第8話 如何してこんなことになったんだろ。

 千世は自分の部屋で悩んでいた。

 ベットの上に仰向けで寝転がり、スマホをかざしている。


 開かれているのは配信サイトμTube。

 そこには自分のアカウントが表示されていた。


 アカウント名は名前にちなんでいる。

 佐鳥千世だから千鳥。そう、逆から読んだら千鳥になるのだ。


 とは言え今はそんなことを考えている暇はない。

 千世はもの凄く悩んでいた。「何でこんなに伸びているんだろう?」「別にたいしたことはしていないないはずなのに」と、勝手に決めつけていた。


「はぁー。アーカイブを非公開にしたらいいんだろうけど……」


 千世は未練を抱いていた。

 せっかく偶然とは言えこれだけたくさんの人に観てもらえたのに、消すなんて勿体無い……とかではない。

 このアーカイブを観て、少しでも面白いと思ってくれている人達に、特に何も悪いことをしているわけではないのに勝手に消すのは、何だか良くないことなんじゃないのかな? と思ってしまったのだ。


「如何しよう……でも、何で伸びたのかな?」


 千世は意外に思った。

 自分のチャンネルに飛んでみると、たった一本の、しかも半分しか映っていない配信アーカイブの視聴率が何故か十万再生もされていた。


 もちろんバズったんだと思う。

 だけど何でバズったのか分からないから悩んでいた。


 初心者の動画投稿者・配信者は百回も観て貰えれば嬉しい。

 だけど一発目でこれだとハードルが上がる。千世は板挟みだった。


「こんなに伸びる何て誰も思わないよ……」


 千世は嬉しいはずだけど落ち込んでしまう。

 だって千世は配信者でもない、ごくごく普通の女子高生。こんなことが間違って起こるなんて、自分の責任とは言え無性に腹が立つ。


「しかも今も伸び続けてるよ。如何して? もう五時間くらい経ったのに……」


 千世は首を捻る。

 視聴数の推移を見てみると、今も際限なく上がっていた。


 配信時間としては三十分程で観やすいと言えば観やすい。

 しかも要点もまとまっていて、一つに凝縮されている。

 だけど千世にしてみれば、撮れ高のとの字もない。苦労して時間を掛けて苦戦した結果の産物だった。こんなのを観ても面白いのか、甚だ疑問で、自分の中で面白いとは言えない。


 それもそのはずで、自分は死に掛けたんだ。

 そんなものを経験として助かったこと、嬉しかったことへの喜びにはできても、自分が観ても大変だったとしか思えないよね?


「もしかしてコメントにヒントが!?」


 千世はコメントを確認する。

 当然アンチもあるけれどプロが多い。



“何で避けれるん?”


“今時回避特化とか珍しいな”


“回避特化ダンジョン配信者爆誕!”


“ミノタウロスって強敵じゃね? それを軽くあしらうとは異次元”


“チート能力だ……あれ? 攻撃力雑魚じゃん”


“躱して避けるで勝てる……才能だろ”


“こんな女の子見たことない! 可愛いしカッコいい!”


“剣折れちゃった。だけど普通じゃない戦い方好こ”



 などなど、嬉しいコメントが多くて少しだけ千世もほっこりする。

 とは言えこれは偶然。きっと偶然上手く行っただけ。千世は身を捩る。


「ちょっと嬉しい……でも、次は流石に怖いな」


 千世はふと自分も何か動画を観ようと思った。

 急上昇ランキングが目に入り、ポチッと押すと、ダンジョンの項目のトップに千鳥の名前があった。


「あれ?」


 アーカイブのタイトルは[あ]。

 適当に付けられたはずのタイトルのアーカイブが一番上に来ているのですぐに目立つ。


 千世はようやく理解した。

 何とも杞憂な事だけど、急上昇ランキングに載ってしまった。そのせいでこんなことになってしまい、流石に驚いて腰を抜かす。


「あ、あはは……って、えっ!?」


 もう一回確認。やっぱりそうだ。

 千世は頭を抱えて恥ずかしさのあまり死にたくなると、自分のチャンネル登録者数の推移も良い感じだと気がつく。


「こ、こんなことってあるの?」


 千世は我に帰る。

 自分のチャンネルの登録者数が、たった一本の配信アーカイブで何と五千人も付いていた。

 流石に驚きも通り越して、もう意味が分からないのが心情で、「今日はもう寝よう」と割り切る方針に切り替えていた。


「きっと夢だよ。朝起きたらつまんないって思われてるよ」


 千世は電気を消した。

 あえてスマホの電源を切り、見ないことにする。

 忘れてしまうのが一番だとしているが、内心では恥ずかしくて掛け布団で顔を覆った。


「も、もう! な、何でなの! な、何でこんなことで悩まないといけないのぉ!」


 千世はなかなか眠れない。

 しかしさっきのが夢になることはなく、千世は恥ずかしさなあまり、夜も眠れなかった。

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