第18話 再会②

「あ?」


 スーツの男は怪訝そうな顔をした。

 それはウィルが右手のひらを向けてきたからだ。ウィル自身はそんなことをするつもりはなかったが背後からリエルが手を添えて持ち上げてたからだ。


 リエルは今、半透明の状態でウィルにしか姿が見えない。彼女はウィルの脳内に直接話し掛ける。


『ウィル君に名付けられたことでリエルはね、ウィル君の契約精霊になったの。これで魔力マナを共有出来るようになったし念話で話せるようになったんだよ』

魔力マナが……?』


 ウィルも念話で喋る。


『これでウィル君を虐める人をやっつけよう!』


いきなりそんなことを言われてもどうすればいいか分からなかったが、


(なんとなく体の中に何かが流れてるのが分かる。これが魔力マナ……世界から無くなったはずの)


 ウィルは突きつけた右手のひらに意識を集中させた。


「さっきから何やってるんだ? あんま大人を舐めるなよ」


 スーツの男が発砲しようとすると、


「ぐぅえ⁉︎」


 パァン! という銃声が響く同時にスーツの男は前を向いたまま後ろに吹っ飛び階段下へと転げ落ちる。


「あ、危なかった……」


 一方、ウィルは肝を冷やしていた。相手が吹っ飛んだおかげで発射された弾の軌道が逸れたからだ。


「くそっ」

 スーツの男は顔を擦りむいて地面に打った体を痛めていた。しかし流石は公安委員、男は立ち上がろうとする。


「起き上がってくる……! リエルどうすれば魔力マナを上手く使える?」

「んー?」


 ウィルが背後を振り向いて質問するとリエルが首を傾げていた。


「なんであの男が吹っ飛んだか自分でもわからないんだ。本には確か精霊と契約した人間は身体能力も向上出来ると書いてあったけど、どうすればいいのか分からないんだ」

「……? そうなの?」

「えぇ」


 キョトンとするリエルに戸惑うウィル。


「ごめんね、あまり詳しくないの」

「さっきあの男が吹っ飛んだ理由は分かる?」

「んー、多分だけどね。魔力が暴発したと思うよ」

「そっか……いや、そっかじゃない! 今のうちに逃げなきゃ! 状況が変わってない!」


 ウィルはスーツの男から距離をとるために高台の公園へと向かう、その際リエルの腕を掴んだ。彼女が半透明なので触れれるか分からなかったが無用な心配だった。


「待て! もう遊びじゃ済まなくなったぞ!」


 男は階段を上りながら懐から銀色の銃を出す。先程までウィルに向けていた自動拳銃は吹っ飛んだ際に落としていた。


 ウィルは階段を駆け上りながら肩越しに相手を確認する。


(あれはウォーターガン! まずい!)


 スーツの男が持っている銃は通称ウォーターガン――金属を貫通させるほどの水を発射出来る銃である。


 ウィルは相手の攻撃を避けるため、不規則にジグザグに動いていた。

 するとウォーターガンからゴオオオ‼︎ と水が勢いよく放射され続ける。あまりにも反動が大きいため、男は腕を振り上げながら水を発射していた。


「ひぃ!」


 階段の下の方にある踊り場でしゃがんでいた脱走犯は横を通り過ぎる線状の水に怯えていた。放射された水をウィルの足元にも届き、


「うあっ!」

「ウィル君っ!」


 ウィルの体には当たらなかったものの足場を崩されて背中を打った。ずるずると階段から滑り落ちていき、近くの踊り場に到達した。リエルは階段を飛び降り、すぐにウィルの傍に駆け寄った。目を見張る跳躍力で常人を逸脱している。


 ウィルは上体を起こして階段を上がってきているスーツの男を見据える。


「大丈夫……?」


 リエルはウィルと目線を合わすためにしゃがんだ。


「大丈夫だけどここまでかも」


あんな銃で撃たれたら確実に無事で済まないと思った。


「でも最後にリエルと会えてよかった」


 本心からそう言うと、


「最後なんかにさせないよ。そんなの嫌だもん!」


 リエルは言葉を返した。

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