第48話 愛の実現(おまけ)

そんなこんなで、なだれ込むように婚約から結婚式が計画され、ある晴れた輝かしい日、私は着飾ってイアン殿下と一緒に、オープンパレードの馬車に乗せられて手を振っていた。


民衆の歓呼の声が響き渡り、シンデレラ・ストーリーは完成した。


なんかこう……これでいいのだろうか。

いいんだろうかなぁ。


ま、イアンが手に入ったし。

それなら、いいか、あとはどうでも。

なんか王太子妃やることになってしまったけど。



結婚式の最後に、やっと二人きりになった時、イアンが言った。


「君に約束したよね?」


「何を?」


「ほら、あの隠れ家でハムを食べちゃった時のこと」


ああ、あの、食べ物の恨みは恐ろしいって話よね。


「君に国をプレゼントするって」


え? 


「僕は、本気だった」


隣の国でもプレゼントするよって、まさかフリージアをプレゼントするって意味だったの?


イアンが真剣にうなずいた。


「僕は約束は守るんだ。未来の王妃様。この国は君のものだ。国を挙げて君を守る」


私のイアン。


王子様だろうが王様だろうが、関係ない。たくましくて、力強くて、頼れる人。

私が頼れる人。


本当はずっとずっと待っていた。


私には、強大な魔法力があって、自分ひとりで生きていくことができる。


でも、一人で生きていくことは、孤独な道。頼れる人が欲しい。すべてを預けても安心できる人が。人間の弱みなんだろうか。温かな、共に生きていく人を探してしまう。


「国なんかいらないわ」


私は言った。


「あなたが欲しいだけ」


私は彼の胸にすがった。イアンはがっしりと抱きしめてくれた。


イアンの腕の中から、彼の顔を見上げて、セリフを盛大に間違えたことに気がついたが、後の祭りだった……





多分ここで、私の話は終わりだと思うのだけど、一つだけ。


私は、王妃様になってから、ここフリージアにも魔術ギルドを創設して薬を作らせていることになっている。


なっていると言うのは、実際には、私一人が作ってるからだ。むろん助手はいるが。


フリージア特産の死人も生き返る薬は、もう、世界中で有名だ。外交の切り札でもある。


「余りの不味さに死人も生き返ると」


イアンが薬の効用を解説した。


「違います。最近はグーズベリー味やストロベリー味も出来たのよ」


私は少しツンとして言った。


「かわいいリナ」


もう三十台の半ばを超え、それ相応に肉も貫禄も付いた夫がキスした。


「ありがとう」


夫は、私の薬作りの趣味を止めない。利用することを考えているところが彼らしいけど。


「だって」


彼は言う。


「いつも君は、大したことないと言うけど、この薬は垂涎の的なんだ。世界中から何かと引きがあってね」


引きと言うのは、譲ってもらえまいかと千金を積んで申し込まれていると言うことだ。


作っているのは、メアリとハリエットが、料理の片手間に作ってるだけなんだけど。そんなことをばらしたら、メアリとハリエットが誘拐されてしまうので、黙っているしかない。あとレシピ泥棒が決死の覚悟で侵入してくるだろう。


メアリとハリエットも、こっそり自宅で作ったことがあるらしい。でも、全く効き目はなかったらしい。それからは、おとなしく王宮で作っている。


成分解析はものすごい熱心さで各国で行われ、ほぼ解明されている。

したがって、コピーが不可能というわけではない。


しかし、作っても作っても同じ成果は出なかった。

研究者泣かせだ。


結局、薬の効果の秘密はいまだに解き明かされていない。


それらは私が触った途端、魔力を帯びるのだ。それだけだ。


「パーティの時も出来レースだなんて言っていたけど、君程の美人はいなかった。すぐに君を見つけることができたもの。魔法のようだった」


薬の真相がバレたら、シンデレラストーリーも、魅了魔法のせいにされると思う。


「そんなことはない。だって、君だけが、汚らしくて息も絶え絶えの僕を助けてくれたんだよ? 王子じゃないってわかっていても。君に初めて会った時から、僕は君を愛し始めたのだ」


恋は魔法って言うじゃない。


私の魔法より、ずっとすごい魔法があるのよ。それは不可能を可能にして、遠く離れてしまった二人を引き合わせた。


きっと来世も、めぐり合うわ。あなたと。




『婚約破棄されて、離れ離れにされた二人は、異国の地で再び出会い、愛を確かめ合いましたが、別れ別れになってしまいました。

娘を見つけるために、王子様はパーティを開きました。その中で一番美しい娘と結婚すると言うのです。

国中の娘がこぞって参加しました。娘は、王子からプレゼントされた約束の青のリボンを付けていました。王子は娘を見つけ出し、二人は結婚して、末永く幸せに暮らしました』


この物語は、おとぎ話よろしく、絵本になって広く知れ渡った。


私も、小さな自分の王女にせがまれて何回も読み聞かせた。(男の子の方は興味なさげに剣の稽古に行ってしまった)


「お母さま。素敵なお話ね」


娘は目をキラキラさせながら言った。


でも、このお話はそれだけじゃないのよ! 私は力説した。


「恋に溺れて仕事(王子職)を忘れるなとか、大事なものは力づくでも取ってこいとか、深い意味があるのよ」


娘には無視された。貴重な提言なのに。


「私にも、素敵な王子様がいるといいなあ。もうどこかに生まれているのかしら」


素敵な王子様……それはつまり



あなたを世界で一番大事にしてくれる人に巡り会えますように。






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