第2話 カルロス様の姿を思い出しては…

ものすごいスピードで走り校門までたどり着くと、そのまま馬車へと乗り込んだ。


一体何なの?あり得ない!


カルロス様のあまりにも強烈な姿に、未だに心臓がバクバクいっている。まさかぬいぐるみに頬ずりするだなんて。でも…


完璧な男とまで言われているカルロス様にも、あんな可愛らしい姿もあるのね。締まりのない顔でぬいぐるみに頬ずりしている姿を思い出し、つい笑いが込みあげてきた。


ダメよ、笑ったら。人には他人には知られたくない趣味の一つや二つあってもおかしくはないわ。それにしても、カルロス様がまさかあの様な可愛らしい女の子のぬいぐるみが好きだっただなんて。やっぱりおかしいわね。


再び笑いが込みあげてきた。


でもきっと、私にあのような姿を見られてしまって、ショックを受けているかもしれないわ。もちろん私は、彼の秘密を誰にも話すなんて事はしないけれど。


明日一度彼に話しかけて、私は誰にも言うつもりがないと伝えようかしら?でも、もしかしたらもう触れて欲しくないと思っているかもしれないし。


う~ん…


考え込んでいるうちに、屋敷に着いてしまった。


「ルミナス、今何時だと思っているのだ!随分帰ってくるのが遅いから、今使いの者を学院に送ろうと思っていたのだよ!」


怖い顔をして待っていたのはお兄様だ。


「遅くなってごめんなさい。はい、お兄様に頼まれていた件、ノートにまとめてきましたわ」


「もしかして、この件を調べていて遅くなったのかい?俺は本を借りてきてくれと頼んだのだよ」


「あら、まとめておいた方がいいでしょう?」


「確かに助かるけれど…でも、こんなに遅くまで学院に残っているだなんて!万が一変な奴に絡まれでもしたら、どうするつもりだ!」


変な奴…


ふとぬいぐるみに頬ずりしているカルロス様の、締まりのない顔が脳裏に浮かんだ。


「ブッ」


ダメだ、何度思い出しても笑いがこみ上げてくる。


「ルミナスちゃん、おかえりなさい。あら?なんだか楽しい事があったの?そんなに嬉しそうに笑って」


私たちの元にやって来たのは、お義姉様だ。


「何でもありませんわ。さあ、屋敷に入りましょう」


涙目になりながら必死に笑いを堪える。


「よくわからないが、ルミナスは今日学院で楽しい事があった様だな。でも、あまり遅くなるような事は、今後控えるように!」


すかさずお兄様に怒られてしまった。


「ええ…分かりましたわ…」


「…分かればいい…母上も食堂で待っている。ルミナスも早く着替えておいで。夕食にしよう」


「分かりましたわ、着替えてきますので、先に食べていてください」


そう伝え、急いで自室へと戻る。部屋に入った途端…


「ヒィィヒヒヒヒ!あぁ可笑しい、もうダメ」


そのままベッドに転がり込み、お腹を抱えて笑う。もうダメ、おかしすぎるわ。そもそもいつも眉間に皺をよせ、女どもは俺に近づくな!みたいな顔をしているカルロス様が、鼻の下をビヨーンと伸ばして、ぬいぐるみに頬ずりしているだなんて。


「ヒィィィ、ヒィィィ、グルジイィ」


おかしくてたまらないのだ。


「…お嬢様、屋敷に帰ってくるなり、狂ったように変な声を出して笑い転げるのはお止めください。さすがに見苦しいです…」


近くに控えていた専属メイドのミリーが、顔を引きつらせこちらを見つめている。


「し…失礼ね…ヒィィィ、おかしくて…笑いが…」


笑いすぎて息も出来ないため、だんだん苦しくなってきた。


「だ…だずげでぇ…ミジー…」


「誰がミジーです。あなた様は私の名前を忘れたのですか?ほら、しっかりしてください」


笑い転げる私を起き上がらせるミリー。


その時だった。


「ルミナス、一体どうしたの?大丈夫なの?」


「ルミナスちゃん、大丈夫?」


中々食堂に姿を現さない私を心配して、お母様とお義姉様が様子を見に来てくれたのだが…


「大奥様、若奥様、お嬢様はあの様な感じでして…」


「ちょ…ミジー…ヒィィヒッヒッヒ、勝手に扉を…ヒーィィィ、開けないで」


勝手にドアを開けるミリー。お母様とお義姉様が部屋に入って来た。そして、顔を引きつらせて固まっている。


「ミリー、ルミナスは一体どうしちゃったの?」


「それが、部屋に入って来た途端、あの様な感じでして…私の事も、ミジーと呼ばれますし」


よほどミジーと呼ばれることが気に入らない様だ。でも、今はそんな事、どうでもいい。なぜか笑いが止まらないのだ。


「とにかく、何か変なものを食べたのかもしれないわ。すぐに医者を呼んで」


「お母様…ヒィィィヒッヒッヒ、医者は…ヒィィィッヒッヒッヒ」


不要と言いたかったのだが…笑いが止まらず、結局医者の診察を受ける羽目になったが、もちろん、異常なしと判断されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る