第7話 敵出現!?


 宇宙海賊。

 人類社会の犯罪を一手に引き受ける組織だ。恒星間大戦後の混乱によって社会秩序からはみだしたアウトローたちの寄り合い所帯。


 3127年における人類領域の犯罪勢力図は、ふたつの宇宙海賊によって大きく二分されている。

 ひとつはキングファミリー率いる海賊ギルド。

 超光速シップが民間運行され始めた二七世紀の宇宙経済時代から第一次恒星間大戦終戦までに、それまで各星系内で個々に活動していた犯罪組織が次第に統合された。スターブライトラインズの就航によってそれらはさらに活動規模を拡大して、ジェラルド・ガムナー……通称キングという男がその頂点に立った。それがキングパイレーツギルドだ。


 ふたつめは新興勢力だった。

 終戦後、人類社会が銀河連合に併合されたのちに誕生したと言われている辺境宇宙海賊連合である。その構成員の多くは仕事にあぶれた元軍人で、彼らが使う火器や宇宙船も軍隊の余剰物資を終戦のどさくさに紛れて強奪したものだ。

 ふたつの組織はそれぞれ異なった縄張りを支配して宇宙を仲良く分け合い、残念ながら利害の衝突はない。

 キングパイレーツは中央星域……つまりタウ・ケティと地球を中心とした半径15光年を縄張りとしており、麻薬などの密輸、売春などを目的とした人身売買、その他あらゆる違法行為に手を染めていた。

 辺境宇宙海賊連合はその名の通り、太陽系から20光年以遠の辺境宙域を活動拠点にしており、主な犯罪行為は武力による植民地襲撃だ。宇宙船と戦闘グループによる植民地の武力制圧……そして人間と資源の略奪。


 キングパイレーツには人間と亜人類ヤンバーンだけが属し、犯罪行為の対象も人間だ。悪辣だが犯罪形態としてはお馴染みであり、各国警察や軍隊も常に動向を追っている。


 辺境宇宙海賊連合は地球人犯罪者に加えて、銀河連合宙域から流れてくる異星人が属していた。商売相手も異星人と言われている。つまり異星人相手に人間や物品を売り、その代価を異星人世界の物品……珍しいテクノロジーや物質として得ているのだ。

 出現したばかりで実体は判明しておらず、存在しているとして、首謀者も分かっていない。キングパイレーツよりもはるかに武力化された組織であり、被害規模もより大きく深刻化している。


 恒星間空間を股にかけた犯罪行為は対処が難しい。

 なぜなら人類領域は32世紀の現在も国という境目に分けられ、司法の手がおよぶのもその境界線までなのだ。

 GPDは銀河連合の要請により、名目上は国際連盟管理下組織として誕生した。つまり創設されたのは敗戦の年、霧香が誕生した歳だ。

 まだ日が浅く、人類領域でじゅうぶん認知されているとは言い難い。その権限がおよぶ範囲さえじゅうぶん認められているとは言い難いが、銀河連合によれば、将来宇宙間問題の解決機関として大いに活躍するはずだ……ということだった。


 宇宙海賊たちは、人類世界で初めての宇宙間警察機関であるGPDに対して、いちはやく警戒の目を向けた。

 GPD創設当初、つまりスターブライトラインズの恒星間定期航路が人類に新しい宇宙旅行ネットワークをもたらした頃、犯罪者たちは違法商取引の新たな可能性とともに、目障りなGPDを積極的に潰しにかかった。

 暗殺、テロ。GPD隊員の損耗率は極めて高かった。だが組織が拡充しつつある現在は防戦一方ではなかった。GPDは各国宇宙軍と連携して宇宙海賊を取り締まろうとしている。

 

 そういうわけでGPDアカデミーの教則によれば、海賊出現の報がもたらされてまず最初にすべきことは、海賊がどの組織に属しているかを見極めることだ。


 もちろん相手に問い質すわけにもいかず、簡単にはいかないのだが。

だいいち当の海賊自身でさえ、余程組織の中心いなければなにかに属しているという自覚は薄い……もともと協調性など皆無な連中だ。のびのびと商売が続けられれば、しのぎの上前をはねる大ボスが誰かなんて深く考えていないかも知れない。


 霧香はブルックスの船の通信設備を借り、純粋に業務上の必要からオンタリオステーションの管制室に連絡した。相手はかなり焦っているようだった。


 『ああ、あんた銀河パトロールなのか、よかった!誰もいないと思ってたんだ』

 「保安隊はいるんでしょう?」

 『いるが、警棒を持った数名の保安要員に過ぎない。肝心のパトロール艦に連絡が取れないんだ……通信を妨害されているのか、原因はいまのところ不明だ』

 「パトロール艦はどのあたりにいたのですか?」

 『ドッキングプールに一隻、定期哨戒任務中のが一隻……そちらは第四惑星に近い宙域のはずだ。たとえ近いほうに連絡が付いても駆けつけるには半日以上かかる』


 (裏をかかれたのね……留守を狙われたのだ)


 「正体不明船から連絡はありませんか?なにか要求は?」

 『ない。それでわれわれは心配している。様子が変だ。50キロメートルの距離を置いて停止している。保安隊の隊長は、もし奴らが上陸艇を繰り出してくるようならステーションにドッキングする前に攻撃すべきだと言っている』

 「攻撃する術があるんですか?」

 『ないよ……せいぜい近接防御用レーザーとハンドミサイルだけだ』

 「宇宙戦闘艦の装甲には通用しませんね。へたに抵抗してもしても報復されるだけだわ……相手は本格的に武装しているんでしょう?」

 『あの形式の船はデータによれば自衛用火器を装備している』

 「分かりました。なにか動きがあったら連絡をいただけますか?」

 『するよ。対処してくれるのかね?』

 「もちろんです」

 『頼むよ……ところできみは今どこにいるんだ?』

 霧香が教えると、相手は驚いているようだった。

 『ブルックスじいさんの船か!念のため言っておくが、きみは不審船のいちばん近くにいるんだぞ。気をつけてくれよ』

 「はい」


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