第36話 次は海の向こうのようです
ーー 追われる者達
今回は東の海に進路を取りました、広い海を越える飛行船の旅に皆感動しているようです。
空を飛べる者でもなかなかこの海は越えられそうもないほど広い海です、海の上を馬車の10倍ほどの速度で進む飛行船でも陸地が見えるまで20日かかりました。
馬車なら一日6時間しか移動できないので、800日かかる計算です。
太平洋並みの広さですね、船を作っても難しいかもしれませんね。
やっと見えてきた陸地は大陸のようです、この世界には島は少ないようです。
上空500mほどの位置から大陸を観察します。
城塞都市のような作りの街が向こうに見えます、海に突き出したような崖に追い込まれた人たちがいるようです。
声を拾うと
「もう逃げ場はないぜお姫様。」
という悪党らしい男の声と
「最後まで私は諦めるつもりはありません。」
意志の強さを思わせる女性の声。
この声の主が姫様でしょうか、仲間はわずか30人ほど相手は300人ほどいますね。
姫様達は捉えられるか海に落ちるかしか道はないようです、こんな場面に遭遇したのも意味がありそうです。
「タロウ、運動不足でしょ。あの人達を救ってきなさい。」
と命じると長旅で暇を持て余していたタロウがフェンリルに姿を変えてお姫様と敵兵の間に音もなく降り立った。
ー 伝説の神獣現る
「姫、お覚悟をお決めください。」
姫と呼ばれた女性の横に居た老兵士が言葉を発すると女性も覚悟を決めたように頷く。
追っ手がまさに襲いかかろうとした瞬間、目の前に見上げるほどの巨体を持った魔狼が現れた。
それは真っ白い毛をした魔狼でまさに伝説の神獣のようだった。
「なんだあれは」
驚き足止めを喰らう追っ手の兵、そこにタロウが氷のブレスを吐く
あっという間に大地が凍りつき兵士らの半分が氷像に変わる、あの声を出していた追っ手の大将格も凍りつき残された兵は進退を決めかねていたところに、さらに追い討ちのタロウの孔砲。
腰を抜かした者を除けば兵士らは我先にと逃げ出していた。
タロウは海側に顔を向けると
「我は海の向こうより来た女神の使徒の従者なり、我が主人の命によりお前達を助けた。其方達の主人は我の主人に挨拶せよ。」
と言いながら空を向いた。
声をかけられた人たちは驚きと共にタロウの視線の先の空をみやげてまた驚く。
空から巨大な船が降りてきたからだ。
降りてきた船から10人ほどの人が降りてきた、先頭は若い女性だ。
「初めまして私はセシル、そのフェンリルの主人です。」
と名乗りをあげた私に姫と呼ばれていた女性も前に出ると、膝をつき首を垂れて
「危なきところお助けいただきありがとうございます。私はアトラント王国第三王女のメナシスと申します。セシル様は女神の使徒様で間違い無いでしょうか?」
「まあそうですね、女神の頼みを聞いているので使徒みたいな者です。」
と答えると
「お願いがあります。我らを保護してもらえませんでしょうか?」
と言うのでひとまず全員を飛行船に乗せて空に飛び立つと話を聞くことにした。
ー 空から王国を見下ろす
「これが神の乗り物ではなくてセシル様が造られた人の乗り物なのですか?」
空から自分の領地を見渡しながらメナシス王女は、感嘆の声を上げながら聞いてきた。
「そうです、私は今この規模の飛行船を4艇と小型の物を2艇所有しています。」
と答えると
「この海の向こうに私たちよりもはるかに文明の発達した王国が存在しているのですね、その存在も知らずに私達は小さな箱庭の中で争っている、・・・なんて馬鹿なのでしょう。」
と本気で落胆している様子。
「先ほど保護して欲しいと言われましたがその理由と、今のこの国の状況を教えてください。」
と聞けば「お恥ずかしいお話ですが」と言う言葉で
[アトランタ王国があるこの大陸は、150年前に国を興したそうでそれまでは、多民族がそれぞれの種族別に小さなコロニーを作っていたようだ。
それがなぜか150年前突然、幾つかの神器と強大なスキルを持つものが多数現れて、それぞれの国を作り出した。
その後はそれぞれは交易はするが干渉をせずにそれぞれの国を強く大きくすることに腐心していたようだが、今から数年前ほどに突然攻撃魔法のスキルを持つ者が現れ始めたそうで、それがきっかけで多種族を攻めるような流れが出来始めた。
しかし平和な生活を失うことを嫌う者が多くいたために、多種族を責めるのではなく自分の国の中で王となろうと内戦が始まったのだという。
アトラント王国も例に漏れず、5人の息子がそれぞれのバックと、応援する他国の者との思惑で血で血を争う内戦状態に突入したのがひと月ほど前。
では何故王女である彼女が襲われたかというと、彼女の後ろ盾の侯爵家が一番多くのスキル持ちを配下にしていて、その力を得るために彼女を排除しようと第二王子と第五王子が暗殺に押しかけてきたそうだ。
第二王子と第五王子は同母の兄弟で仲がいいらしい。
第三王子と第四王子も別の同母の兄弟で、第一王子は共闘するものがいないようだ。
そのため最大勢力のはずの第一王子が劣勢になり、第二と第三王子の争いが本格化してその均衡を崩すキーパーソンが第一王女メナシスの後ろ盾の侯爵なのだ。
そしてその魔の手が昨夜遅くに彼女が住んでいた眼下に見える交易都市メナシスに侵攻してきたのだという。
都市の名前が彼女の名前と同じであることで分かるように現王は、彼女をとても可愛がっており、後ろ盾の侯爵も彼女の母の実家というとこでマサカ襲われるはと油断していたそうだ。
先ほどの兵は第二王子の兵士で荒くれどもを多くかき集めた本当に兵士とは思えぬほど規律のなっていない兵士たちのようだ。]
眼下の交易都市メナシスの至る所で火の手と煙が見える、第二王子に反抗する貴族や商家の建物が襲われているようだ。
第二王子と第五王子の兵隊は、都市の外側にも姿を見ることができる。
およそ5000ほどの兵士が野営をしているようだ。
交易都市はその目的から城壁などの防衛の設備はなく街道が航路が整備された交易中心の街だったのが今回の悲劇を生んだようだ。
はるか上空から私はメネシス王女に言った
「ここからあの兵士たちを攻撃して追い払うことは容易いが?」
と言うと
「いいえ、一時的なものでしかないでしょう。ここには人族の王国が5つ、それ以外の王国が8つあるのですが、皆同じような感じだと聞いております。先づは人族の国を落ち着かせる人物が現れて、その後他民族の平定が一番望まれるでしょう。」
と答えた、まるで英雄か何かがこの大陸を閉廷して平和が訪れるような話に。
「その考えは貴方だけの考えですか?」
と尋ねれば
「いいえこれは、女神の神託なのです。「この地の争いをおさめ平和をもたらす者が現れる、その者に従えさすれば平和が訪れるであろう。」と言う神託です。」
と言うのを聞いて
「それはいつ頃の神託ですか?」
「この神託が始めに降りたのは確か40年ほど前です。それから10年から5年サイクルで同じ神託が・・・」
私はそこで話を遮った、全く女神は時間の概念が合わなすぎよ。
「そして初めて女神様に縁のあるセシル様に出会えたのです。しかも最悪の時にこれは神託の人物だと私が思うのも間違いではないと思います。」
と再度話を続けた王女。
メナシス王女を乗せた飛行船は、彼女の母の実家であるエルテ侯爵家に向けて進路を切った。
ー エルテ侯爵家
飛行船で移動すること半日で目的地であるエルテ侯爵領の上空に着いた。
「ここも何やら兵士たちが多く出入りしているようですね。」
と言う私の言葉に同じく様子を見ていたメナシス王女が
「あれは第一王子と第三王子の軍が小競り合いをしているようですね、多分エルテ侯爵が第二王子に付かないように街道を封鎖しながら牽制しているんでしょう。」
と答えた、確かにそんな感じに見えますね。
その小競り合いをしている上空に突然現れた空飛ぶ船が侯爵家の中庭に降りた。
緊張が走るそれぞれの兵士ら。
船から姿を現したメネシス王女に侯爵家のものが安堵するとともに、空飛ぶ船の異様さに改めて疑問を感じる。
そこに屋敷から飛び出した男性が数人、1人がメネシス王女の手を取ると
「おお!メネシス大丈夫だったか、心配しておったぞ。」
と言いながら怪我がないかと見ている、そこに船から現れた私達を見ながら
「メネシスあの空飛ぶ船は何かな?それとあの見かけぬ人たちは?」
と、多分その男性がメネシス王女のお爺さまに当たる人であろう。
「エルテ侯爵様、あの女性が女神の使徒様セシル様です、私の危ないところを助けていただきました。」
と言いながら私を紹介し始めた。
「セシル様、こちらがお話をしていたエルテ侯爵様です。」
とするとエルテ侯爵はすぐにその場に膝付き
「神託の使徒様長らくお待ちしておりました。しかし我が孫娘であるメネシスをお助けいただいたと、これっ女神の思し召しでしょう。これよりは我がエルテ侯爵軍が女神の軍として働きますのでなんでもおっしゃってください。先ずは屋敷にどうぞ。」
と最敬礼で招いてくれた。
屋敷に入る前に屋敷の隣の建物を見るとそこには女神教の許会が建ててあった。
神託を受けていたのはこの教会なのかな、と私は思った。
屋敷に入るとこの世界の文化や文明がわかる、魔道具はそこそこあるが魔法はそこまで使えないようだ。
私はエルテ侯爵とメネシス王女それに侯爵家の主だった貴族の集まるなかこれからの話し合いに臨んだ。
ーー 女神の思惑とは
どうも女神はこちら側の世界がマンネリ化して文明的にも文化的にも鈍化している状況に一石を投じる感覚でいるようだ。
攻撃用スキル持ちといえその能力は攻撃だけに使われるものではない。
森を開き山を崩し川を堰き止め更なる生活圏を広げる活動にも十分使えるわけだ、そうして文明や文化の多様性を考えていた女神の思惑を知ってかしらずかこの地の人々は、安穏とした暮らしに胡座をかき成長をやめたことが許せなかったのであろう。
英雄出現や世界制覇みたいな神託を降ろしながらこの人々に変化を求めていたが、痺れを切らして内乱を起こし私をこの地に向かわせた感じがする。
創造神たる女神が自分の描いていた絵と違うこの世界に私を投じて変化を求めているが、私がしたことで女神の思惑と違う状況になればこちら側の世界は一旦無に帰して作り直されるかもしれない。
ここは慎重に女神の意思を考えて行動しよう。
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