第21話 謎
翌日には彼女はもう意識もはっきりして、話ができるようになった。
霧香はタコムで治療の経過と新しい対応を確認した。空になった代替組織のアンプルを取り替え、手持ちのぶんでなんとか組織が快復するように祈った。
熱があるが、それは普通だ。少なくとも深刻な合併症や臓器不全は見当たらない。血栓もすべて除去されている。
ランドール中尉はヘンプⅢに降下した六時間後には攻撃を受けたらしい。正体不明のメカに襲われ、傷ついたフローバイクでここに墜落した。しばらくするとメカたちが再び現れ、フローバイクを破壊して去っていったらしい。
「夜だったから相手はよく分からなかったけど、かなり強力な実体弾で撃たれたのよ……おそらく50口径(12.7㎜)ぐらいの高速弾を足と胴体に受けた。コスモストリングがなかったらミンチになってた。相手は無人ドローンだと思う……たくさんいた。群体を作って行動していた」
「それで、墜落後はこの森の中になんとか這って……」
「そう。……そうだ。あいつらは機械に興味を持っているようだったから、残った装備を埋めたんだ……」
「どこに?」
「墜落した場所からここまでの、草むらなんだけど……」
「捜してきますよ」
霧香はテントから這い出し、パルスライフルを携帯して断崖の方に歩いて行った。
ランドール中尉の装備はすぐに見つかった。サバイバルキットとライフル一丁だ。ついでに草叢の影でナップザックも見つけた。
ランドールはひどく喜んだ。
「予備のタコムが無事だった!これでドロイドを呼び寄せられるかもしれない」
「ああ、なるほど!」ここに降りて初めて聞いた良い話のようだったので霧香も喜んだ。
「まあ……あの子たちが無事ならだけど……」
「わたしが確認したときはまだ何体か無事だったようです。展開開始地点に戻って待機モードになっているようでした」
「空を飛ばすとあいつらに感知される気がするわね……。陸を伝って呼び寄せられるか、やってみましょう。そうすればこの谷底から抜けられるかもしれない」
ランドール中尉は軍用のノートブック型タコムを操作してホロディスプレイを浮かび上がらせた。霧香も見られるように大きくオープン表示させ、ヘンプⅢのマップを呼び出した。
「問題は電波が届くか、だけど……」
ドロイドたちは意外と近くにいた。わずか3マイル離れた場所に待機していた。四機が健在で、短いシグナルを送ってきた。あまり電波を飛ばしたくなかったが、念のためドロイドのカメラでかれらが待機している場所の周囲を確認した。怪しい動きはないようだった。
「どうする?少尉。ドロイドを呼び寄せるとあの正体不明のメカが襲ってくるかもしれない……」
「一体を囮にして、残りを呼び寄せたらどうです?念のため離れた場所……墜落場所のあたりに呼び寄せ、様子を見る……しかし、できれば夜か明日まで待ちましょう。中尉の身体がもうすこし回復してからのほうが良いですよ」
「良い考えね少尉。それで行きましょう」
ランドールはコマンドを打ち込んだ。
「これで良い……」
ランドールは残りの装備をあらためた。レーションが三日分。簡易医療パッド三個。ライフル用のクリップがひとつ。サバイバルナイフ一丁。
それに側面のポケットからごく何気ない動作で指輪を取りだし、左手の薬指にはめた。霧香はその様子を目の隅で見ただけだ。
彼女は溜息を漏らした。少し疲れたようだ。ゆっくり横になり、ブランケットを引き上げた。額に汗が浮いていた。
「これでスコッチの小瓶があれば……」
「ははは……ブルックス船長の船にはたくさんあるんですけど」
「あら、ブルックスじいさまと知り合い?」
「彼の〈メアリーベル〉も一緒だったんですよ。いまごろはオンタリオステーションに帰ったかもしれないけど」
「あ~、たしかあなた、環境テロリストの船でここに連れてこられたと言ってたわね……シャトルを攻撃されて不時着したと。そいつらはなにが目的だったの?」
「わたしの推測ですが、この惑星にあるなにかの機械を探しに来たようでした。その機械に関する情報をシンシア・コレットに横取りされたらしいです」
「おお、あの愛すべきシンシア・コレット嬢……」
「会ったことがあるんですか?」
「ちょっとだけ。とんでもないじゃじゃ馬よ。だれかれ構わずマイクを向けて話しかけてた。竜巻みたいにオンタリオステーションをかけずり回ったあげく勝手に惑星に降りて、そのまま音信不通……。おかげであたしまでこのざまだわ」
「災難でしたね」
「まったく……もうダメだと思ったけど、助けてくれて感謝する、ホワイトラブ少尉」
「どういたしまして先輩。もっとも、ここから抜けだす当てはないんですけれど……」
「あなたも災難ね……任官したてか」任官後最初の一年がもっとも損耗率が高い、という言葉が浮かんだが、そんな考えを振り払うように言葉を続けた。「候補生教育もあたしの頃とはだいぶ変わったんだろう?」
「さあ……四ヶ月の訓練と半年の見習い期間、シミュレーション漬けの毎日に厳しい軍事教練でしたよ」
「あたしは軍隊の引き抜き組でね。もともと下士官だし、たぶんあなたほどみっちり教育されていないよ。GPD設立当初はそんな人材ばかりだった」
「そう聞いてます。わたしたち訓練小隊のロリンズ少佐も、たしか元軍人でした」
「ああ、ロリンズ少佐殿に教わったんだ。あの人が教育者とはね……」ランドール中尉は面白そうににんまり笑った。「……おたがい無事抜け出せればいいけど」
「われわれを襲ったメカ……プラネットピース一行やシンシア・コレットが捜していた代物と関係あると思います?」
「残念ながらそのようね。なんだと思う?」
「異星人……いえ、違いますね。おそらく人類のものでしょう」
「だとするとよほどのヴィンテージテクノロジーかなにか……」
「いくつか見当付きそうですね。やたらと敵対的ですけど」
「それがヒントかも……」
ランドールは急に眠気を催したらしい。空のナップザックを枕にして、たちまち眠ってしまった。
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