第22話 番外編 ???視点

 そろそろあのはちみつ色の髪の少女が竜の山に来る頃だろう。


 竜は再会を楽しみに、竜の山のふもとの森を日々うろうろしていた。しかしあまりにも長い間、待ち続けていたため、暇でうっかりと眠ってしまい気が付くと鳥に咥えられて空を飛んでいた。


 魔力でバシンとはじくと、鳥は驚いて竜の化身であるトカゲを放した。トカゲはそのまま地面に落下したが、ふわっと着陸した。

 しかし運悪くそこには人間がいた。悪いタイプの方の人間だ。

 落ちてきたトカゲに驚いた人間はどうやら観光客だったようで、竜のお使い様について知らなかったようだ。

 面白半分に友人同士で踏みつぶそうと追いかけまわした。


 竜は、ほんの一瞬光を放つと人間たちの意識を奪った。しかしそれに気を取られ、人間たちが犬を連れてきていたのに気が付かなかった。急に木の陰から飛び出てきた犬がトカゲを咥えた。その犬もすぐに撃退したが、犬の牙で少し体が傷ついてしまった。


 竜の体に戻るとすぐにでも回復するが、トカゲのままだと少し時間がかかる。木の根っこの陰で怪我が治るまで体を休めるつもりで・・・気が付くと干からびてしまっていた。

 一体どのくらいぼんやりしていると干からびるのだ。

 この竜の化身・・・聖獣はうっかりさんだった。


 表皮に水分が戻ればすぐに復活する。雨が降るのを待てばよいかとただ時間に身を任せていると、美味しい紅茶が降り注いできた。


 助かったとみれば、待ちかねたはちみつ色の髪の少女だった。


 一度目の生で悲しい思いをした少女。



 その時もこの森で彼女と出会った。彼女はどこか思いつめ、立ち入り禁止の森の奥深くまで入り込んできた。

 そして地面を掘ると指輪や首飾りを埋めた。涙を落して埋め終わると森を出ようと歩き出した。しかし、この森は一度入れば出られない迷いの森だった。彼女は慌てて歩き回り、余計に方向を見失っていった。


 そして祠に行き着いた。もう久しく人の手が入ることのなかった石造りの祠は薄汚れていた。祠には竜の紋がほられていた。

 その女性はハンカチを取り出すと祠の汚れを拭きはじめた。周りを見渡し、花を見つけることはできなかったが若い木の枝を一本手折り祠にささげた。そして両手を組んで、伝説と言われている竜に祈りをささげた。


 大昔、人間にこうして祈りを捧げられることで聖獣として存在し、民を守っていたこともあった。しかし人間は次第に傲慢になり、祈りを忘れいつしか竜は伝説となった。竜も別に人間に思い入れも恨みもなく、袂を分かちただ住みやすいからとそのまま竜の山にトカゲとして生息していた。


「そなた、案内してやろう。」

 急に人型に変身して現れた竜に、彼女は驚いたようだが、これ以上迷うのは不安であったらしくおとなしくついてきた。


 森の出口には祖父母が不安な顔で待っていた。3人にお礼を言われ、お茶をごちそうになった。そして別れ際に、「あの森に入れるあなたにお願いしたい」と祠にささげる花と果物を渡された。


 なぜかと尋ねると彼女は、人に忘れられた竜がしのびないといった。

 自分もこの地に来たときは興味本位で、観光のシンボルくらいに思っていたが、あの祠を見て、昔はもっと人々は竜を大切にしていたことが分かり、それが捨て置かれていることがとても悲しかったといった。

 まるで自分も捨てられたことがあるかのように。


 この人間に興味を持った。いや、正直に言えばうれしかったのだ。だから彼らがこの地を去るとき荷物に潜り込んでついて行ってやった。

 彼女の住む庭を新たな住みかとした。


 まさか我が付いていながら彼女の命をみすみす奪われるとは。

 だから我は願った。彼女にもう一度会えるようにと。

 彼女が幸せになるようにと。そして時間が巻き戻った。



 それで、今回ももちろん荷物に忍び込んでついてきたよ。夫とかいう男の屋敷の庭に住み着いて、今度こそ彼女が幸せになるよう守るつもり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る