第5話
そして4年も月日が経ち、新人は立派に大きく育った。生意気なことを言ってくるし、志人の腹にパンチを入れてくる。けれど一方で母想いな子だ。
ある日帰宅すると、杏花は腹痛で寝込んでいた。近くのローテーブルには水と薬と何故か犬のぬいぐるみ。
しかし、そんなに辛いなら早く連絡を入れてくれれば早く帰ったし薬も買ったのにと思った。
リビングに入ると冷蔵庫の前に脚立が置いてあった。
別の部屋から新人が走ってやってきた。
「おかえりー」
と、少し元気の無い様子。いつもなら「おかえりー! パンチ!」と腹パンが来るのに。
「ただいま。お母さんはずっと寝てるの?」
そう聞くと
「うん、ずっとお腹痛いって。だからね、水だけ用意したの。でね、犬に見ててもらってるの」
どうやらこの脚立は新人が冷蔵庫から水を出すために使ったようだ。杏花のために。
「ありがとう。これからもお父さんがいない時は、代わりにお母さんを守ってくれ」
志人は新人の頭を撫でた。
だが翌日出勤をして以来、新人と会うことは無くなった。
妻が言うには、急に新人が大切にしていた犬のぬいぐるみに吸収されてしまったとの事。
そんなこんな話を聞いた私、らのはため息を吐いていた。
後半辻褄が合わなすぎだろ。
「まずは犬のぬいぐるみにもいつも通り変わらず接してあげてください」
灯は長浜夫婦に言った。
「新人ー」
杏花は犬のぬいぐるみを撫でて話しかけた。
終わってる。イカれてる。
正直気持ちが悪かった。
「実は重紙さんのところにお願いする前に一度別のところに言ったんですよ。私の弟の紹介で」
杏花は話し出した。
「そうなんですね。どこですか?」
灯が聞くと、
「モドスです」
と言われた。私も灯も少しピリっと反応した。しかし灯は態度を変えることなく、
「へえそうなんですねー! どうでした?」
と話を続けた。
「あそこはダメでした。ぬいぐるみに人は入らないと言うばかりで」
「あら。まあ場所によってはいろんな思想がありますからね。私はお客様の言葉を信用していますよ」
と、灯はかなり胡散臭いことを言った。灯が一番実行できていないことだ。灯はいつも依頼人の言葉を一切信用していない。なぜならば、オカルト現象に巻き込まれる人はメンタルが弱い人が多い。またメンタルが弱いのをオカルトのせいにしてるただの言い訳ってケースもある。だから大体相談内容に脚色が入っている。
「すぐにはお子さんの呪いを解けないのですが、少しずつ治していきましょう」
灯はその後簡易的な儀式を行い、ぬいぐるみに不幸が起こらないことをお祈りした。
仮ここに新人が吸収されている場合、本格的な儀式は逆に新人を閉じ込めてしまう危険がある。
相談を終えると最後、志人が分厚い茶封筒を出してきた。まだこちらは代金を言っていないのに何故だろうか。
「ん? これは」
灯は受け取りつつ開けようとすると
「いや、後で開けて下さい。これからもお世話になるので、これからそこのお金から差し引いて下さい」
と言った。
何故わざわざそんな面倒なことを、と思ったが、灯はそのまま受け取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます