第6話 報酬はクリスタル?

 ミノタウロスが動かなくなった。

 千世は恐る恐る近付く。


「た、倒せたのかな?」


 千世が近付いてみても、ミノタウロスは動かない。

 もしかしたら倒せたのかもと思い安堵すると、急にミノタウロスの体が光り出した。


「な、何!?」


 千世は危機感を感じて距離を取る。

 素早い動きに自分でも驚く程で、ミノタウロスが仮に起き上がっても、絶対に攻撃を喰らうことはない距離まで来る。


 一体何が起きているのか、ここからならじっくり観察できそうだけど、千世はビビってしまってその余裕はない。


「だ、大丈夫だよね?」


 千世は怯えながら呟く。

 するとミノタウロスの体が光の粒子へと姿を変えて行く。あまりに唐突な出来事に、千世はびっくりしたけど、とりあえず勝ったと認識できた。


「よ、良かったあー」


 ようやく安堵する。

 千世は倒したことへの高揚感は特になく、普通にこれで怯える心配がなくなったと、ゆっくりと膝が折れた。ペタンと座り込み、動けなくなる。


「はぁー」


 大きな息を一つ付いた。

 千世は全身の緊張感が解け、完全に動けなくなる。

 目の前ではゆっくりとミノタウロスが消滅していて、「ごめんね、ミノタウロス」と勝った余韻よりも自分みたいな雑な戦い方で勝ってしまったことに罪悪感を抱いてしまう。


 コトン!


 ミノタウロスが粒子になって行く中、千世の突き刺した剣が床に転がる。

 先端が完全に折れてしまっていて、使い物にならなくなる。


「せ、せっかく貰ったのに……」


 市役所で貰った剣がこうも簡単に折れちゃうなんて。やっぱり頭蓋骨ごと貫通させるのは相当危険だった。


 今になって思えば本当に紙一重だった。

 分かっていて躱さなかったから今回の作戦が通じたけど、ちょっとでもミノタウロスが変な動きをしたら千世の命もなかったと思うと、本当に危険な賭けに勝ったと千世は少しだけ自信を持った。


 そうこうしていると、ミノタウロスの姿はいつの間にかなくなっていた。


 コロン!


「コレは魔石? 凄い、スライムの時と比べ物にならないよ」


 ミノタウロスが完全に消え、中から魔石が転がる。

 赤紫色をした手のひらサイズの大きさで、千世はベルトのポーチに収納する。ちょっとだけ重たくて、重量感を感じた。これが命の重さなんだと痛感する。


「とりあえずミノタウロスはいなくなったけど、この後は……うわぁぁぁぁぁ!」


 急に広がった部屋がガタガタと揺れ始める。

 天井が軋み、大量の埃が落ちてくると、徐々に縮小し始めた。


「な、何々!? 今度は何が起きてるの!」


 千世は怖くなる。

 カメラドローンも山から降下してきて、頭にぶつかりかけるが、スッと首を捻って避けた。


「やっと!」


 千世はカメラドローンを回収する。

 それから部屋が大人しくなるのを座って待っていると、天井からクリスタルが、それから地面から台座が飛び出る。


「あっという間に元に戻っちゃった」


 ミノタウロスと戦っていた自分が遠くに感じる。

 まさかこんなに早く元に戻ってしまうなんてと、ダンジョンの構造がよく分からない。だけど綺麗なクリスタルが目の前にあり、「やっぱり綺麗」と口走っていた。


「とりあえず今日はこれで終わりかな?」


 千世はゆっくり立ち上がる。

 流石にそろそろ帰ろうと思い振り返った。

 するとまたしてもクリスタルがポワーンと光出す。だけど今度はさっきの人色が強く、白が強調された。


「うわぁ、さっきよりも眩しい」


 千世は片手で目の前を覆う。

 光をある程度遮ると、視界の先に黒い影が落ちた。


 クリスタルの先端から何か落ちている。

 千世は首を捻ると何故か超能力でも発動しているのか、黒い影がゆっくり千世に近づく。


「もしかして攻撃されるの?」


 千世は少し身構える。

 しかしそんなことをする必要性も特になく、黒い影は塊で、千世の手のひらの中にすっぽり収まった。


「な、何コレ? 硬い……えっ!?」


 千世は目を見開く。手の中に収まっていたのは、綺麗なクリスタルだった。

 何でクリスタルの中からクリスタル? と、千世は思うものの、クリスタルからクリスタルが出てくるのは普通なのかもと、逆に考えてみる。


「ちょっと待って。何でクリスタルが貰えたの?」


 問題はそこだ。如何してミノタウロスを倒したらクリスタルが貰えたのか。しかもかなり大きなサイズ感で、加工されたもののようだ。

 もしかして誰かが意図的に仕掛けていたものを、自分が勝手に作動させてしまったのかな? 千世は「ごめんなさい」と謝った。


「貰ってもいいのかな?」


 流石に売れるものじゃなかったし、売りたくなかった。

 家に帰ったらちょっと加工してみようかな。

 千世は少しワクワクする。


「ありがとうダンジョン」


 千世は大変だったけど、それなりに有意義な休日を過ごせた気がする。

 柔らかな笑顔を浮かべたまま、ダンジョンの外へと出る。しかしこの時の千世は気が付いていなかった。

 この時既に、千世の笑顔は全世界に広まっている・・・・・・・・・・ことを。

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