第37話 変革(1)
「俺の体が……」
太ももまで灰色に染まっていたバークの左半身が、みるみる元の肌色を取り戻していく。
「元に戻った」
まったく動かなかった左腕が動き、問題なく握れるようになった拳に、バークは感動すら覚え表情を輝かせた。
「血を補給したことで、一時的に呪力を跳ね除けるほど魔力が極限まで高まったみたいね」
「今のバークさんなら、相手の呪いそのものをほとんど無効化できると思います」
〝やったじゃない!〟とメルは喜び、ティアは心強い笑みを浮かべる。
体が動くなら援護ではなく共闘ができる。
魔力が高まったとしても、暴れ回る
「これならあいつと戦えそうだ。ありがとうダリア」
バークは血を提供してくれた恩人に感謝し、動くようになった左手で握手を求める。
「お役に立てて良かったの」
ダリアはふわりと微笑むと、優しく手を握り返す。
大切な血を分けて貰ったからにはもう迷わない。人も街も仲間も力の限り守り切ってやる。
バークは決意を新たにし、そっと手を離すと仲間の二人を見やった。
「私たちの体調も万全です。
「絶好調になったバークの力、見せて貰うわよ」
ティアとメルも意気揚々と闘志を覗かせる。
今も白い手袋は挑発を繰り返しながら街を破壊し続けている。
身を隠す時間はもう終わり。ここからは
「ダリア、安全な所で待っててくれ。必ずあいつを倒してくるから」
「わかったの。無事に戻ってくることを祈ってるの」
バークが誓いを立てると、ダリアは一瞬フラついたものの、大丈夫と告げるように頷いて街の外壁方面へ歩いていく。
あんな状態になるまで身を捧げてくれた彼女を不幸になんてさせない。
弾け飛ぶ建物の瓦礫を遠くに眺めながら、バークはグッと拳を握った。
「俺に一つだけ作戦がある。ちょっと耳貸してくれるか?」
ただ闇雲に突撃しても攻撃を防がれてしまう。
メルとティアは静かに耳を傾けた。
『まだ出てこないのか? なら今度は先程の人間たちを壊して回るぞ!』
周辺の建物を壊し尽くしても現れない
そして次は街ではなく、芸術作品へと変えた人間たちを殺しに行くぞと脅しをかけてくる。
相手が有言実行する前に、バークたちは事前に打ち合わせた作戦を決行した。
『やっと姿を現したか。怖くなって逃げたかと思ったぞ。さあ、競争の続きと行こうじゃないか』
各自分散ではなく、三人揃って瓦礫の山と化した場所へ出てきた
ある程度距離があるからか、バークがティアに貸して貰った黒い手袋を左手に着けているからか。バークの石化が治ったことには気づいていないようだ。
「生憎、こっちはあんたに付き合う気はこれっぽっちもないわ」
「
メルとティアが好き勝手やっていた相手を挑発する。
そしてメルが身の丈はある炎の槍を作り出し柄を摑むと、
『近付けないから遠距離攻撃か。しかしどんなに強力な攻撃でも、当たらなければ無意味だ』
力の浪費を気にしてか無効化せず横に動いて躱した手袋に、メルは悔しそうな表情を浮かべる。
『遠距離からでは私に一撃入れることなどできないぞ』
やはり近距離攻撃しか手段はないとバークは確信しつつ、柄を握る手にグッと力を込め。
「遠距離ならな」
「燃え尽きろ!」
振り向きかけていた手袋の中央部に、灼熱が深々と突き刺さる。
槍は貫通せず片目を貫き、燃えやすい毛糸が故に炎は瞬く間に全身に拡がった。
『ああああぁぁぁあぁああぁぁっ──!!』
コアまで炙られ断末魔の如き悲鳴を上げる
伸ばしていたムチ指は無作為に暴れ、瓦礫の山を叩きさらに細かく潰していく。
バークは巻き込まれては危険と、地面に着地した瞬間に全速で離脱し、自分自身と仲間二人がいる場所へ合流する。
直後、大量の水が
水といえばティアの得意技だが、もちろん彼女は敵を助けるようなことをするはずがない。
煤の混じって黒くなった液体が白かった手袋を伝い流れ落ちていく。
煙と蒸気が風に溶け消え中から現れたのは、歯と同じように大半が黒くなった
『先程の……
二人並んでいるバークの顔を見て、
わずかに白い部分は残ってはいるが、ほとんどが焼け落ちたか黒く煤けていて、強い風に吹かれればボロボロと零れていきそうだ。
本体のコアも焼けた跡があり、熱で炙られたせいか亀裂が入っている。
あと一撃加えることができれば、コアそのものを破壊してしまえるだろう。
「見事に騙されてくれたわね」
消えゆくもう一人のバークとティアの横で、炎を放ったメルが口角を上げ軽口を叩くと、横手の道からティアが姿見を持って出てきた。
カラクリは至って単純だ。
まず鏡の
そしてバークが敵の後方に隠れて待機し、唯一本物であるメルが投げた炎の槍を相手が避けたのをバークが掴み、死角から投げ返したという流れだ。
姿見の
単純な作戦ではあったが、いろんな要素があったからこそ成功した。
「お前は多くの人間の心を傷つけた。逃がしはしない。その報いは受けて貰うぞ」
石化の呪いを解除したことを悟られないように着けていた手袋を外し、本物のバークが左手の人差し指で
元の体に戻っていることがバレれば、何かしらの変化があったことに感づかれてしまうし、三人が揃っていなくても警戒される。多少の準備は必要だったが、終わるまで発見されなかったのが僥倖だった。
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