6

「最高‼︎」

 USJで遥はキャラクターもののカチューシャを着け、首からは星形のポップコーンのバケットを下げていた。よく出来たもので、このバケットにはスイッチが付いているのだが、これを横に動かすとバケットが光るのだ。

 某有名ゲームをテーマにしたエリア。快晴の空がゲームのセットとマッチしていた。土管から出てくる口のついた大きな赤い花が俺は気に入っていた。

 俺と遥は長蛇の列に並び、カートのアトラクションに乗り終わったところだった。佐々木の運転を見て自分も車の運転をしてみたいと遥が言ったのだ。今日一日はUSJの予定なので並ぶ時間はたっぷりあった。

 昨日、結局佐々木が飛ばしたおかげで夕食バイキングには、なんとかありつけた。佐々木は体調不良で部屋に篭っていたことにしていたらしく、バイキングの会場に登場して肉をモリモリ食べ出したので、事情を知らない他の生徒や先生は奇跡の復活だと思っていたようだ。

「あ、佐々木だ」

 見ると佐々木が京子たちと一緒に歩いていた。

「どこからどう見ても女子高生だよなぁ。いや分からんもんだ」

「佐々木さんは可愛いし、それに中身の若さがきっと外側にも出てるのよ。私もああでありたいわね」

 遥はムシャムシャとポップコーンを食べながら言う。

 すると佐々木がこちらに気付いたのか手を振って来た。俺は駆け寄って昨日のお礼を言おうかと思ったが、やめておいた。彼女は十七歳の女子高生だ。

「制服ユニバね。青春ね」

「ああ、青春だな」

 俺たちはいつの間にか、放課後のような調子になっていた。俺たちは方向音痴を発揮して、無駄に歩き回って疲れていたからだ。

「次は何に乗ろうかしら」

 遥は辺りを見回して思案する。

「お腹が空いたわねー」

 そう言いながらも遥はポップコーンを食べている。

「やっほー、お二人さん! お腹空いてるー?」

 佐々木たちが俺たちの方にやって来ていた。

「あ、佐々木さん。京子ちゃんもどうしたの?」

「いや、私たち色々見て回ったけどこれって言うのがなくてさ。柊さん凄く漫喫してるみたいだし、なんかおすすめないかなぁって」

 佐々木はお腹を押さえてそう言った。どうやらこちらも腹が減っているようだ。

「そうなのよね。私も何か食べたいけど、どうしようかなぁ」

「あ、なんかいい匂いしません?」

 京子が言うと、皆が鼻を研ぎ澄ませる。匂いの元はどうやら近くを歩いている観光客が持っている肉のようだ。

「ああ、あれか。ターキーレッグの匂いだよ。酒井たちが買ってたな」

「ターキーレッグ‼︎」

遥がそう叫んだ。

「何それ? どこに売ってんのよ! 早く言いなさい‼︎」

「恐竜のエリアだった気がする。でも何か手が汚れそうだしなーあれ」

見た目は大変美味しそうなのだが、いかんせん油でベタベタになる。俺は特別潔癖という訳ではないが、あれを食べていると手が油まみれになる。そうなると何も触れなくなるのが目に見えていたので難色を示してみた。

「構うもんですか、みんな行くよ!」

 佐々木がそう言うと、遥を含めた一向はエリアの出口目指して歩きだした。

 俺は迷っていた。この女子軍団の中で男一人でいるというのは異様ではないか。それにターキーレッグは美味しそうだが手が汚れる。みっともなくはないか。そんなことを考えていると遥がこちらを振り返る。

「早くしなさい、敬介! ぼやぼやしてると置いてくわよ! なりふり構わず動くことこそ、青春、豊かな人生よ!」

 そう言うと遥は、すたすたと言ってしまった。

 確かにそうだ。俺は周りの目を気にしているのが急に恥ずかしくなった。遥や佐々木はあんなに楽しそうではないか。ここは俺もなりふり構わず行ってやろうじゃないか。

 そう思い、俺は遥たちの後に続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

柊遥の挨拶 カフェオレ @cafe443

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ