第76話 旅先 -夕食-
学校指定のジャージに着替え、僕は食堂へとやってきていた。
そして、クラスメイトに囲まれている。
まあ、話題は未桜の事だった。
辛すぎる。
「新藤、なんで篠田さんいないんだ?」
「僕にもわからないよ…いなくなったんだ」
「新藤くん、どういうこと?」
「朝、家を出るときはすぐ追い付くから先に行っていてって言われたんだよ」
あー、秋山さんのおかげで持ち直していたメンタルが削られていく。
今日を乗り切れば、後は聞いてこないだろう。
「え?篠田さんと新藤くんって同棲してたの?」
「う、うん。退院した直後くらいから」
「新藤くんとの生活が嫌になったってこと?
あの篠田さんが?」
僕に聞かれてもわからない。
むしろ、僕が一番わかってないよ。
もう、いい加減にして欲しい。
ああ、目尻が熱い。
「もう、未桜とは連絡が取れないから僕にもわからないよ」
「連絡が取れないってどういうこと?」
「ケータイ解約されてるみたいだからだよ。
悪いけど、僕部屋に戻るよ」
僕は、夕食の気分でもなくなったので自室に戻ることにした。
部屋に戻った僕は、トイレで盛大に胃酸をぶちまけた。
ああ、辛い。
もう、寝ようかな。
風呂付だから別に大浴場に行かなくてもいいし。
これが後2日も続くとかどんな地獄だよ。
このまま、浜松帰ろうかな。
そう考えているとスマホが鳴った。
メッセージだった。
明花『新藤くん、私明日無理かも』
そんな内容だった。
僕は、すぐにメッセージを返す。
尚弥『どうしたの?大丈夫?』
明花『私、もう帰りたくなっちゃった』
尚弥『そんなことか、じゃあ帰ろうか』
明花『え?』
尚弥『僕も同じことを考えてた』
尚弥『もう、クラスメイトがウザ過ぎて浜松帰ろうかと思ってたんだ』
明花『あはは、新藤くんも同じ状況なんだね』
尚弥『秋山さんもか…じゃあ、2人で帰ろうか』
明花『いいの?』
尚弥『うん、1時間後に迎えに行くよ』
明花『ありがとう、新藤くん』
僕は、メッセージを打ち終わると母さんに連絡を入れた。
『未桜の事を詮索されて、楽しめそうにないから個別の修学旅行しながら帰ってもいいかな?』と。
母さんからの返事は、『仕方ないわね、気を付けて帰ってきなさい。旅費はこっちで出すから』と言う物だった。
後は、担任に事情を説明して修学旅行を早退することにした。
僕は、スーツケースを転がしながらホテルを出て秋山さんの宿泊しているホテルへと向かった。
ホテルの前では、秋山さんが荷物を抱えて待っていた。
「お待たせ、大丈夫?寒くない?」
「うん、大丈夫。ありがとう、新藤くん」
「ううん、僕もきつかったから助かったよ」
僕らは、その足で京都駅へと向かった。
時刻は、21時を過ぎようとしていた。
次の新幹線は、21時半…名古屋止まりか。
「秋山さん、名古屋で一泊になってもいいかな?」
「私、あんまりお金持ってないよ…新幹線代もちょっと高い」
「ん?じゃあ、急ぐ必要もないし鈍行で帰る?」
「え?」
「一度やってみたかったんだよね、鈍行の旅」
京都からだと米原あたりで終点だったかな。
修学旅行もまだ3日もあるんだから。
「秋山さん、僕らだけの修学旅行をしよう」
「あ、うん。新藤くんって不思議。私、そんなこと考えもしなかった」
僕らは、浜松の帰路を楽しむことにした。
失恋2人旅ってとこかな。
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