堕落天使

睡眠欲求

走り書き

雨上がりだからと言ってそれを何かの言葉に置き換えることは幾多の作家が綴ってきた。だが言葉に表すことのできない情景や匂いなどが漂っている。それがいわゆる第六感というものだろう。私はそう思う。吾輩と言う猫も写真に写った薄気味悪い子供も雨が止むのを門の下で待つ下人も全て中心人物という肩書きがあるだろう、と言っても私が中心人物になる時といえば一人で二階の窓を開け煙草を吹かすとき、一人で酒を飲むとき、原稿用紙にペンを置くときである。


もしそれ以外にあるとすればきっと死ぬときだろう。むかし漫画を描いてみたいと思ったことがあった。頭の中で空想する物語が大変面白いモノだと思ったからだ。私の中ではそう思っていた。きっと後世に語り継がれる傑作になるだろうと、だが私は絵が下手だった。下手というよりか描くことすらままならなかった。漫画を描くのは諦めた。むかし音楽を作ろうと思ったことがあった。だが楽譜が読めなかった。


私の人生は諦め続きだった。透明人間というモノを信じていたし心が読める人がいると思っていた。階段を登り寝室に向かうといつものようにカーテンを閉めた。念入りに何回もカーテンの縁を握る。心の中が空っぽになる感触を味わうのは毎日のことだった。決まった足で寝室を出て廊下に向かう。数歩進んだところで折り返し寝室に戻った。扉を閉め、左右交互に手でドアノブ握る。次に椅子の位置を調整し、空っぽを埋めた。跳び上がるようにベッドに乗った。照明を決まって三回点けて消す。シーツに潜り込んだ。

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