第201話 旅望 -アラモード-

夕飯の片づけを終わらせて、僕らはリビングでのんびりしていた。

結局、この時まで僕らはスマホを触ることもなかった。


「あ、おばさまから」

「ん?母さんから?」


明花のスマホに、母さんからメッセージが来ていたようだ。

そして、見せてもらう。


陽香『今日出来ることは、全部やっておいたわ』

陽香『あとは、興信所を雇ったから結果次第ね』

陽香『ゆっくり療養してね、勉強は尚弥に教わればいいわよ』


そう、メッセージが来ていた。

興信所か。徹底的にやるみたいだな。

それにしても、勉強か。

確かに、しばらく授業には出れないからな。

リモートとかできればいいんだけど。


「ねえ、明花…ずっと気になってたけど…成績は?」


そう聞くと、明花は目を逸らす。

僕は、彼女の頬を両手で押さえる。

ちょっと、変顔になっていて可愛い。


「せ・い・せ・き・は?」


明花が、もごもご言っているがよくわからない。

ああ、僕が抑えているからか。

僕は、明花を抑えていた手を放す。


「ひどいよぅ、尚弥」

「ああ、ごめんごめん。明花が逃げるから」

「うー、成績は赤点ギリギリ…」

「なるほど…じゃあ、明日から僕が教えるよ」

「えー、勉強。やだぁ」

「このままいくと一緒の大学いけないけど…」

「それはやだぁ」


明花は、涙目になっている。

赤点ギリギリだと、流石に大学入試はきついよな。

幸い、まだ1年ある。

部活がないなら勉強する時間は作れるからな。

バイトが始まるけど。


「じゃあ、期末テスト」

「期末テスト?」

「うん、期末テストの成績が上がったら何でも1つお願いを聞いてあげよう」

「ホント!頑張る」


明花が、やる気になった。

ただ、軽はずみな約束をしてしまった気がする。

僕の方が、煮詰まってるかな。

アイスでも食べるか。

僕は、冷蔵庫に立つ。

冷凍庫に入れているプリンカップを手に取る。

これは、アイスティラミスだ。

ティラミスを作った時に、牛乳ではなくバニラアイスとマスカルポーネを組み合わせた物だ。


「尚弥、それなに?」

「え?アイスティラミスだけど」

「そんなの知らない…1人で食べるつもりだったの?」

「そんなわけないでしょ、明花の分もあるよ」

「わぁい」


それにしても、よくリビングからこっちが見えたな。

食に対する嗅覚が凄すぎる。

僕は、明花の分のアイスティラミスを持ってリビングに戻る。

もちらん、彼女のスプーンを持って。


「アイスティラミス…美味しそう」

「多分美味しいと思うよ」


僕は、一口掬って食べる。

甘い…うん、美味しい。

明花は、黙々と食べている。

顔は、溶けている。


「どう?」

「おいひぃー」

「それは、良かった。作った甲斐があったよ」

「途中のパリパリのチョコレートの層があって食感も楽しめていいね」


ビスケットではなく、チョコレートで層を作っている。

底面は、グラハムをバリバリに割って敷き詰めてある。

ここにもチョコレートを混ぜ合わせている。

一番上は、ココアパウダーにミントパウダーを混ぜて掛けてある。

ちょっと、すっきりするかなぁ。

あんまり、感じないや。

どちらかといえば、もっと多めに掛けてもよかったかな。

次作るときは、配合を変えてみよう。


「尚弥は、満足な出来じゃなかった?」

「うん…ミントの割合がね」

「ミント?」


ああ、気付かないか。

やっぱり、配合ミスってたか。


「ココアパウダーにミントパウダーを混ぜてあったんだけど…弱かったみたいだね。

明花も気付いてなかったみたいだし」

「あはは、それは確かに満足できないよね。

でも、美味しいのはホントだよ」

「うん、ありがとう。次作るときは、もうちょっと頑張ってみるね」

「楽しみにしてるね」


僕らは、アイスティラミスを食べながらゆっくりするのだった。




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