鬱展開ソシャゲのモブに転生したけど、俺だけ見える【ゲーム画面】で推しの怪物少女たちを救います-ケイオスシーカー!-

一森 一輝

チュートリアル「アーカム市街占領戦」

第1話 転機は死体漁りから

 断言するが、「好きなゲームと転生したいゲームは同じとは限らない」ってことだ。


 例えばダークファンタジー系のゲームが好きな奴は、これによく当てはまると思う。陰惨で人間がバンバン死んで「どうすればまともな生活過ごせんだよ」ってゲーム。


 もちろん好きなゲームだから、良い点はたくさん知ってるんだ。俺の場合は可愛いキャラがたくさん出てくるとかさ。そのキャラたちが、みんな主人公を好きなのも良いよな。


 まぁ、だからさ、つまりは――――俺が、そういうゲームの世界に転生しちゃったって話なんだけど。


「……うわぁ」


 横行する多種多様な怪物の襲撃。対応する村人たちが、行使する魔術。展開されるは血みどろの戦い。俺は一発で悟ったね。「あ、ここあのゲームの世界だ」って。


 そこでさらに思うのが、「アレ? じゃあ俺、登場人物の中の誰なの?」ってこと。考えたけど俺に該当するようなキャラなんか居ないんだよな。つまり俺は、モブ決定ってわけで。


 ダークファンタジー世界のモブってさ、割と最悪じゃないか? だって話の流れで大量に死ぬじゃん。その死体の山に俺が混ざってても、きっと誰も気にしない。


 唯一の安心材料は、俺の親が子供を守れるような立場だったってことだ。魔術使えるし、怪物を追い払える村に住んでるし。


 本編に関われるか、みたいなところは微妙だったけど、ひとまず無事に生きていけるかどうかって点では、悪くないと思ってた。ゲームの基本の世界観が最悪だから、マシだなって。


「怪物どものこともある……。可哀想だが、この子はこの村で養えん」


 親からそんな言葉が飛び出た時の、俺の絶望ったらなかったね。


 実の父親はそう言って、まだ小さかった俺をはした金で売り飛ばした。そんな壮絶な人生の始まりあるか? って俺は、幼いながらずっと頭抱えてた。


 売り飛ばされた先は農家で、俺は子供というより農奴だった。一応その家の子供として扱われてはいたが、明らかに実の子供連中に比べ扱いが悪かった。


 そういう親の態度を、子供は敏感に感じ取るもんだ。だから実の子供連中は、一番年下の俺を容赦なくイジメた。やり返しても告げ口しても、状況が悪くなるのは見えていた。


 ゲームの本編がどこでどう進んでいるかなんて、さっぱり分からないほどのモブだった。


 唯一幸いなのは、怪物の襲撃が少ない地域だったことか。だから俺は死ぬような目には合わずに生きてきた。でも、それと幸せなのかは全く別の話だ。


 一体何年が経っただろう。小さな村で凝り固まった人間関係は、ずっと変わらない。大人になっても、俺はみんなにペコペコするだけ。


 耐えるだけの人生だった。一応好きなゲームに転生したっていうのにモブで、何のチートもなくて、死なないだけのつまんねー人生だなってずっと思っていた。


 だから村が怪物に襲われて壊滅したと知って、俺は呆けた。


「……うわぁ」


 夕焼けの差す村に、見慣れた顔の死体がゴロゴロ転がっている様子は、実に嫌なものだった。


 俺は街への納品帰りで、俺だけが助かったらしかった。村人も奮闘したのか、怪物の死体なんかも転がっていた。


 この辺だと犬人間とか呼ぶ怪物だ。こいつらが襲撃したのか。


 村からまったく気配を感じなかったから、俺は恐る恐る自分の家の中を覗きに向かった。怪物は引き上げたのか居ないようで、遭遇することはなかった。


 家の中で、冷遇してきた育ての親も、俺をイジメてた兄貴たちも、全員死んでいた。


「……冥福くらいは祈っておこう」


 俺は黙祷を捧げてから、どうしたもんかと考える。


 ともかく、この村を離れよう。人がいなくなった村は危険だ。野盗が来てもおかしくない。怪物たちがもう一度襲いに来ないとも限らない。そうすれば、まず間違いなく俺は死ぬ。


 俺は着の身着のままで、自分の荷物だけを担いで家を出た。とりあえず、納品先の街に戻るのがいいだろう。あそこには城壁がある。怪物から身を守れる。


 そう思いながら村を横切る中、俺は路上で見逃せないものを見付け、足を止めていた。


「……ん、んん?」


 俺はその物体に近づいていく。一刻を争う状況だが、それでも俺は、どうしてもスルー出来なかった。


「……この人誰だ?」


 それは、転がる死体の一つだった。他のいくつかの死体同様に首がない。


 では何故気になったのかと言えば、その服装が原因だ。


 茶色のダウンコート。高級そうなシャツ。辺境の農村には似つかわしくない。明らかにこの村の人間ではなかった。


 例えるなら―――貴族、探偵、教授。そういう雰囲気の服装だ。


「失礼します」


 何かある。見逃してはならない何かが。


 そんな確信に突き動かされ、俺はその死体から服を剥いで、中身を改めた。


 持っているものは、高級そうなものばかりだった。懐中時計。妙な指輪。銀の鍵。他にも見たことのない通貨が、それなりに入った財布なんかもあった。


「……」


 俺はむっつりした顔で、服の上に並べた品々を見つめる。脳に、チリチリとした既視感がある。


 何か、引っかかる。どこかで見た気がする。今世ではない。ド田舎生まれモブ育ちの俺に、こんな重要そうなアーティファクトっぽいアイテムを見る機会はない。


 つまり、ゲームに登場したアイテムだ。ゲームの本編に関わる何かだ。


 俺はしゃがみ、腕を組み、じぃっとそのアーティファクト類とにらめっこする。


 前世の記憶が役に立つなんてこと、正直今世ではほとんどなかった。これが大好きなソシャゲ世界だと分かっていながら、だ。だから、中々これらが何なのか分からない。


 俺は唸る。必死に考える。あのゲームのアイテムのどれだ。場合によっては、ゲームの本編に関われるかもしれない。俺の人生が、モブで終わらずに済むかもしれない。


 どこだ。どこで見たことがある。俺は前世の記憶を総洗いし、ついに閃いた。


「えっ」


 そして期待を上回りすぎるというか、灯台下暗し過ぎる答えに、硬直した。


「……いやいやそんなまさか」


 そんな、ねぇ? 宝くじで一等が当たるようなもんじゃないですかそんなの。


 俺は銀の鍵を手に取る。手からはみ出しそうなほど、大きなカギだ。そのカギを、暮れ始めた太陽の方に向けて、俺は九回ほど回した。


 あと、呪文だったか。ええと、確か。


「無名の霧よ。窮極の門よ。我が道を示したまえ」


 カチッ、と音がする。パカ、と空間そのものが、まるで扉のように開く。その向こうには薄暗い謎の空間がある。


「……」


 俺は無言でその扉(?)を閉めてから、鍵を見つめ、こう言った。


「ワースゴーイ、『ケイオスシーカー!』の主人公が持ってたアーティファクト、『銀の鍵』だー」


 メチャクチャ棒読みの声が出た。

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