第13話 緊急再突入
サリーはしかめ面の片眉をさらにつり上げ、口を開けた。
「なんだと……おまえのような小娘がGPD……?」
「シャトルを上昇させるのよ」
サリーは舌打ちした。しぶしぶ頷いて操縦席に向き直った。
「手を下ろしていいのかい?」
「いいけどつまらないことしないでね」
「くそったれ!油断したよ」
霧香は黙って小銃を構え続けた。
サリーは素早く首を巡らせて再び霧香を睨んだ。
「まさか、バリアーに何か仕掛けたんじゃないだろうね?」
「バリアー?あなたたちの母船?わたしじゃない。レーザーか何かで撃たれたようだけど」
「本当だろうね?」
「いきなり攻撃なんてするわけ……」
シャトルが震えた。
突然うしろに突き飛ばされるような衝撃が走って、霧香は座席の背に倒れかかった。慣性制御システムが過負荷になるような衝撃……。
サリーが眼を見開いて振り返った。霧霞たちはいっときお互いの顔を見つめた。
「攻撃された――」
「主翼を、一枚吹っ飛ばされた……」
「はやく!加速しなさい!」
さらに強い衝撃がシャトルを揺るがし、霧香はつんのめってふたつ後ろの座席に倒れ込んだ。気を失っているタンクの体も座席から浮き上がり、手錠でつなぎ止められた手首を支点に回転してひとつ前の座席に落ちた。霧香は慌てて体勢を立て直したが、サリーはコンソールに頭を叩きつけて卒倒したようで、うつ伏せのまま動いていない。
霧香は回転する機体内部の慣性モーメントに気をつけながら操縦席に這いあがり、副操縦席に座ってシートベルトが自動的に巻き付くのを待った。
気絶しているサリーの手を掴んで灰色のコンソールパネルに押しつけると、バーチャルコンソールが起動した。リセットされていた慣性システムをオンした。
シャトル内に人工重力が戻った。
パイロットコンパートメントは小型ローバー並に狭く、座った姿勢のままろくに身動きできない。キャノピーも手を伸ばして撫でられるほど近い。
サリーは額から出血していたが、生きている。たいした出血量ではないが、安心できない。外傷が軽いということは、エネルギーの大半を頭蓋骨かどこか別のところに受けた可能性があるということだ。治療してやりたいがいまは無理だった。
(コスモノーツ気取りで慣性システムを切ってるからこんなことになるのだ)
手を伸ばしてサリーのシーベルトも締めた。
それから作業着の内側にあるポーチをまさぐり、GPD用の手錠を取り出した。タンクが霧香にかけた金属製のオモチャではない。単なる黒い紐のようだが、膝の上で重ねたサリーの手首の上に置くと、もぞもぞムカデのように動いて手首に絡みつき、指一本動かないくらい厳重に拘束した。
機体のステータスボードを見ると、動力システムが軒並み真っ赤な警告で埋め尽くされている。
反応ロケットモーターは安全装置が働きシャットダウンしていた。だがRCSは自動的に働き、機体のグルグル回転を徐々に回復させている。
(上昇は無理……降下するよりない……)霧香は内心肩をすくめた。(まあ当初の予定通りではあるか……)
無動力のグライダーと化した機体は重力に引かれてどんどん降下していた。無線でブルックスに連絡しようとしたが、通じない。アンテナを吹き飛ばされたらしい。
霧香は溜息をついた。彼がレーダーで追跡してくれてることを祈った。
航法システムは生きていて、ヘンプⅢへのアプローチコースを表示していた。
霧香は手動操縦桿をホップアップさせ、握った。自動運転に任せきりではどこに落ちるか選べない。これ以上攻撃されないことを祈りつつ、機体速度をコントロールして目的地へのアプローチをリセットした。
慣性システムとエマージェンシーシステムは生きている。少なくとも大気圏突入で燃え尽きる危険はない……いまのところ。
(太古の無動力シャトルを操縦した先達を見習って、やってみるしかないか……)
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