第41話 終結の宿命(3)
「時間をかけていても周りに迷惑だ。これで決めさせて貰うぞ」
いつまでも止まりそうにない猛攻に辟易したように、メルティアは相手の攻撃範囲外まで距離をとると炎と水の剣を体の前で合わせた。
「ゼロ・アビラ」
イメージをより強固にする為に、メルティアが技名を呟く。
打ち消し合うはずの二つの自然元素。それが触れた瞬間、一人の魔力から発生した赤と蒼は混ざり合い、焔を纏った水の刃と化した。そして次の瞬間、
「この世との別れは済んだか?」
メルティアが口ずさんだ言葉は白ゴーレムの目の前で謳われ、反応することすら許さずに頭部に吸い込まれるように差し込まれ──
──そうになった瞬間、メルティアの周囲を白い粘土が包み込み、内側からいくつもの触手が伸びたかと思うと、全身をくまなく拘束した。
『ははっ。コアを狙ってくることはわかっているのだ。ならこうしておけば自分から罠に飛び込んでくるだろう?』
まんまと捕えてやったと息巻き、
強度と伸縮性があるのか、白い触手はメルティアの力で引いても千切れない。
肉食獣は獲物を仕留める時に最も油断する。
そんな格言がバークの頭の中を過ぎり、助けに向かおうと一歩踏み出すが、予想以上に魔力を消費したのか、ガクンと足がもつれ地面に片膝を着いてしまった。
『お返しとして問おう。この世との別れは済んだか?』
勝利を確信しきっているのか、内部に隠れていたはずの
片目で敵である
『そういえば
愉悦に酔い、敵の血を勝利の美酒として味わおうと黒い歯に牙を生やす。
「やめ……ろ……」
呼吸の感覚が短くなり、体だけでなく頭まで働かなくなってきたバークが、フラフラとしながらも前へ進んでいく。
先程から指輪の
八方塞がりの状況で、とにかく身を呈してでも助けたいと気力を振り絞っているが、足は遅々として進んでくれなかった。
そんなバークの視線の先で、人を丸飲みしそうな程に開かれた口が迫る中。
「血を飲まれる前に、聞きたいことがある」
メルティアは黒い牙に怯えるでもなく、気品を保ったままの落ち着いたトーンで言った。
「罠を仕掛けられている前提で飛び込んできた、という予測はしなかったのか?」
何を言われたのか理解できなかったのか。
手袋の中指の付け根部分に、銀色の光がコンッと当たって跳ねた。
「〝消し去れ〟」
メルティアが呟いた瞬間、咄嗟に身を伏せた手袋の半分近く消失した。
突然の出来事に
『がっ……』
緩んだ拘束から抜け出したメルティアの強烈な蹴りが炸裂し、あまりの衝撃に地面にぶつかった瞬間、周囲の瓦礫が跳ね上がった。
「だから言っただろう? 舐めてかかるなと」
スタッと軽やかに続いて着地し、一緒に落ちて来た
その正体はスナッファー。ろうそくの火を消す金属製の道具だ。
どうやら火ではなく対象範囲を消し去る能力があるらしい。拘束される前に予め空に投げておいたのだろう。そんな道具があったにもかかわらず使用しなかったのは、
バークはメルティアの無事を視認し安堵に胸を撫で下ろすと、すべてを見届けようと重くなった足を動かし近づいていった。
『くそ
もう抵抗する力も失ったのか、白ゴーレムも疑似足も消え去り、地面で藻掻くだけとなった大きな手袋。
ただ口だけは健在のようで、罵倒する声だけが瓦礫の山に木霊していた。
「最後に一つだけ問おう。お前たちの王はどこにいる?」
片目だけで文字通り見上げるように睨んでくる
当初の目的。
それを達成する為に、相手の居場所を今際の際に吐かせようとするが、
『お前たちがいくら捜そうと、彼の王を見つけることはできない。万一相対することができたとしても、悲願を成し遂げることは絶対に不可能だ』
暗に〝教えるつもりは毛頭ない〟と告げる口に、メルティアは深い溜め息をつく。
これだけの非道を行った者が素直に答えるはずがない。わかりきっていたことだが、街の被害を思うと得られるものが無いというのは落胆するには充分な材料だった。
「お前に慈悲はない。
そう言うとメルティアは無造作に
不意打ちを警戒すべきだが、その必要性すら感じていないのかスッと相手の眼前に立つと、右手を伸ばし赤黒くなったコアに手のひらを当てた。そして、
「我が手に抱かれて眠れ」
抵抗すら見せない
コアは乾いた音を立てながら、細かな欠片となって砕け散った……
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