第11話 再会 2

 ベッドの上にはもう逃げ場所がなく、震える体で自分の体をきつく抱きしめるしかなかった。

 余裕をなくした険しい顔で迫ってくるアルビンにぎゅっと目をつぶった。


 その時、ドアの外が騒がしくなったかと思うとドアが吹っ飛ばされ、数人がなだれ込んできた。


「エヴェリーナ!大丈夫か?!」

 ステファンは、髪が乱れ頬を赤くし服が引き裂かれた状態のエヴェリーナを見て、

「貴様!!」

 この国の騎士に取り押さえられていたアルビンを思い切り殴りつけた。

 そして上着を脱いでエヴェリーナにかけ、抱き上げた。

 体を震わせ、泣いているエヴェリーナは抵抗もせず、されるがままだった。


 エヴェリーナは、ドラン王国第3騎士団に連れていかれ、医者に診察された上事情を聴かれた。

 しかし、相手が聞きたいことは何も話せなかった、こうして襲われるまで表の顔しか知らなかったのだから。



 ステファンが身元引受人となり、彼が宿泊している宿に連れていかれた。

「もう大丈夫だから、これ以上聴取されることはないと思うよ。ゆっくり休んで」

「・・・・ありがとうございます。」

「僕が焦って君を連れ出そうとしたばかりにこんなことになって・・・すまなかった」


 エヴェリーナは横に首を振った。

「いえ・・・あのままだと知らないうちに通訳として密輸に関わってたと聞かされました。こんな私の為に迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。」

 うつむいたまま、膝の上で手を握り込んでお礼を伝えた。


 ステファンの前にいるのがいたたまれず、逃げたいのにもうどこにも行くところがない。

「・・・あの男が好きだった?」

 ふたたびゆるゆると首をふる。

「婚約は解消しない。僕は君としか結婚するつもりはないんだ。今まで、君の事色々傷つけてしまってごめん。今回のことで自分の馬鹿さがよくわかった。これからやり直させてほしい、君のそばにいさせてほしい。守らせてほしい」


 ステファンから言葉できちんと伝えられたのは初めてだった。

 未来なんて知らなければどんなにうれしいだろう。

 でも、前も大切にすると言ってくれていたステファンが妹と関係を結んだのだ。人の気持ちは変わるのだ。


「・・・ごめんなさい。」

「どうして!」

「ステファン様にはこれから素敵な出会いが待っていますわ。私のことは捨ておきください。」

「この先も僕は君以外考えられない。」

「口先だけなら何とでも言えるんです!」

 我慢していたのにこらえきれずに口にしてしまった。

「あ・・・ごめんなさい。なんでもありません。お、お世話になりました。」

 頭を下げて挨拶すると、カバンをもって出ていこうとした。


 瞬間にぎゅうっと抱きしめられた。

「どうして信用してくれないの?何かあったなら教えてほしい。僕はエヴェリーナだけを愛してる。もう離れたくない」

「・・・ステファン様はいずれテューネと結ばれるんです」

「そんな事あるわけないだろ?!」

「そうなるんです。だからもう…お放しください。」

「納得できない。あの母親や妹に何か言われたの?僕はあの子に興味なんかないよ」

 こないだの様子からみて、あの二人が何かしてても不思議はない。エヴェリーナにあることないこと吹き込んだのかもしれない。


「エヴェリーナ?」

 どんとステファンを突き飛ばすと

「貴方は、私がいないときにあの子を抱くの!そして婚約解消されて実家を追い出されたあなたは逆恨みして私を殺すのに手を貸した!何が私を愛してる?守りたい?ふざけるのもいい加減にして!」

「何を言って・・・」

「もうあんな惨めな思いは嫌なの!あなたたちの側にいるなんてまっぴらなの!」

「落ち着いて!何の話かゆっくり教えて!」


 興奮して泣きながら話すエヴェリーナは、ずっと我慢していたものがあふれ出し自分を抑えられなかった。

 何も好き好んで一人異国に出てきたわけではない。自分の気持ちを押し殺して、それでも前向きに頑張っていこうと自分を叱咤してやっとなんとか立っているというのに


「なのに・・・どうして探すの?どうして追いかけてきたの?ほっておいてくれないの?」

 感情をあらわに、ボロボロになっていく様子のエヴェリーナをともかく落ち着かせたかった。

「ね、君の母上と妹は領地に送られたよ。幽閉みたいなものだ。」

「・・・え?」

「エルノー伯爵が、二人の行動を見過ごせないと決心されたんだ。伯爵も今まで君に申し訳なかったと詫びていた。」

「そんな・・・今更だわ。・・・二人は何を?」

「・・・君が行方不明になったから僕と妹の方を婚約させようと考えたんだよ。僕は、テューネの事なんて目に入ったことはない。」


 興奮状態から力が抜けたようにもう一度ソファーに座り込んだ。

「・・・でもテューネはやはりそうだったじゃない。もう・・・解放されたいの。ずっと苦しんできたの、お願い。ほっておいてください。」

「・・・。僕が君を殺したとか、彼女とその・・・関係したとか何のことか全くわからないよ。君を好きなのに、どうしてこんな目に合うのかわからないで一生過ごせというの?せめて納得できる説明をしてほしい。」


「あ・・・」

 エヴェリーナは自分の非道さに初めて思い至った。

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