クラス新聞係は異世界に行く
笹野谷 天太
第1話 クラス新聞係の2人、異世界へ行く
一条小学校5年3組の
月に一度、クラスや学校で起きた出来事や事件を調査し、それを新聞として発行する『クラス新聞係』。そのクラス新聞係になって早7か月、放課後の教室で2人は机を挟んで向かい合い、頭を抱えていた。
「なにか思いついた?」
マナが聞く。
「なにも」
洋太は短く答えた。
「だよねー。先月の先生が小学生の頃の給食のメニューと遊び。アレはみんな喜んでくれたよね」
「アレも締め切りギリギリで思い付いた苦肉の策だったけどな」
2人は溜息を吐く。
月に一度とは言え、頻繁に事件など起こるわけもなく、新聞にできそうなネタが見つかっていない状況が続いていた。
つまりはネタ切れである。
最初はクラスメイトの事やクラスで決めたルールの事などを取り上げ、占いコーナーや匿名の相談コーナーなどの充実を見せていたが、月日が経つにつれて同じような内容を書くことが多くなり、ついにネタ切れになってしまったのだった。
そして1週間に1回、洋太とマナは打ち合わせとして、放課後に残ってアイディアを出し合っているのだが、一向に閃きが無かった。
「もう先生に相談しに行こうぜ」
最初の頃に担任の先生が、どうしても書くことが決まらなかったら先生に相談しても良い。という助言をくれていたので、洋太は職員室に行く事を提案したが、マナは渋い顔をした。
理由は簡単。担任の
「もう少し考えてみない?」
そう告げるマナに対し、洋太は既に諦めムードが漂っていた。
なにかヒントとなるようなモノは無いかと首を巡らせたマナの目にあるものが飛び込んできた。
「学校の怪談」
教室に備え付けてある本棚に仕舞われている本。有名なファンタジー小説や歴史上の人物の伝記など、数多くの本の中でも人気のジャンル『怖い話』。その中でも学校の怪談は特に人気が高かった。
「そうだ! この学校の七不思議とか学校の怖い話を集めてみるのはどう?」
「それ良いな! みんな興味あるよきっと」
洋太はマナの案に賛成する。
「じゃあ調査は来週でいいか」
今日は金曜日という事もあり、洋太が休み明けの月曜日から本格的な調査を提案したが、マナは首を横に振る。
「折角だから明日集まらない? 午前中に調査して、午後に下書きまで終われば楽だと思うんだけど」
本来であれば土曜日に学校で作業することは出来ないが、どうしても何かやらなければならない場合は、新井先生の許可があれば作業は可能だった。
「まぁ明日は暇だし、集まるか」
そう決めると2人は職員室に向かい、新井先生に事情を話し許可をもらった。
「「失礼しまぁす」」
職員室を出て扉を閉める。
「許可貰えてよかったな」
「だね。ところで、明日は9時半に集合ね」
「……仕方ないか」
そう約束をして2人は下校した。
次の日、洋太とマナは学校の校門で待ち合わせ、教室へ向う。
「学校に誰も居ないって不思議な感じだよね」
静かな廊下を歩きながらマナが言う。
「確かにヘンな感じだよな。いつも見てる景色なのに」
洋太も頷きながら歩く。
当然5年3組の教室にも誰もおらず、机だけが並ぶ空間が広がっていた。
「さて、やるか」
「うん」
まずは打ち合わせ。
「載せるのは学校の七不思議でいいんだよな?」
「皆の知ってる七不思議を、実際に調べてみるって企画。7個も調べるのは大変だけどね」
一条小学校の七不思議。
1.下駄箱に現われる少女
2.音楽室の踊る誰か
3.逃げられない手
4.触ってはいけない鏡
5.不幸になるボール
6.音読してはいけないラブレター
7.調べてはいけない
以上の7つが学校の七不思議として噂されている内容だった。
「直ぐに調べられそうなのは、鏡とボールくらいだな」
「じゃあ鏡から調べよっか」
そして洋太とマナは噂の鏡の場所へと向かう事にする。
先ほどと変わらない無音の廊下。階段を降り、1階まで降りて廊下の突き当りにある大鏡。誰がいつ使うのか解らないという場所にあることから、不吉な噂が広まっていた。
「噂だと、鏡を30秒間見つめてから、両手で鏡を触ると異世界に引きずり込まれ
る。って事らしいけど、異世界ってどうなんだろうな」
洋太が笑いながら鏡に触る。
「アタシが聞いた話だと、数十年前に実際に生徒が2日間行方不明になって、発見された時に何処にいたのか聞いたら異世界に行っていた。って答えたらしいよ」
マナが友達に聞いた話しをした。
「その入口がこの鏡って事か」
「そういう事」
マナは背負っていたリュックからデジタルカメラを取り出してシャッターを押す。
「デジカメ持ってきたのか」
「文字と絵だけじゃツマラナイでしょ? 写真もあったほうがわかりやすいし」
そう言ってマナは、洋太に鏡を両手で触るポーズを取るように指示を出す。
「え、俺が触るの!?」
「なに、怖いの?」
マナはニヤリと笑いながら洋太を見る。
「そんなんじゃねーけど、なんか気分良くないじゃん」
誤魔化すように言い訳をする洋太。
「フリでいいよ。触って何か起きたら怖いし」
と、マナも微かに及び腰だったらしい。
洋太は鏡に触れないように両手を前へと突き出した。
「早く撮ってくれよ」
マナを急かす洋太だったが、次の瞬間に異変に気付いた。
「映ってない」
ポツリと呟いた言葉だったが、誰もいない廊下でマナに聞こえないわけがない。彼女は映っていないという言葉の意味を理解できず、デジカメのモニターから視線を外す。
「なにが映ってないの?」
その疑問に洋太は答えない。ただ目の前の鏡を食い入るように見つめている。
マナも鏡に視線を向けると、
「嘘でしょ」
信じられない光景があった。確かに鏡に前には洋太がいるのだが、彼の姿が鏡に中にない。よく見れば背景すら映っておらず、銀色の鏡面だけが光っていた。
「洋太、離れた方がいいよ」
薄気味悪い現象に戸惑っていると、突然 栄太の腕が鏡に飲み込まれた。鏡面が波打ち、水面に沈むように吸い込まれて行く。
「洋太!!」
咄嗟に洋太の腕を掴もうとするマナ。
「来るなマナ! 先生を呼んできてくれ!!」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
彼女は無理やり腕を掴み、引き戻そうとするが全く動かない。そのままジワジワと引き込まれ、ついに2人とも鏡の中へと引き込まれた。
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