さらば青春、もう来るな
日朝 柳
また恋をする
責任、取ってよね
「どうしよう」
桜坂桜は困り果てていた。
「投函部」ただその響きに惹かれた彼女は、勢いだけで入部届を担任に提出した。
だけど、担任が彼女に突き付けた言葉は残念なもので。
「部員、お前しかいないんだ。悪いが、最悪もう一人誰か誘ってくれないか?さすがに一人じゃ部活にならないからなあ」
「……わかりました」
と言われたが部室のカギは渡されたので一応向かってみた。清掃の人が入ってくれたのか中は結構きれいだ。
「うわぁ、部室だあ」
椅子に座って、机に頬ずりする。こんなに有意義な時間を過ごせそうな場所、絶対確保したい!
そう決意を固めて私は勧誘をしに部室を出た。
だけど、残念なことに入学から一か月もたとうとしているのに彼女には友達がいなかった。教室では一人佇んでいるだけの彼女に部活勧誘なんて夢のまた夢だった。
「あ、あのっ!」
「ん、どうしたの?」
「えーーっと。今日は天気がいいですね」
「え?うん、そうだね」
どういうことか分からずに彼女は行ってしまう。隣にいた子が耳打ちをしてこちらを見ている。私は自分が情けなくなって机に突っ伏して放課後まで乗り切った。
「はぁ……」
どうしよう。これじゃあ誰も誘えない。放課後も、昇降口周りでは精力的に生徒たちが部活勧誘を行っている。私は、それを部室から眺めるだけ。
「だめだなあ、私」
とぼとぼと、トイレに向かう。どうにかして誰か誘わないと。
「いたっ」
「ああ、ごめん」
考え事をしていたせいで前を見ていなかった。私は咄嗟に頭を下げて謝る。
「ごめんなさい!」
「こっちこそよけれなかったわけだし、って」
「え、七瀬?」
「桜か?」
「うん、久しぶりだね!」
「この高校だったんだな」
糸魚川七瀬。私の数少ない友人の一人。急に隣町に引っ越してしまったけど、この高校だったなんて。
「何してるの、こんなところで」
「いや、ちょっと手続きの書類をな。そういう桜は何してるんだ?」
「あーー、そうだ!こっち来て」
私は彼の手を引っ張って部室まで戻る。中に入って、いったん座ってもらう。
「なんだ?俺はこの書類を出しに行きたいんだが」
「まあまあ」
そう言って半ば強引に座らせた。
「ここ、なんだと思う?」
「部室じゃないのか?」
「正解!」
「そうか、じゃあ俺はこれを出しに行く」
席を立って彼は扉に手をかけた。どうしよう、七瀬が行ってしまう。このままじゃ誰も勧誘できない。どうにかしてこの部活に入ってもらわないと!
今思えば、あまりにも無謀すぎた。そして愚かだった。携帯をポケットから取り出して立ち上がる。
私は彼の肩に手を置いて振り向かせた。そのまま、私は目を瞑って口づけをした。
突然の出来事に彼は足元をおぼつかせて倒れる。そのまま押し倒す形になる。
「っ、突然なにやってるんだ!」
慌てて突き放す七瀬。彼の耳は確かに赤く染まっている。
「お願い、部活に入ってよ」
「嫌だ!お前、そんなことする奴だったのか」
怒った彼は部室を出ていこうとする。だけど、私がそんな彼の背後から携帯を見せた。
「じゃあ、これを先生に見せる」
「何言ってるんだ。大体これはお前が無理矢理」
「それ、先生の前でも同じこと言える?」
多分押し倒した時に頭を少しぶつけたせいだけど、彼から見たら涙目で怯えているように見えるはずだった。
「んな卑怯な」
「これも手だよ」
「分かった。部活には入ってやる。ただし形だけな」
「え、」
「……ああもう!分かったよ来てやる」
「やった!」
「お前にとってキスはそんな軽いもんだとは思ってなかった」
捨て台詞のようにつぶやいた七瀬の言葉に、私は反射で
「初めてだよ?」
と返す。それを聞いた彼は再び顔を赤くした。
「もういい、帰る!」
ドンッと思いっきりドアを閉めて帰ってしまった。
「ありがとうー!また明日ね!」
彼は手を挙げて返事の代わりをする。
再び静けさに満ちた教室には外の部活勧誘の声が響き渡る。
良かった、一人は入部する人を見つけることができて。
安心して私は部室のソファに寝転がった。
「それにしても、どうしてあんなに動転してたんだろ」
キスって、そんなに大切なものなの?
私は、恋する気持ちが知りたい。
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