第6話

 四時間目まで授業が終わり、ようやく昼休み。奈々と机をくっつけてお弁当を食べる。

 私が食べ始めると奈々が急に話題を振ってきた。

「佳子、四組の川上さんのこと好きでしょ」

 驚いた私は思わず飲んでいたお茶を吹き出しかけた。

「ちょっと待ってよ!恋バナ?まず川上さんて誰?」

 脳が追いついてない。このクラスに川上という苗字の人はいない。そして私は他クラスに知り合いはいない。

「ロングで色白の子。ほら、朝ノート拾ってた子だよ」

 誰かはわかった、だが納得はいかない、どうして彼女に私が惚れてることになるのだろう。怖い。

「だって、ノート拾ってもらったときとっても嬉しそうな顔してた」

「マジ!む、無自覚だった。気をつけないと!」

「気をつけてどうにかなることではないけどね」

 奈々にあきれられた気がする。

「あと……ちょっと耳かして」

「なあに?」

 わざわざ耳打ちするとは何の話だろう。箸を置き体を寄せる。

「彼女、Domだよ」

「えええええええええ!」

「声が大きいよ」

 頭が混乱してきた。川上さんは隣のクラスでDom。だが一つ疑問が。

「なんであんたが知ってるの?」

普通、自分のダイナミクスを他人に言うことはない。少なくともSubの部屋にはいなかった。

「私もDomだからだよ。ついでに言うけど佳子はSubでしょ」

「え、」

 どうしてバレたのだろう。誰にも言っていないのに。真逆、川上さんがバラしたとか……

「パートナー作る時のためにSubの一覧の冊子もらってる」

なら良かった。

 確かにSubにもDomの一覧が配られた。それと同じようなものだろう。

「パートナーになってもらったら?」

 羽のように軽い言葉。自分がDomだとわかってもいつも通りなのは性格的な問題かもしれない。

「そんな簡単に言わないでよ。こっちは命かかってんだから」

「でも、好きなんでしょう」

 彼女の瞳は水のように透き通っている。彼女が楽しむためでない、ただの純粋な意見だ。

「多分、そう」

 私はお弁当を食べながら答えた。

「でも私、今まで好きな人とかいたことないし。わかんないけど、多分好き」

「なら、いいじゃん」

「だから、命が

「好きな人に殺されたい」

え?」

私の言葉を遮って告げられた言葉。まさかまだ覚えていたとは。

「二年前のあなたの口癖でしょう。私には理解できないししたくもないけど。『いつか最愛の人に殺されるのが夢だ』って言っていたでしょ?」

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