第5話 ガチャを引くその前に
ソシャゲで一番何が面白いって、正直俺はどこまで突き詰めてもガチャだと思う。
良質のストーリー? いいね。ガチャの興奮をより高めてくれる。キャラの魅力? 素晴らしい。キャラガチャを回す意欲になる。育成? まずはガチャを回してからだ。
だがその射幸心の煽り方がちょっと病的な部分もあって、ガチャは好かれると同時に嫌われている側面もある。
俺みたいに給料全部を石(ガチャを回すための資材)につぎ込むのは特に廃課金と呼ばれ、蔑まれる存在だ。食事はカップラーメンで十分。だから早死にするんだ。
だからというか、何というか。俺の危うさを感じ取ったのか、クロは「ああ、『捜索の魔術』のことだね」と納得を示してから、言った。
「まだダメ」
「何で!?!?!?!??!?!?」
「うわ声うるさ」
俺の声が、大学の研究室中にこだまする。俺たちは犬人間とキショ巨人を処してから、大学に戻っていた。
暗い研究室のランプの光を受けながら、クロが目を丸くして俺を見る。
「いやダメだよ。ひとまず簡単な怪物は貸したけれど、行ったことのない場所に足を延ばすなら、十分な戦力がいるじゃないか。つまりは、怪物少女の協力が必要だよ」
「……? 行ったことない場所……? 足を延ばす……?」
何か話の前提がかみ合ってない気がする。俺が首をかしげると、クロも怪訝な顔で首をかしげる。
「だってそうだろう? 『捜索』の魔術から始まる捜索は、一日二日を優に要する中々の大仕事だ。力も要るし戦力も要る。まず協力者を募らないことには始まらないんだよ」
「何か想像と違う」
「どんなの想像してたんだ君は」
「ガチャですよそりゃ」
「だからガチャって何さ」
俺たちの会話は平行線だ。ぐぬぬぬぬぬ、とお互いむっつり睨み合っている。
まぁでも確かに、ゲーム通りのガチャではないのだろう、という想像はしていた。キャラがダブると欠片になって、集めると限界突破、とか意味わかんないもんな現実だと。
そもそもダブる、という現象が現実でどのようにして発生しているのか、という興味的な部分もある。あくまでもゲーム画面は俺の魔術で、現実が先にあるみたいだし。
ともかく、仕方ない、と俺は我慢する。憤懣やるかたないが我慢だ。
「……確かに。この世界って基本魔境だもんな」
俺の育った村などは特別平和で、その特別平和な村が怪物に襲われて壊滅しているのだから、この世界のひどさも分かろうというもの。
すると、ニヤリ笑ってクロは言う。
「君は存外物分かりがよさそうだ。今後もその調子で頼むよ」
「え、褒めてくれた。好き」
「君惚れっぽ過ぎない?」
やべ、また漏れてた。ちょっとー好意の栓ゆるゆるすぎんよー。
「ごめん言い間違い。好きじゃなくて
「君の実家滅んだよ」
「そうだった」
俺を出してテヘペロの顔をする。クロがとても嫌そうな顔で俺を見る。可愛い。
にしても、推しとこうやって対面で話せる環境、超いいなぁ。と俺は幸せを噛みしめながら「じゃあまず、誰か怪物少女の協力を取り付ける必要がある訳だ」と尋ねる。
「そうだね。君の切り替えの早さには小一時間ほど物申したいけれど、ともかくそこから始めるべきだ」
「よし。じゃあ早速、その協力者の募り方を教えてくれ」
俺が促すと、クロは言った。
「もう来てる」
「んっ?」
「しかも二人。いがみ合う陣営の二人だ。どちらも幹部格で、強力な力を持っている怪物少女になる。とてもとても厄介な二人だ」
クロは、意地悪な笑みで俺を見る。
「そんな二人が、この『大学』という特別な地に侵入したのは誰か、という警戒の為、ここに来た。これをいなし、口説き落とし、協力者にするのがマスターの今晩最後の仕事さ」
ニヤリと口端を持ち上げて、クロは説明した。俺は首を傾げる。
「クロが話を付けてくれるんじゃないの?」
「ボクが? 冗談を言っちゃいけないよ。君以外の誰がボクを見えるって言うのさ」
「ああそうか。指輪をつけなきゃ見えないのか」
ん?
「指輪外して渡せばクロとその人話せるじゃん」
言いながら俺が指輪を外そうとすると、ムッと口をへの字にしたクロが俺の手を掴んでくる。
すると、指輪がきゅっとしまって外れなくなった。えっ、やだ可愛い。外れない困惑よりクロが俺から外れたがってないことの喜びの方が大きい。
「素晴らしい可愛さだ……」
「かっ、かわっ?」
動揺するクロに、俺はハッとする。可愛すぎて思わず拍手していたようだ。
「間違えた。素晴らしい詳しさだって言った。クロはなんて詳しいんだ。素晴らしい」
「いや、そろそろ無理だよ。もう言い繕える段階ではなくなりつつあるよ」
「いや、まだ行ける。まだ俺の愛はバレてない」
「言ってる! 愛って言った! 今愛って言った!」
「言ってない言ってない」
「言ったって!」
クロは頑強に食い下がってくる。くぅ、マズいぞ。俺がクロ大好きなバレてしまう。何とかして隠し通さなければ。
「ねぇ、君は何でそんなにボクのことが好きなの? 外見かい? 幼女趣味かい? まさか性格じゃないだろう?」
「え? 性格も大好きだけど。あ」
また口滑ったわ、と俺は口を押える。おい俺の口ガバガバすぎんよー。思ってること全部出ちゃうじゃん。
そんな俺の正面からの失言に、クロは目を見開いて、赤い顔で俺を見た。
「っ……!? !? ……っ?」
めっちゃ照れている。ゲームでも性格の悪さがコンプレックス、みたいな話あったからそれかな。
『こんな性格のボクが誰に好かれるって?』とか自嘲してたシーンが俺のお気に入りだ。恋愛ゲーム的な観点だと、クロの弱点は性格褒め一択になる。可愛い。
「言葉を失っている……。でもさ、俺思うんだよ。常に余裕ぶってる黒幕ポジのキャラが慌ててる姿からしか、摂取できない栄養素があるって」
「……ぼ、ボクはもう知らない! 君一人でやりたまえ! もっとも、君のように威厳のない教授では上手くいかないだろうけどね!」
「嫌われちゃった……悲しいね」
クロは捨て台詞を吐いて、少し離れたソファの裏に隠れてしまった。チラとこちらを覗き、赤い顔で睨んでいる。
……何だあの可愛い生物。アレで『自分は好かれない』って考えてんの? 愛おしすぎない? 甘やかさないと……。愛され生物だって自覚させないと……。
と、そんな事を考えていると、足音が聞こえてきた。
俺は視界端の星マークをタップして、ゲーム画面を起動する。サイズは視界の隅っこに収まる程度に留めて、状況を確認する。
お、すでに画面はストーリーモードに入っている。これは……ああ、メインストーリー冒頭だなこれ。黒塗りの立ち絵も表示されている。ということは、あの二人だろう。
「……威厳ね」
確かに指揮を執るという形でしか物事に干渉できない俺は、ある程度の威厳がないとダメかもしれない。いいアドバイスするじゃないか、と俺は微笑する。
なら、こんなのはどうだ。と俺は手近な椅子に腰かけ、足を組んだ。ランプの明かりが俺を怪しく照らしている。いい感じだ。出迎えの雰囲気はばっちりというところ。
カツ、と足音がこの部屋の入り口に差し掛かる。扉が開く。俺は微笑みを湛えて、その姿が現れるのを待った。
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