第12話 告白

 これまで自分は婚約者を妹にとられた挙句殺される被害者で、テューネとステファンは加害者としか思っていなかった。黙って逃げ出しても文句を言われることはない、逆に二人は喜んで結ばれるだろうと思っていた。


 しかし、まだ何も起こっていない今、婚約者に理由もなく逃げられ拒否されたステファンの側からみると、彼の方が被害者なのだ。仮にテューネと結ばれるとしても、話し合って、婚約を解消するべきだった。


「ステファン様・・・申し訳ありませんでした。あなたにはまだ何も非がありません・・・私の思い込みで御迷惑をおかけしました。」

 真っ青な顔で声を震わせて謝罪をした。


「じゃあ、このまま一緒に戻ってくれるね?」

「それは・・・」

「納得するまで部屋から出さない。」

 この人は本当に自分のことを大切に思い、心配してここまで探してきてくれたのだ。

 普通なら、怒ってこちらの有責で婚約破棄をされても仕方がないことをしているのにまだこんなに優しくしてくれる人だった。だからこんなにも大好きになった。

 捨てられるのが怖くて、傷つくのが怖くて早々にこうやって逃げてきてしまうほどに。


「ステファン様・・・私の妄言を聞いてくださいますか。それで・・・私を判断してくださいませ。」


 エヴェリーナは自分が一度死んで、二回目の人生をやり直していると、自分がそう思っていることを告白した。

 そして、テューネとステファンが睦みあっている現場に出くわしたこと、祖父母を頼って家を出たこと、激怒した祖父母が報復としてエルノー伯爵家を没落に追い込み、ステファンも生家を離籍されたことを話した。


「・・・君の夢や妄想と片付けるには具体的で真実味がありすぎるね。」

「そして私をうらんだステファン様達に私は殺されたのです。ですから・・・それを思い出してしまったから、私はもう逃れる事しか考えられなかった。今のあなたは何もしていなくても側にいるのが苦しくて苦しくて・・・誰も知らないところに行きたかった」


 先ほどとは違って静かに涙を落して話すエヴェリーナの様子は気が触れてるわけでも嘘をついてる様子もなかった。

「・・・今の僕は何もしていないと分かってくれてる?」 

「はい」

「じゃあ、手に触れてもいいかい?」

 返事ができなかったエヴェリーナの手を両手で包むと、

「話してくれてありがとう。打ち明けてくれてうれしいよ。」

「私を・・・おかしいと思わないのですか?」

「思わない、事実かどうか判断できる材料は僕はもっていないけど、エヴェリーナの事はよく知っているから。」

「ステファン様・・・」

「前の人生でどうして僕はそんなバカなことを・・・。君を裏切った挙句手にかけるなんて信じられないよ。」

 眉間にしわを寄せて、辛そうにつぶやく。


「今の僕を信じてほしい。僕をそばで見てほしい。」

 真剣な顔で見つめてくるステファンに、押さえて押さえて押さえつけてきた想いが表に出ようとしてくる。気が付くとステファンに抱きしめられ、ステファンの唇が自分のそれに触れていた。

「ステファン様・・・」

「いい?」

 かすれるような声でステファンがささやく。

「失いたくない、僕を安心させて・・・お願い。」

「あ・・・ごめんなさい・・・今日は無理で・・」

 エヴェリーナは不安そうに、自分の体を抱きしめた。


 はっとしたようにエヴェリーナから離れると

「申し訳ない!あんな目にあったのに・・・気分悪くない?!大丈夫?!」

 ステファンは謝り

「ゆっくりしてと言いながら長々と話をさせてしまって申し訳なかった。もう休んで。・・・・その良かったら・・・この部屋にいてもいいかな?」

「え?」

「よこしまな思いはないから!!その・・心細いかと・・心配だからここで番をさせてほしい。」

 彼女のことを心配しているのも事実だが、また逃げられるのではないかという不安もあった。

 エヴェリーナは困った顔で悩むように首をかしげた。


 乱暴されかけ、アルビンの裏の仕事を聞かされてひどくショックと恐怖を感じた上に、とうとう自分の秘密を告白し、気持ちは乱れに乱れている。一人になりたい気分と、心細くて誰かに縋りたい気持ちと自分でも自分の気持ちがわからない。


ステファンは即拒否をされなかった事と先ほどどさくさに紛れてキスをした時も突き飛ばされなかったことから、ここは頑張り時だと気合を入れた。

「ドアを開けて隣にいるだけだから・・・人の気配があれば少し安心できるんじゃないかな?」

「でも・・・そうするとステファン様が眠れないですわ。お体に障ります。」

(おお!側にいることは承諾してくれるんだ!)

「平気ですよ。殿下に仕えていると徹夜なんていつもの事だから。それに今日のことを国に報告するため、まとめたり手紙を書いたりとどのみちゆっくりは寝れないからね。それならこちらであなたを守りながら仕事をする方が僕もありがたいんだ。」

「ステファン様・・・ありがとうございます。お疲れになられたらご遠慮なくお部屋に戻るか・・・どうしてもお辛くなったらわたくしの横でお休みください」

 エヴェリーナはうつむいて顔を赤くしながら言った。

「はい!ぜひ!あ、いや・・・すいません」


 エヴェリーナの信頼を少しは得ることができたとホッとした。

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