ノロワレ小学生、怪異と共に異世界へ!?

螺子巻ぐるり

声を聴く少年

 それはスマホで調べたウワサ話だ。


「異世界へ行く方法」。十階以上あるビルのエレベーターで一人、既定の順番でボタンを押して移動すると、最後にはちがう世界へたどり着く、というもの。

 オレはそのウワサに望みを掛けて、近所のビルで二階、六階、二階……と移動する。


 これを試すのは六度目だ。

 何度かは、途中で人が入ってきて失敗した。

 何度かは、最後まで押したのに何も起きなかった。

 もしかしたらウソなのかもしれない。こういうウワサって、ほぼウソっぱちだし。


『ほぼって、それワタシ入ってませんよねェ?』


 頭の中で声がしたので、紐で胸に提げた五円玉を指で弾く。

 痛いと悲鳴が聞こえるが、ウソだろうから気にしない。

 そもそも五円玉は、声の主の体じゃないし。


『ヒドいですねぇシュウゴ君。それより、次のボタン押すの止めません?』


 声はそう警告してきた。

 これまでの五回は、ただただ『意味無いですよ?』と半笑いだった声が、だ。

 あっそう、とオレは声を無視して五階を押す。

『あららシュウゴ君。もしかして、誤解してません? ワタシ、親切で言ってるのに』

 だとしても……だからこそ、確信を持ったのだ。

 今回は成功する。オレはエレベーター経由で、ここではない世界に行ける。

 五階にエレベーターが辿り着くと、開いたドアから、女性が一人入って来た。

 ふつうは、人が入ってきたらこの方法は失敗だ。

 でもこの女性の持つ気配は……なんだか、異様だった。

『来ちゃいましたねぇ、話しかけちゃいけない人』

 調べた方法によれば……この手順で移動して、五階で入って来た女性とは、決して言葉を交わしてはいけないらしい。話したらどうなるかまでは、分からないけど。

『まぁ、話さないで正解ですよシュウゴ君。それより、止めるなら今ですよ』

 声は、どうしてもオレに儀式を成功してほしくないみたいだった。

 ってことは、やっぱりこれは上手く行くんだ。緊張で、ボタンに向かう指がふるえる。


『シュウゴ君、よく考えてください。この話、何処に繋がるかは書かれてないですよね?』


 繋がった異世界が、どんな世界だか分からない。

 治安の悪い、ひどい世界かもしれない。

 楽しいことなんて何もない、苦しい世界かもしれない。

 本当に何もない、砂漠みたいな世界かも。

 分からないを連呼する声に、心の中で苦笑する。


「お前が何にも分からないから、行くんだろ」

『この世界で小学六年生やる方が、絶対良いと思うんですけどねェ』


 ハァ、と声はわざとらしく溜め息を吐く。

 確かに、この世界での友だちに会えなくなるのはさびしい。

 それでもオレはちがう世界に行きたかった。

 だってこの世界には、オレの求めた答えが無い。

『答えの無い質問とか、この世にはあるんですよォ……』

「オレは納得してない。もう良いからだまっててよ」

 最後のボタンを押す。一階に向かうはずのエレベーターは、ギギギと異様な音を立て、ぐんぐん上へと昇って行った。十秒、二十秒、三十秒。長い間昇り続けて、突然フッと体に掛かる重みが消える。ピンポン、と音が鳴り、開いた扉の向こうには、何にも見えないくらいの光。

 オレは光の中に一歩踏み出した。足の裏には、なんの感触も無い。

 そのまま二歩、三歩と歩いて行って……急に、フッと。


 オレは落ちた。


 光の中からひたすら落ちて、落ちて、落ちて……どこへ行くんだろう。死ぬのだろうか。そんな風に怖くなった瞬間に、ばしゃんと音がして、水の中へと飛び込んだ。

「ぶはぁっ!?」

 あわてて水から出たオレの周りには、見慣れない服装の人々が集っていた。

 ファンタジーゲームみたいな、ローブとか、鎧とか……後ろの方には石で出来たデカい人形みたいなのも立っている。

 明らかに、元々いた世界とは文化がちがった。コスプレとかじゃなければ。


「おお、召喚に成功したぞ!」

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