第13話「突破口」


 押し寄せて来るモンスター達に対し、ベガリーの盾はすべてを拒絶していった。


 ゲームで行うような、単調な動きにはとても見えない。


 大盾で自分の倍以上はあろう巨体であるオークの攻撃を真正面から受け止めた。

 そう見えた次の瞬間には、狼達の飛び掛かって来た爪や牙を盾から滑らせるように受け流していた。

 ゴブリンのような小さな身体に対しては、その盾を押し返すような形で処理していく。


 素人目で見てもベガリーの盾捌きには一切の無駄がなかった。


 最低限の動きですべての攻撃をいなし、交わし、受けていく。


 時には盾を地面に叩きつけて軸にし、回転、その勢いのまま繰り出される巧みな足技も垣間見えた。


 わずか十三秒の攻防で、ベガリーはその実力と才能を俺とアルタに見せつけてくれた。


「カイセイ! 鍵はまだ開かぬか!」

「だいぶ手間取っているんだ! 他の方法でもあれば……そうだ」


 そうだ。村がこんな状況になっているんだ。

 鍵の在処がわかれば、それでアルタを檻から出せる。


「アルタ。鍵は誰が持っている?」

「村長だ、向こうに村長の家にある」


 広場から外れると、一際大きな家がある。

 あそこが村長の家らしい。

 そして、家の窓から老人がチラリと顔を覗かせていた。


「≪アクセス≫」


 老人に向け、アクセスを発動。


 視界にウィンドウが開かれた。

 老人のものと思われるステータスが表示される。

 あの老人が村長で間違いない。鍵も、持っているようだ。


 ワールドデバッカーの職業レベルが上がった時、所持品も確認できるようになった。


「鍵、もしかして≪アクセス≫で盗めるとか?」


 緊急事態だ。

 こういう時くらいなら、許してくれるだろう。

 モノは試しにと、鍵のアイテム欄へと指を這わせた。


 ドラッグでの移動は、できる。

 所持品の奪取は可能のようだ、イケるか?

 これで鍵を俺の手元に持って来られるのなら!


【エラー。対象との距離が離れすぎています。】


「ぐっ!」


 ダメだ、距離が遠すぎる。


 近づいて、鍵だけ回収するか?

 いや、今アルタの檻から離れてベガリーと別行動を取るのは危険だ。


「剣さえあれば、こんな檻……」


 ポツリとアルタが呟いたのは、か細い希望にも思える妄想の類。


 剣があったところで、無駄だろう。


 この檻は破壊不能オブジェクトとして構成されている。

 攻撃スキル、魔法、地形ダメージ、落下ダメージ、どれを利用しても壊れる事はない。


 これが解錠または破壊される為には、専用の鍵や『こういった条件でなら破壊される』などの決められたプログラムを入力、その通りの実行しなければならない。


 後者なら、今この場でプログラムを書き換えてしまえばいい。

 だが、前のゴーレム戦と同じように戦闘中は難しい。


「む? カイセイ! そやつのスキルを見てみろ!」


 スキル?


「≪アクセス≫」


【名称:アクィラ・アルタ Lv.21】

【職業:勇者(転生者)(Lv.19)、抜刀剣士(Lv.31)】

【HP:4821 MP:528 攻撃力:3250 防御力:188】

【魔法攻撃力:284 魔法防御力:322 敏捷:3250】

【幸運:13】


 スキル欄には【剣術】【抜刀術】を中心に剣士の戦闘系スキルが豊富に取り揃えられている。

 他にもあった。【心眼】は回避率が上がるスキルで、先読みの効果まであるようだ。


 幸運が恐ろしく低い。

 ベガリーのMP並みだ。

 幸運はクリティカルに大きく影響するステータスで、アタッカーにはわりと重要なステータスではある。


 しかし、それを補うスキルがあるようなので今は置いておこう。


 アルタのステータスは、攻撃力と敏捷性に特化している。

 紙装甲と言ってもいいが、持っているスキルと併せると回避の性能が高いようだ。


 ベガリーのように盾で受けるのではない、回避で攻撃を受けないようにするタイプ。

 または高速アタッカーの役割が十分に担える。


 うん、ここにいていいレベル帯ではない。

 さすがは勇者だ。


 パッと見た雰囲気で、気になったスキルが一つ。


「かいざん、けん……【壊斬剣】?」


 改竄。意味は、自分の都合の良いように事実を曲げて作り直す事。

 どんな効果のスキルだ?



【壊斬剣】

 抜刀時。

 クリティカル判定で『破壊不能オブジェクト』にダメージを与える。


「……ッ!」


 不意に、見えた。


 ――突破口。


 俺は開いていたノートパソコンを閉じ、周辺を見渡した。


 剣。剣だ、それもアルタが檻の中で振れる剣。


 アルタが持っている抜刀術のスキルが活かせるように鞘が付いていて、小振りなものがいい。


 周囲の敵は、剣のような武器は持ち合わせていない。

 ほとんどが素手、あっても棍棒だ。あとはオークの斧か。


「ベガリー、剣がほしい! 近くにないか!」

「剣なら、村の連中が持って戦っておるぞ!」


 ベガリーと魔物達が戦っている向こうでは、村人達が武具屋で立てこもっているのが見える。


「遠いか」


 ベガリーが引っ張って来てくれたおかげで武具屋周辺には魔物はほとんどいない。

 村人達が防衛線を構えている武具屋は、先ほどベガリーが制圧してきている。

 しばらくは安全のようだし、村の男衆に任せておけばいい。


「お?」


 距離は離れているが、ちょうど良さそうな刀剣を持った村人がいる。

 アルタが得意とする居合術、鞘付きの得物だ。


「ベガリーッ!」

「む?」


 戦闘中のベガリーに声をかけ、こちらの声に気付いたのを確認。


「ここから少し離れる、援護頼む!」

「よかろう!」


 まずは周辺の邪魔な魔物をどうにかしよう。


「≪麻痺状態付与≫」


 倒す必要はない。アルタに剣を渡す為に、まずは武具屋へと近付こう。


 武具屋までは百メートルはある。

 アクセスの射程は視認できれば百メートルでも届くが、どうにも装備やアイテムの移動には制限があるようだ。


 試していないが、装備やアイテムの移動させる為の射程は十五メートルもない。


 最速でアルタに剣を渡すには武器を俺の手元に転移させる。

 その後はアルタの装備欄に俺が持っている剣を移動させればいい。


「アルタ、お前にまずは剣を届ける。届いたら、ここを脱出して俺とベガリーの所まで走ってきてくれ」


 アルタは無言で頷き、俺は武具屋のある方向を見据える。


「作戦開始だ。≪ナイトメア・ランページ≫!」


 それがベガリーへの合図となった。

 俺が麻痺属性を付与したナイトメア・ランページを飛ばすと同時に、ベガリーは盾を足場にその場から飛び上がった。

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