第9話 戦争

ーー 戦争が勃発!バカはどこでもいる。



セシルが産まれて住んでいた隣国メルダン王国の国王が代替わりした。

ただの代替わりではなかった、第一、第二、第三王子を殺害して第四王子が国王となったのだ。

第四王子の名は、ペラン。強欲で我儘な男で母である第三王妃の息子、隣国から嫁いできた王妃なのだがその目的は、メンダル王国の属国化なのだ。

そのようなことは全く分からない愚かな王子は、次々に上の王子らを殺害して王位を手にしたのだ。


愚かな王子が次に求めるのは、裕福になって来た隣国スーザン王国。

武力侵攻をするまでに時間はかからなかった。


その前兆を敏感に嗅ぎつけていたスーザン王国の諜報部は、王位継承前からメンダル王国の動静に注視していたのだ。

「メンダル王国との国境の防衛力を高めよ!」

との国王の言葉に経済的に余裕ができた王国は、見事な砦を築いていたのだ。


「何!スーザン王国の砦が堅牢すぎて攻めあぐねているだと。」

ペラン新国王は激怒した、そして

「国境越えが無理なら魔の森を経由して越境せよ!」

と命じたのだ。


愚鈍な国王を持った王国兵は、危険を承知で森に侵攻した。

当然多くの人間が森に入ることから、魔物が活発化し始めた。

昼夜となく魔物が兵士を襲い、いつの間にか5万もの兵士が1万にまで減っていたのだ。

「大隊長!このままでは我らは全滅します。引き上げましょう。」

副官が涙ながらに訴えて、メンダル王国兵士は全滅寸前で引き上げたのだ。


その報告を聞いたペラン新国王はさらに激怒。

「どこでも良い、隣国を攻め落とせ!」

と3カ国の侵攻を命じ、半年もせぬうちにメンダル王国は歴史の上から消え去ったのだった。



「そうか、メンダル王国は自滅したか。しかしあの砦の堅牢さは見事だ。」

とスーザン王国の国王が砦を設計建築したビブラン侯爵の手柄を認めた。

「あの砦の設計と装備については、セシル子爵の協力の賜物です。職人達の中にも貴重な土魔法師が多く参加しており、その堅牢さは見事の一言に尽きました。」

と答えると国王も

「さもあらん。」

と納得していた。



ーー 建築技術は、時代や世界を超える


セシルの孤児院には常に30〜50人ほどの孤児がいる。

学校という名の平民用の学舎と孤児院内の特別教育課程を修了した孤児らの能力は恐ろしいものだった。

普通これだけの能力を得た子供であれば、

「俺は成り上がってやる!」

などと言って人を踏みつけのし上がるような気もするが、この孤児院を出た子供らにそのような野心はない。

有るのは

「女神の化身にこの身を捧げるために我はあの実を食したのだ。」

と言う共通認識のみ、あの実にそのような副作用があったのだろうか?


そしてセシルの過去の記憶が鮮明になり、異世界の建築技術が披露されるとその技術を身に付けようと子供らは寝る間を惜しんで努力するのだ。

そして土魔法と錬金魔法を与えられた子供達が作る建築物が、この世界に姿を現し始めた。

最初の建物は子爵領に出来た女神を讃える教会、高さ100mを越える見事なその塔は観光客の人気の聖地で有る。

次の作品がセシルがよく利用する温泉施設スパのリニーアルした建物だ。

3つ目が国境沿いの難攻不落の砦で、皆の願いは

「いつかはセシル様のお屋敷を作りたい。」

なのだが当のセシルは、初めて購入した屋敷に今も住んでおりそこを出ようとか建て替えようとか全く考えていないのだ、その為住宅関係ではセシル以上の建物を作るわけにはいかないと、技術があるのに今までと変わらぬ建物が多い理由なのだ。


しかしそれでもセシルが命じれば、その技術を出し惜しむことなく見せるのが孤児院出身者。

大河にかかる橋から子爵領とビブラン侯爵領内の施設はすべて彼らが設計から建築までこなすのだ、神に見せるためにように命懸けで。



ーー 美容は奇跡を超えたよ。


この世界で美容薬の最高峰といえば、

「女神の雫」と「聖女の雫」シリーズだ。

その製造元は私ことセシルなのだが、最近魔力がさらに多く濃くなったようで効果がさらに増し始めたのだ。


「セシル子爵様、肌を整える女神の雫シリーズの効果がさらに高くなった様子です。」

と言って来たのは、ビブラン侯爵夫人であるイメルダ夫人。

彼女はもともと毒を盛られて肌を痛めていた経歴があるのだが、あれから5年ほど経ったのに娘であるスイフトと姉妹と間違えるほど若々しいのだ。

「そうですね、まるで10代の肌ですね。しかしいくら若返った気がしても寿命自体は変わらないと思います。」

と言えば

「それはそうでしょう。でもね、女なら死ぬまで美しいと言われたいのです。これは女の希望そのものなのです。」

と美しい笑顔で答えていたのが印象的だった。

「私の美容薬が奇跡を呼んだのだいやそれ以上かな。」


この女神の雫、聖女の雫は、王妃も使っている物で常時使える人はおよそ30人。

それ以上の量産をして備蓄しているが、貴重さがこの美容薬の効能を高めているのだ。

今ではスーザン王国の国家間の大きな取引の中にも、「女神の雫、聖女の雫」が入るほどだ。

しかしその量は厳重に管理されている、特に王妃によって。

そうだよね。


美女の王国として世界に噂され始めたスーザン王国、その基本は雫シリーズと言われており。

王家からの褒美に

「何を求める。」

と聞けば必ず

「雫シリーズを我妻と娘に。」

と答えるのが今のスーザン王国の貴族の流行りなのだ。


その上求婚や成婚の儀式において新郎から新婦に、雫シリーズを贈るのがステータスとなりつつあるのだ。

そのためその値段は、

「一雫金貨1000枚」

と言われるほどになっている。


お陰で私の臣下に褒美を与えようとすると、ほぼ断るのだがどうしてもと言えば

「それではセシル様の作る雫シリーズをお与えください。」

と言うのだ、しかも使った形跡がない。

と言っても売ったりするのではなく家宝にしているのだ。

臣下の自慢は

「我が家には雫シリーズが3本ある。」

とか言うのがその証拠だ。



ーー スイフトお嬢様の結婚



ビブラン侯爵家の一人娘スイフト嬢が結婚することになった。

スイフト嬢は、今年18歳この世界の貴族女子であれば早くはない年齢だ。

お相手は王国の第三王子スフィンクス、幼き頃からの縁で侯爵家に叙爵した頃から話が来ていたそうだ。

この話しには王妃も大変乗り気で、多分あれが確保できるからだろう。

美とはそれほどまでに人を虜にする物らしい。

それは別として、スイフト嬢の結婚に花を添えようと私もかなり努力しましたよ。

披露宴がわりのパーティーの料理は、我が子爵家の料理人が担当。

ドレスや宝飾品その他嫁入り道具は、4大商会長が張り切ってくれて。

当然姑問題解決のために「女神・聖女シリーズレア」という超高級シリーズを持たせました。

今では王妃が王女と並んでも区別がつかないほどの若返りようで、王妃様の笑いが止まりません。


新居も建ててあげました、王家所有の湖が見える避暑地に白亜の豪邸をね。

でもね、スイフト嬢は何故か私の屋敷によく来ているのです。

「当然よ、私達はお友達なのだから。」

といつものお言葉、まあいいかと思いながら旦那様は寂しかろうと思っていました。


そしたら今度は

「ねえ、セシル子爵様はいつ誰と結婚するの?」

と聞かれた、そしてその答えは

「誰も私に求婚してこないのよ。私もてないのね。」

という寂しい答えでした。

これには裏があるようで、私に求婚しようとする貴族や他国の王家関係者を事前に王家の影が排除していたのだ。

それに孤児院出身者が協力しているとの噂も。

「女神を娶れるものはいない。」

という合言葉まで作って、これって行き遅れ確定なの。



私も17歳になり、花も恥じらうお年頃。

恋のひとつもしたいのだけど・・・お相手がね、いないのです。

別に選り好みしているわけじゃないのよ。

私を守ってくれて、頼り甲斐のある男性という条件でさえクリアする人がいないのよ。

「どうしてーー。」



ーー 子爵領の発展が凄すぎる



代官に任せていた私に領地運営、時々様子を見ていたが最近凄すぎて・・・。

あの兄妹は、領主の素質があるわ。

王国随一の観光地としてその名を知らしめるセシル子爵領別名「女神の憩い」というのが広く知れ渡り、生きてる間に一度は行ってみたい場所のトップに立つ。

なんかどこかの「おい◯参り」みたい、でも人が喜んでくれるなら私も嬉しいわ。

と思っていたのですが、収入を聞いたら恐ろしいほどの金額が。

雫シリーズでかなり稼いでいる私でもびっくりするほど、領地経営て儲かるものなのね。


そう言えば、魔の森と呼ばれる大森林で魔物が活性化しているようで、ギルマスから冒険者の派遣要請が来たの。

そう「女神の五指」からなる孤児院出身者の冒険者パーティーに。

今では8つのパーティーが出来ていて、それぞれ活躍が目覚ましいようです。

でもね誰も結婚しないのよ、その訳を聞いたら

「女神にその身を捧げたものは終身独身を貫くものではないですか。」

と言ってね。

私が早く結婚しないといけないかもしれないな。


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