正義028・正義剣

「「「ガアアアァァッ!!!!」」」

「ユゼリア、こいつらって……!!」

「ええ! 昨日の鬼熊オーガベアと……同じ……!!」


 エスとユゼリアは視線を交わした後、すぐに戦闘態勢に入る。


 次々と生まれる邪獣は、その全てが黒い魔力を纏った個体。


 血管のような紋様も直径30~40メートルにまで及び、たちまち周囲を黒い邪獣達に囲まれた。


「「「ギャギャァッ!!!」」」

「はあっ!」

「ジャス!」

「切り裂け――【風刃ウィンド・カッター】!!」


 方々ほうぼうから襲い掛かってきた小鬼らしき邪獣をそれぞれに吹き飛ばすエス達。


 邪獣が纏った魔力マナの密度は昨日の鬼熊のものよりも少なく、攻撃も比較的通りやすい。


 鬼熊には弾かれたユゼリアの風刃も、黒い魔力の防御壁を破ってしっかり相手に届いていた。


「昨日の鬼熊より戦えるわ! こっちの方向は任せて!」

「オーケー!」

「ジャス!」


 エスとジャスティス1号はユゼリアの言葉に頷き、各自別の方向を向く。


 背中合わせで3方向の敵に対応する形だ。


「――グオォォッ!!」

「ほっ! ほいっ! やあっ!!」


 エスは背中側をユゼリアとジャスティス1号に任せ、正面の敵を撃破していく。


「数が多いね!」

「ええ! キリがないわっ!!」


 1体ごとの強さなら昨日の鬼熊に及ばないが、その数の多さは脅威的だ。


 倒してもすぐに次の相手が湧き、際限なしに襲い掛かる。


「くっ! まずいわ! 邪獣のランクも少しずつ上がってるみたい!」


 戦いが始まって1~2分後、ユゼリアが徐々に押されだした。


 彼女が言うように、少しずつ強い相手が混ざりはじめたのだ。


「任せて!」


 エスは相手取る敵の数を増やして、ユゼリアの分をカバーする。


(でも、たしかにキリがないね……!)


 戦う敵が増えようがエスにとっては問題ないが、ちまちまと倒すには少し面倒くさい数だ。


(打ち漏らしが出たら嫌だし……そうだ!)


 エスはポンと手を叩く。


「よし、俺も剣を使おう!」

「え!? 剣……!?」


 エスの声を聞いたユゼリアが、ちらりと背後を見ながら言う。


「そう! 敵の数が多いし、剣があったほうが楽だからね!」


 エスはそう言いながら、近付いてきた敵達の足元を蹴りで薙ぎ払い、風圧でまとめて遠くに飛ばす。


 その隙に右腕を天に向けて掲げ、剣を呼び出すための文言を唱える。


「来たれっ! 正義執行!――【正義剣ジャスティスソード】!!」


 刹那、エスの心臓がドクリと跳ねた。


 心臓に秘められた正義力ジャスティスパワーが溢れ出し、掲げた手のひらの先に集まっていく。


 正義剣はエスが呼び出せる正義武器ジャスティスシリーズのうちの1つ。


 正義の心に呼応して顕現する正義武器は、どれもが強力な性能を誇る。


(……来た!)


 手のひらに集まった正義力は数回明滅した後、一際ひときわ強い光と共に正義剣を顕現させる。


 ブワッと剣を中心に正義力の余波が広がり、黒い邪獣達の足を止めさせた。


「…………は?」


 そして、それはユゼリアも同じだった。


 敵が足を止めたタイミングで再び後ろを振り返ると、エスの剣を見てポカンと動きを止める。


「……それが、エスの剣?」

「そうだよ!」

「そうだよって……ただの木の棒じゃない!」


 エスが握っていたのは、茶色にくすんだ棒状の物体。


 一見すると、少し長めの木の枝にしか思えなかった。


「木の棒じゃないよ! 正義剣!」

「いやいや、でもどう見ても木でしょ!?」

「木じゃないよ! ゴボウだよ!」

「ゴボウ……? ゴボウって何よ!!」

「野菜だよ!」

「剣じゃないじゃない!!」


 ユゼリアは全力でツッコむ。


 剣かと思って見れば木の枝で、木の枝かと思えば野菜だった。


 意味不明な状況に唖然としていると、止まっていた黒い邪獣達が動き出し、ものすごいスピードで向かってくる。


「しまった……!」

「大丈夫!!」


 急いで杖を構えるユゼリアに、エスはニッと笑う。


 彼が正義剣を握った以上、敵の多さはもはや関係がなかった。


 さっとユゼリアの前に出て、正義剣を腰に当てたエスは、剣身に正義力を籠めて一気に抜き放つ。


 すると、横凪ぎの軌道から黄金の〝飛ぶ斬撃〟が発生し、迫っていた邪獣達全てを上下に両断する。


「なっ!!?」

「もういっちょ!!」

 

 ユゼリアが目をみはる中、エスは素早く体を反転させる。


 もう1度黄金の斬撃を飛ばし、反対側の敵も一掃した。


「うん! やっぱ剣はいいね!」

「ちょ……!? 何なのその威力!!?」


 たった2振りで絶命した邪獣達を見て、ユゼリアは大きな声で言う。


 斬撃を飛ばすのはともかくとして、その威力がとにかくすごい。


 威力を強めたユゼリアの風刃でも黒い邪獣を両断するのは厳しいのに、エスの斬撃は1度に複数体の邪獣を両断したのだ。


 しかも、斬撃を飛ばす際の詠唱のようなものもない。


 斬撃の発動スピード、威力ともに並外れていた。


「それ……本当に剣だったの? ん? でも野菜でもあるって……」


 あまりにもめちゃくちゃな状況に、ユゼリアは理解が追い付かない。


「うん! ソードって名前だし剣だよ! だけどゴボウでもある!」

「えぇ……?」

「正義剣は正義力の消費が激しいんだ。威力は強いけど、使いすぎると正義力がなくなっちゃう」


 エスは湧き出した敵を飛ぶ斬撃で次々仕留めながら、正義剣の能力を説明する。


「ほら、こうやって攻撃してると、だんだん正義力が減ってくる……だから――」

「えっ!!!?」


 ユゼリアはエスの行動に驚愕する。


 剣の先端を口に近付けたかと思えば、そのまま齧り付いたのだ。


「えぇ……?」


 突然の奇行に困惑するユゼリアに、エスは「美味い!」と笑う。


「こんな感じで食べると、正義力が回復するんだ! 強くて美味くて一石二鳥!」


 エスはそう言いながら、さらに周りの邪獣を倒していく。


 もはやユゼリアに加勢する隙はなく、ジャスティス1号も大人しく待機していた。


 そんな無双状態が続くこと約5分。


 正義剣の長さが元々の3分の2ほどになった頃、新たな邪獣の出現が止む。


「ふぅ、終わったかな?」


 エスはぐるりと辺りを見回し、正義剣を送還した。


「その剣……いえ、もうツッコみ疲れたわ。かなりの数を討伐したわね」


 周囲を見回して答えるユゼリア。


 ネストの中では、至る所に邪獣の死骸が転がっている。


「それにしても、あの魔法陣は何だったのかしら……?」


 ユゼリアはそう言って、魔法陣が描かれていた場所を見る。


「あれ? まだ紋様が光って――」

「ジャス!!」


 ジャスティス1号が何かを察したように、警戒の鳴き声を上げた。


 魔法陣の紋様が先ほどよりも強く黒い光を発し、巨大な魔力溜まりを形成する。


「――ヴォオオオオオオォォォッ!!!」


 そこから現れたのは、昨日の鬼熊よりも濃密な魔力を纏う巨大な邪獣だった。

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