正義009・調査3

「はあっ!!!」

「ギィッ――!!?」

「……少しずつ邪獣の出現頻度が上がってきましたね」


 目の前に現れた巨大な蟷螂かまきり型の邪獣――黒蟷螂ダークマンティスを切り伏せたロレアが言う。


 ロレア達とエスの一行は『ロズベリー大丘陵』の中ほどまで進み、順調に邪獣狩りを続けていた。


 進むにつれて邪獣の強さも増していき、小鬼以外の邪獣もちょくちょくと出はじめている。


 たとえば、今しがた討伐されたEランク邪獣の黒蟷螂。


 小鬼ゴブリンよりも1ランク上なだけあり、その強さは小鬼の2~3倍だ。


 あるいは、額に長く尖った角を生やした槍兎スピアラビット


 こちらも黒蟷螂と同じEランク邪獣で、小鬼よりも機動力が高い。


 どちらも駆け出し冒険者から恐れられている邪獣だが、ロレア達とエスの敵ではない。


 初めは後衛で待機していたエスも、小鬼を星に変えたことで十二分な戦闘力を持つと判断され、邪獣の討伐に参加していた。


「ギィ!!!!」

「黒蟷螂です!! 皆さん構えて――」

「ほっ!」


 ドゴォォォォォッ!!!


「ピギュ……!!」

「背後から槍兎が――」

「よっと!」


 ボガァァァァァッ!!!


「「「「ギャギャッ!!!!」」」」

「こいつらは……闘小鬼ゴブリンファイター! 小鬼の上位種で――」

「ほいっ!」


 ズガガガガッ!!!!!


「「「「………………」」」」


 種々の邪獣を現れたそばからエスが討伐し、ロレア達がそれを呆然と見つめる。


「エス……無理はしなくていいんですよ?」

「ん? 全然平気! ちょっとは運動しないと鈍っちゃうからさ」

「運動……今エスが瞬殺した闘小鬼はDランクの中級邪獣なのですが……」


 ブンブンと腕を回すエスに苦笑するロレア。


 その傍らでは、ラナ達3人が絶命した闘小鬼達を観察していた。


「よくこんな芸当ができるよねー」

「だよなぁ、こりゃ相当なパワーがいるぜ?」

「……す、すごい光景だよね」


 合計で4体の闘小鬼達は、綺麗な横並びの形で地面に下半身が突き刺さっている。


 正義力ジャスティスパワーを籠めた拳で垂直に殴り付けた結果だ。


 エスは地面から出た上半身の心臓あたりに手を突っ込み、闘小鬼の魔核を引きずり出す。


「こうすると魔核を回収しやすいかなと思って。〝杭打ち戦法〟って名付けてみたんだけど、どう? 便利なやり方じゃない?」

「たしかに便利そうですが……エス以外には無理だと思いますよ? ただでさえ草の根が張って地面が丈夫になっているのに……」


 ロレアの言葉にラナ達3人がうんうんと頷く。


「そうかなぁ?」


 自分以外には無理だと言われ、エスは首を傾げる。


 昨日の食事の場でも常識の違いを感じたが、先頭面でもその違いが表れるようだ。


 ラナとヴィルネはともかく、パワー系に見えるエンザもロレアに同意している。


「それでは、もう少し調査を続けましょうか」


 闘小鬼の魔核を回収後、一行はさらに1時間ほど邪獣を狩っていく。


 小鬼、黒蟷螂、槍兎、闘小鬼以外にも新たなDランク邪獣、毒怪蝶ポイズンバタフライが出現したが、エスは何の問題もなく対処できた。


 ――小鬼と闘小鬼はことごとく地面に埋め。


 ――黒蟷螂は細首で繋がった頭部だけを蹴り飛ばし星にして


 ――槍兎はご自慢の角を掴んで地面に埋め。


 ――毒怪蝶は毒を吐く前に手刀で両断し。


「相変わらず綺麗に埋めますね……」

「その細首も頑丈なはずなんだけどねー」

「よく恐れずにあの角を掴めるな、と……」

「手だけで真っ二つなんてすげえなぁ!」


 ロレア達曰くエスの戦闘スタイルは『あまりに独特』とのことで、終始驚いている様子だった。


 計2~3時間の探索で調査を切り上げたエス達は、草原を抜けてロズベリーへの帰路に就く。


 前方をロレア達3人の女子組、後方をエスとヴィルネの男子組が歩く形だ。


 ヴィルネはロレア達3人のパーティにスカウトで加入したそうなので、一歩引いた立ち位置にいるように見える。


 もちろん3人との仲も良いそうだが、同じ男子であるエスにシンパシーを感じたらしく、自然とこの並びになっていた。


「しかし、恐ろしく強かったですね……エスの職業ジョブは一体何なのでしょうか?」

「最初はエンザと同じ【拳闘士】系かなと思ったけど、威力が違うもんねー」

「ああ、あれは完全に別物だぜ? 身体強化系の何かだとは思うけどよ」


 町まで続く一本道を歩く最中最中、前方を歩く女子組が口を開く。


 エスの職業が何なのか気になるみたいだ。


 ヴィルネも同じことを思っていたようで、エスのほうを遠慮がちに見る。


「エ、エスは自分の職業が何だか分からないんだよね? 特殊な魔力マナみたいなやつを纏ってたし、魔法系の職業かもしれないよ……」

「魔力? 俺は魔力なんて使えないよ?」

「「「「え???」」」」


 エスの発言に声を揃えるヴィルネと女子3人。


「昨日も使っていませんでしたか? あのC級犯罪者を捕らえる時……」

「だよねー。あの巨大な拳を飛ばしたやつ、魔力の塊じゃなかったの?」

「いや、あれは魔力じゃないよ。正義の力、正義力ジャスティスパワー!」

「「「「正義力???」」」」


 再び声を揃える4人。


「正義力……エスの固有ユニークスキルか何かでしょうか?」

「魔力の特殊変異かもしれないねー」

「職業も固有ユニークかもしれねえな!」


 ロレア達は各々に考察を始める。


 エスとしては職業自体がないのだろうと思っているが、この世界の人々にとって職業を授かるのは常識だ。


 たとえ村人のような一般人でも【農夫】や【漁夫】のような何かしらの職業があり、〝無職〟というのは存在しないと聞いている。


 恐らくは職業を持たない――違う世界から来たことを示唆する内容に触れると「うっ……頭が……」となるので、現在のエスは〝職業不詳〟という話になっている。


「こ、今度教会に行って鑑定してもらったらどう? そのままでも十分強いけど、職業を知っているとそれに合わせた能力を伸ばせるよ」

「そうだね……後で行ってみるよ!」


 エスは笑いながら答える。


(職業かぁ……たぶんないと思うんだけど)


 職業の話題が終わった後は、今日戦った邪獣のことや他に気になっていることを皆に尋ねる。


 道の先にはうっすらとロズベリーの町門が見えはじめていた。

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