第23話 番外編 ???視点 2

 絢爛華麗な王宮の白い廊下の端を一匹のトカゲがこっそり這っていた。

 ところどころ配置されている高価で美しい調度品。その陰に隠れながらある男を探して王宮内を移動していた。


 はちみつ色の髪の少女、いやもう少女とは呼べない。清楚ながら滲み出る気品と色香、美しく羽化した乙女。その夫を探す。

 トカゲは見くびっていた。王宮は広かった。


 乙女の夫のカバンに入り込み、王宮についてきた。男が部屋を出て行く。

 しばらく待ったが男は戻ってこなかったので、トカゲはドアの隙間から外に出た。

 そこには左右に広がる広大な廊下があり、その広さにトカゲのまん丸い目は更に大きく見開いた。


 干からびるまでに見つかるといいな。



 朝から王宮をさまよい始め、日が暮れるころ、ようやく乙女の夫がいる部屋にたどり着いたよ。

 乙女の夫と共に数名の男たちが頭を寄せ合って何か討論をしている。

 頭を揺らしながらそれをしばらく聞いていたトカゲは、ささっとドアのすき間から部屋を出ていった。



 トカゲは国境近くの森に来ていた。

 日が陰り森の中はもう暗い。奥の方にちらちらと明かりが見える。

 そこには隣国の兵士たちが集っていた。

 トカゲのまん丸い目に炎が揺らいでいる。


 暗がりに突如現れた大きな何かに、隣国の兵士たちは翻弄された。

 急に強い風が吹き、一瞬にして焚火の明かりがすべて消えた。

 そしてその風に煽られて多くの兵士が飛ばされていく。木に激突し意識を失った者、怪我をした者、戦力がどんどん失われていく。

 撤退!!という声がそこここで聞こえる。


 久しぶりに竜の姿に戻った竜は暗闇に乗じて王都の近くまで飛んで戻り、すっとトカゲの姿に戻ると乙女の家の庭に帰った。


 そのころ、王宮に緊急の伝令が届いた。

 隣国の兵が撤退をしたと聞き、集まっていた面々は安堵の息を漏らした。

 突如、隣国からの宣戦布告。降伏しないと侵攻するとの通達にラッシュ国は毎日寝る間もなく対策を話し合っていたのだ。



 乙女の庭の一角にはドラン国の花が植えられている。

 我の国の花。我の祠に供えてくれた花。

 庭に住むトカゲはそこが一番のお気に入りだった。

 その花の葉陰でいつもくつろいでいる。

 でも本当はイチゴも植えて欲しいところ。


 トカゲは最近、乙女の元気がないことに気が付いた。

 そういえば夫という男を最近見ない。

 トカゲは久しぶりに帰宅した乙女の夫のカバンに潜り込んだ。


 こうしておけば、朝寝過ごしても大丈夫だからね。


 王宮の一室で話し合われていた事。

 隣国からの宣戦布告。

 だから乙女の夫は帰れない。乙女を悲しませるのは誰?

 我は国境に向かった。



 乙女の夫が帰ってきた。乙女は美しい瞳から涙を流して男を迎え、抱きしめた。

 

 次の朝、小さな器に赤いいちごが一つ、我の花の下にそっと置かれていたよ。

 小さな両手でいちごを掴み、ぱくりとかぶりついた。

 ふと気が付くとこちらを見て乙女が笑っていた。


 もしかして我のこと・・・


 別に知って欲しかったわけじゃない、存在に気が付いて欲しかったわけじゃない、ただ見守りたかっただけ。でも・・・


 なんで涙がこぼれるのかな?なんでこんなに胸があったかいのかな?


 竜の化身は久しく感じたことのない思いを胸に、いちごを抱きしめながら笑顔の乙女を見つめた。


 はちみつ色の髪の乙女の笑顔。


 これからも我が守っていくつもり。


 終


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る