第36話 サリー
歩きながら空を仰ぐと、上空百ヤードくらいにシンシア・コレットの気球が浮かんでいた。あの装備を温存していたとは抜け目がない。
よく見るともっと低空にシンシアの記録用プローブも浮かんでいる。あいかわらず撮影を続けているらしい。
なんとなく煩わしいが、彼女のマスコミとしての力が、ヘンプ人の役に立つ日が来るかも知れない。どのみち彼女の活動を制限する権利も霧香にはない。
気球が高度を下げ、間もなく霧香の真上まで降りた。
「ホワイトラブ少尉、合流してもらおうと探したんだけど、ランドール中尉の姿が見えない。すぐ近くに潜んでいたはずなんだけど……。あんたのほうで連絡取れる?」
「なんですって……」霧香はさっそくコマンドラインを呼び出してランドール中尉の回線を開いた。
「ランドール中尉、応答願います、ランドール中尉」
しばらく応答がなかった。霧香は何度か呼びかけたが、やがて諦め、ほかのドロイドと合流するよう04に指示した。霧香を乗せたまま04は駈けだした。
02は先日のドローンとの空中戦で霧霞の支援にまわり、破壊されたらしい。健在なのは03だけ。05は稼働率15%を切っていた。
タコム回線でシンシアが呼びかけてきた。
「ホワイトラブ少尉!どうする気?」
「ランドール中尉が応答しない。なにかトラブルにあったに違いない。あなたはヘンプ人たちと一緒にいて!」
霧香は時速50マイルくらいで駈ける04の背にしがみついていた。シンシアの言った通り、それほど遠くない。
1マイルほど走ると04はスピードを緩めた。
「そのまま、03と05のまわりを走り続けて」霧香はコマンドラインから03と05の映像を呼び出した。二体のドロイドは寄り添って待機していて、まわりにはランドール中尉の姿は見えない。
やがて霧香のほうが先にランドールを発見した。岩場でうつむけに倒れていた。
霧香は04から降りて駆け寄った。彼女は額に裂傷を負い顔の半分か血まみれになっていたが、生きていた。霧香に抱え上げられるとぼんやり眼を開けた。
「中尉、分かりますか?」
「ああ……少尉……」
「なにがあったのです?」
「女だ……どこからともなく現れて、いきなり殴りかかってきた……。ロボットをけしかける間もなかったよ」
「背が低くて色黒で短い縮れ髪の?」
「いいや……背丈はわたしと同じくらい……長いブラウンの髪の白人だった」
「サリー・ヘラルドだ……。プラネットピースの……」
ランドールは舌打ちした。
「ライフルがない。持って行かれたらしい……」
霧香は残っていた治療パッドでランドールに応急処置を施した。額のほかにも何カ所か殴られているようだ。
(まったく今回の任務はこの人にとって災難だな)と思った。だがランドールはふらつきながらも立ち上がり、人型形態に変形した04に抱え上げられた。
04の電力も残りわずかで、ランドールを送り届けたらそれで終わりだろう。05はパルスライフルに撃たれたらしく損傷が激しい。なんとか歩けるようなのでランドールの護衛に付かせることにした。
「04,ランドール中尉の容体に注意しつつ、シンシア・コレットと合流して……。05,04を援護して」
「ホワイトラブ少尉、あの女を追うつもりか?」
「今度こそ逮捕しなければ」
「ライフルを持っている。危険すぎる。放っておけ……どうせ逃げられないんだ。わたしたちは宇宙船を待つべきだ。すでに上はわたしたちを捕捉している。ひらけた場所にまもなく降りてくるはずよ」
その意見はたいへん魅力的だった。
「ですが中尉、ああいつを放置したらわたしたちに危害を加える可能性があります。先回りして身柄を押さえなければ……」
「そうか、だけど気をつけてね……。あの女はひどく腹を立ててた。なにかずっとわめき散らしてた。凶暴よ」
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