・・ですか・・」
鞠は絵は得意ではないが良く描いていた。まぁクラスの人と話すことは少なかったので一人の時間に浸れる絵の作業は好きだったのである。実は鞠は中学生の時、美術部だった。部員は数名いたが彼女はもくもくと一人でデッサンにあけくれていたのだが・・。
「・・はい。実は中学の時は美術部でした」
「え?本当?じゃあ絵が好きなのね」
「好き・・というか・・」
「というか?」
「どちらかというと、絵の世界に没頭するが好きで。厳密に言えば絵が好きというわけではない・・かな」
「ふふ・・。面白い子ね。うん、まぁ、それもありなんじゃないかしら。自分の世界に入るのも絵の醍醐味ですし」
ふと顔を上げると、彼女の顔は目の前に・・鞠はびくっとした。
「・・ちょっと・・近いですよ・・」
「あは!ごめんなさい!部員勧誘に夢中になっちゃった。でもいい機会だから是非うちの部にはいってほしいかな。でも無理強いはないわ。取りあえず見学でもいいから来て貰えるとうれしいな」
「・・はい・・検討します」
「ありがと!この案内にある通り、部室は実技棟二階階の端だから・・よかったら放課後見に来てね」
「はい・・」
彼女はひらひらと手を振るとそのまま駆け足で校舎の中に入っていく。それを呆然として眺める鞠。
・・・。
(あ!お昼休憩おわっちゃう!!)
いそいで案内をかき集めるとお弁当を片手に中庭の奥へと走るのだった。
(・・美術部かぁ・・また絵を描いて一人の世界に没頭するのもいいかな・・)
***
午後の授業が終わり放課後となる。生徒達がちりじりに動き始めた。
机の中から一枚の入部案内・・丁寧にかかれた美術部の物だ。
(実技棟二階かぁ・・来てみてといわれたから・・いってみようかな・・)
手荷物をそそくさと集めて手提げバッグにしまうと、教室を離れ実技棟へ向かった。
実技棟は本校舎から離れた建物。本校舎より古く木造の建物だった。
薄暗い古い建物・・日中で日が射しているのに中は薄暗く不気味だった。
建物内に入る。床に足を置くと床がきしむ。
(うわ・・床が抜けたりしないよね・・)
そろり・・そろりと足元を確かめながら歩みを進め、階段を上る。部屋がいくつかあるが使われている様子もなく、人の気配も感じられない。
(・・ここ美術だけがつかっているのかな・・)
そろり・・そろりと奥へ進むとどうやら美術部らしき部屋が見えてきた。たしかに突き当たりに引き戸がある。外の棚にはデッサン用の胸像、そして画材道具がいくつか置いてあるのが確認できた。
本当に実技棟の静かだった。まるで廃墟に入ったかのよう。本当に部活動は行われているのだろうかと疑問に思った。
そして、入り口に立ち、そっと開けようとした瞬間・・。
・・中から声・・らしきのが聞こえる。
(部活・・やっぱやってたんだ・・)
しかし声の様子がおかしい・・。声・・というより、荒い息づかいのようなのが聞こえる。
(・・・え・・え・・?何・・)
ゆっくり戸を開けて中を覗く。
窓は開放されており、風でカーテンがなびいていた。乱雑に並ぶ、画材と机・・・。
蝉の鳴き声が響く部室の中・・
・・女性が二人いた。
一人は先ほどあった三年生の女性・・もう一人は部員だろう・・。が、様子がおかしい。
(・・え?なにを・・やって・・)
机の上に座る三年生の彼女・・それよりもその彼女の膝の上に座る別の知らない女性。
その女性は先輩の女性の首筋に手を絡めているそして、濃厚な口づけをしていた。
お互いに呼吸を荒げ、舌を絡めるようなキスを・・。
二人が絡み合うあまりの光景に鞠唾を飲む。心臓の音がうるさい・・その様を・・その音を聞くのにじゃまでじゃまでしかたがない。
(・・あ・・これ以上みちゃいけない・・)
ゆっくり後ずさりして一気に鞠は二階から駆け下りて実技棟から逃げ出した。
その顔は真っ赤だった。走って真っ赤になったわけではない。いままで見たことのない淫らな光景に昂奮してしまったからだ。
(・・いったい・・なんなの・・あれ・・)
そのまま走って校門を抜ける。無我夢中で、息を切らせながら。
そのとき沸き上がった感情をかき消したいからだ。
***
帰宅し親から夕食だと言われるが、食べないと大声を張り上げるとすぐに部屋に閉じこもる。
制服も脱がずにそのままベッドに飛び込んだ。
頭の中からあの光景がどうしても離れない。あの綺麗な先輩が他の生徒と・・同性で・・あんないやらしいこと・・。
無意識のうちに自分を慰めていた。
びっくりして手を放す。汚れた手を見て先輩の部室でみせた表情がまた脳裏に浮かぶ。
「もう!!一体なんあのよぉ!!」
枕を掴んで頭に被るとそのまま塞ぎ込んだ。
その日は鞠は変な昂奮で一睡もできなかった。
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