正義024・襲撃

「………………え?」


 エスの言葉に、ユゼリアの顔の赤みが少し引く。


「尾けられてる?」

「間違いないよ」


 エスは声を落として言うと、再びジャスティス1号を見る。


「ジャスティス1号、数は分かる?」

「…………ジャス!」

「全部で4人か」

「そこまで分かるの……? すごいわね」


 ユゼリアはそう言いながら、酔い醒ましのポーションを取り出す。


 ぐっと一気に飲み干すと、顔の赤みはほとんどなくなった。


「ふぅ……それで、どうするの? おびき出す?」

「うーん、そうしよっか」


 エスはユゼリアの提案に頷く。


 感じる視線の雰囲気からして、碌でもない相手であることはたしかだった。


 人通りの少ない路地等に入れば、何か行動を起こしてくるかもしれない。


 エス達は小声で相談し、細路地に移動することにした。


「――ここを通ると近道できるわよ!」

「そうなの? よく知ってるね!」


 自然に会話する風を装いつつ、建物の間の路地へと入っていく。


 そうして、路地の入口から10メートルほど進んだ時――エス達の背後に4つの人影が現れた。


「ジャス!」

「来た!」

「……っ! 出たわね!」


 エスが瞬時に振り返り、次いでユゼリアが振り返る。


 4人は皆、黒いフードを目深に被っていた。


 その上、黒い仮面を付けているため、完全に正体不明だった。


「……アンタ達何者?」


 ユゼリアが問いかけるが、返答はない。


 敵の1人は懐から札のようなものを出し、何やらブツブツと唱える。


 エス達が攻撃に備えて構えた直後、敵とエス達の周囲が白く発光した。


「ジャス!?」

「眩しっ!」

「【瞬光フラッシュ】……!?」


 不意を突かれたエス達に向けて、敵は一斉に各自2本のナイフを投擲する。


 しかし、咄嗟に反応したエスとジャスティス1号が、全てのナイフを叩き落とした。


「甘いね!」

「「「「………っ!」」」」


 攻撃を防がれた仮面の4人が後ずさる。


 エスが捕縛のために近付こうとすると、4人は瓶らしきものを取り出して地面に投げた。


 割れた瓶はボン! と爆発して大量の煙を発生させる。


「……っ! ケホッ! 煙幕か!」

「コホッ! 吹き飛ばせ――【突風ブラスト】」


 ユゼリアが素早く煙を払うが、既に4人の姿は消えていた。


「ジャス……!」

「そっか……逃げられたみたい」

「煙幕が出ている間に逃走用の魔道具を使ったみたいね。最初から失敗した時のことを考えていたんだわ」


 ユゼリアが悔しそうに言う。


「それに、攻撃の仕方も陰湿だったわ」

「うん。確実に仕留めようとしてたね。ナイフに毒っぽいのも塗られてたし」

「毒!? そうだったの?」

「うん。ほら」


 エスはそう言って、地面に落ちたナイフに手を伸ばす。


 ナイフを叩き落とす直前、先端に塗られた何かが見えたのだ。


 実際、ナイフを拾ってみると、青黒い液体がべっとりと塗られていた。


「これ……青毒せいどくじゃない!」

「青毒?」

「かなり強いことで知られる毒。原料の植物が希少だから、相当高価なはずよ。こんなものまで使うなんて……」


 ユゼリアはナイフの刃を布で包み、ポーチにしまっていく。


 青毒は微量でも危険であり、放置しておくと二次被害を招く恐れがあった。


「敵の本気度が窺えるね。俺達を狙ったことは……」

「ええ。間違いなく……」


〝謎の邪獣〟。


 エスとユゼリアの声が揃う。


 2人が狙われる原因といえば、それ以外には考えられない。


鬼熊オーガベアを討伐したからかしら?」

「どうだろう。そもそも森の調査自体が――」


 そこまで言った時、エスは嫌な予感がした。

  

 エス達への尾行が始まったのは、【龍の鉤爪亭】を出てすぐのこと。


 ロレア達と別れた直後であり、彼女達もまた調査依頼を受けていた。


「――ロレア達が危ないかも」

「あっ……!」


 はっという顔をするユゼリア。


 あくまで可能性には過ぎないが、状況的には十分考えられる話である。


「急ごう!」

「ええ…!」


 顔を見合わせたエス達は、駆け足で来た道を戻る。


「ロレア達の宿は……こっちを真っすぐだったっけ」


【龍の鉤爪亭】の前を通り過ぎ、さらに道の先へと急ぐ。


 そのまま30秒ほど駆けていると、遠くに数人の人だかりができていた。


「……っ! あれは!」


 エスは走るスピードをぐっと速める。


 人だかりは円になっており、中心の何かを見下ろす形だ。


「…………っ!!」


 中心を覗き見ると、珍しく焦った顔のラナと回復魔法を使用するヴィルネの姿があり、その傍らで青い顔のロレアとエンザが倒れていた。

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