第31話 報復 -末路-

次に僕が目覚めたのは、真っ白な天井が見える部屋だった。

鼻腔をくすぐるのは、消毒液の匂い。

すぐにわかった。

ここが、病院だということに。


「尚弥くん、よかった」


そう言って、僕を抱きしめたのは未桜だった。

が、直後に腹部に激痛が走った。


「いたっ、ぐぐぐぐ」

「あ、ごめんなさい」


そう言って、僕から離れていく。

そうか、前嶋瀬里あいつに刺されたんだった。

僕は、どうやら生きていたみたいだ。


「未桜、心配かけてごめん」

「ううん、無事でよかった・・・20針も縫っているから無事とは言い辛いけど・・・生きててくれてありがとう」


未桜が、今度は優しく抱擁してくれた。

心臓の鼓動が聞こえる。

生きている。生きているんだ。


「あの後どうなったの?」

「捕まったよ・・・現行犯逮捕。

一緒に暮畑刑事が見てる前で刺されたんだから」


その後、僕は未桜から詳しいことを聞いた。



「うふふ、やった。やってやったわ、ぎゃはははは」


耳障りな声。

許せない。

許せない。

いつまでも、壊れたラジオみたいにしゃべる前嶋瀬里スピーカー

まだ、尚弥くんは生きてる。

お腹には、包丁が刺さったままだから出血が抑えられてる。

お義母さんが、スマホで電話をしてる。

きっと助かるはず。

私のやることは、尚弥くんの代わりに前嶋瀬里クズに分からせること。

私は、彼女に近づく。

パーンと乾いた音が住宅街に鳴り響いた。

私は、力いっぱい前嶋瀬里バカの頬を引っ叩いた。

その衝撃で前嶋瀬里アバズレは、尻餅を付いて倒れる。

それでも、私は止めない。

パパン、パパン・・・と何度も何度も前嶋瀬里ゴミの頬を叩いていく。

その頬が、顔が腫れ上がるほどに。

手が痛い。

でも、尚弥くんの方が痛いはず。


「ぎゃあ、やめてやめてよ。

あんた誰よ、誰なのよ」


私の事すら覚えていないのね。

許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せないユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイ・・・・。

私は、前嶋瀬里粗大ごみの声が聞こえなくなるまで叩き続けた。

それは、パトカーと救急車がやって来るまで続いた。



「えへへ。わたしその後、暮畑刑事に凄い怒られちゃった」


きっと、その時の未桜は怖かったんだろうな。

だから、3人は止められなかったんだと思う。

僕でも、未桜を止めれる自信がない。


「未桜、僕は何時間くらい寝てたの?」


彼女は、首を傾げる。


「時間?違うよ、もう1週間経ったもの。

尚弥くんは、1週間寝たままだったの。

私は、無理言って病院に泊っていたの」


そっか、そんなに眠っていたのか。



その後の事。

前嶋 瀬里は、殺人未遂の罪で現行犯逮捕された。

覚醒剤・違法ハーブの使用により精神に異常をきたしていた。

その利用は、相当幼い頃からだったらしい。

前嶋 茂は、九鬼組の構成員だった。

そして、そこから薬物を手に入れていたらしい。

その薬物を瀬里が茂からクスねて使用していた。

手癖の悪さは、子供の頃からだったらしい。

逮捕されてからの瀬里は、幻覚や幻聴に苛まれ精神病院へと隔離された。

薬物の効果が切れてもこれから先まともな生活は不可能だろう。

居もしない尚弥の霊を視、聞きし続けていた。

自分が殺したと思い込み。

彼女は、綺麗だった髪を掻きむしり見るも無残な髪になっていた。

元々の前嶋 瀬里を知る者はもういないのかもしれない。

彼女の母、前嶋・・・いや鈴木 良子は自身の目の前で娘が人を殺そうとした光景を目の当たりにして彼女と歩むことを諦めた。

そして、一人で自身の故郷へと帰って行った。

前嶋の姓を捨てて。

瀬里が、残した多額の借金は還されることはなかった。

九鬼組は、縮小となる。

そこから、売人ディーラーが芋づる式に逮捕されることとなった。

そして、瀬里が精神病院に収監されて数年後。

彼女は、殺害される。

瀬里が、小学生時代に起こしたある事件の被害者である女の子の手によって。

彼女は、頭部を包帯で覆っていて顔を見ることができなかった。

いや、元より顔と呼べるものは彼女にはない。

なぜなら、皮膚は焼け爛れ表情かおという物が無くなってしまっているから。

それをしたのは、他でもない瀬里だ。

瀬里は、自分の犯した罪に罰せられたということだ。

死神は、自分で生み出してしまったのだろう。


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これにて、第2章完結です

次回からは、第3章がスタートします

第3章 追憶2をお楽しみに

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