第46話 伯母の言い訳

イアン王太子と私は、伯母の手によって、ロビア家の邸宅に強制送還された。


伯母は、「リナほどではない」そうだけど、立派な魔力持ちだ。


どうも伯母はその魔力を使って、何から何まで全部監視していたような気がする。


王太子殿下とマーク・ロー、それに伯母と私がドヤドヤと、三階の物置部屋から突然現れると、使用人たちがびっくり仰天していた。


殿下はあっという間に城に連れ去られ、私は伯母から説教されるために自邸に残された。



だけど、伯母の口から出てきたのは、謝罪の言葉だった。



「ごめんなさいね、リナ」


「え?」


私は顔をあげた。


「あなたをもっと早くイアンに会わせてあげられたら、よかったのだけど」


私は、伯母が何をどこまで知っているのかわからなかったので、黙っていた。


「でも、アレキサンドラ嬢とかカサンドラ夫人が立ちはだかっていて。なんだかよくわからない売り言葉に買い言葉的なパーティ開催が決まってしまって」


あれは事故だったのか。その割に、伯母もイアンもノリノリだったような。


「それに私はしようと思えば、ロビア家には踏み込むことが出来たと思うの。一度や二度、訪問を断られても、逆に疑うべきだったわ」


知らなかった。伯母は様子を見に来ようとしてくれていたのだ。


「あんな酷いことになっていただなんて。想像もしていなかった。あの人たちは異常です」


バーバラ夫人とエミリは、私がフリージアに来て元気な姿を見せたあと、ロビア家を出て行くよう裁判所から言い渡された。だが、抵抗し続けていて、官憲たちの手によって、ようやく出て行ったそうだ。


「おとなしくしていればいいのに、シンデレラ・パーティに参加するためのドレスを借金して作ったそうです」


私は眉を吊り上げた。


何だって、バーバラ夫人たちは借金してまで、参加しようと思ったのかしら。

大体、目をつけられている事くらい知っていたと思う。


「どうして、参加出来たのかしら?」


お家乗っ取りを企んだことは、みんなに知られている。王家だって当然知っている。王家の情報収集能力は半端ない筈だ。


「偽造した招待状を持っていました。応募はしていなかったらしいわ。応募しても、一次審査で落ちるに決まっています」


「偽造なのに殿下にあいさつに行ったのですか?」


自首しにいったようなものだ。殿下は覚えていなくても、側近や係の者は、ちゃんと参加者名簿か何かを持っていただろう。


しかも殿下に向かって、私を引き合いに出して、自分の方が優れていると自説を披露したため、すぐに誰だかバレて、イアンの逆鱗に触れたらしい。


「そのまま牢獄行きになりました」


「えっ?」


「本来なら、王家の婚約者につながる身分の者なので、牢獄なんか入れずに穏便に済ませたかったのですが、イアン殿下がお怒りで。それと、同様に失礼なことを言ったアレキサンドラ嬢も同じ牢に入れてあるのです」


何、そのニコイチ状態。


なんだか嫌だわ。そばに行きたくないわ。


「エミリはあなたの従姉妹ですし、アレキサンドラ嬢も王家に連なる高貴の身の上なので、待遇はいいらしいです。でも、牢の中で、二人でいがみ合っているそうですよ。二人でお互いに相手の悪いところを罵りあっているらしいのですが、殿下が、きっと良い反省の機会になるだろうとおっしゃるのですよ」


絶対に反省しないと思う。高ストレスの拷問みたいだけど、放置しておいていいのかしら。待遇さえよければ、外聞はいいので、新手のザマアですか?



「シンデレラ・パーティ、結果としては、見事、王太子殿下のハートを射止めた娘が現れて、めでたしめでたしで終わったわけだけど」


すごい出来レース感があるのですが?


こっそり入ってきたメアリが言葉を添えた。


「マーク・ロー様が今朝、イアン殿下のお供で来られた時に、お嬢様のことを褒めてらっしゃいました。抜きん出た美しさで、他の殿方が何人もダンスのお誘いに行かれるので、ヒヤヒヤしていたと」


それは褒めていたのではなく、愚痴っていたのでは?


「ファーストダンスは自分だとイアン殿下は仰っていたそうで、ロー様はお嬢様がダンスを承諾しないよう、必死で繋ぎ止めていたそうです」


あれは、それか。気の毒な。


伯母が続けた。


「ですから、今、イアン殿下は、とーってもお忙しいはずなのです。あなただけにこっそり、身分を打ち明け、カサンドラ夫人が勝手に破棄した婚約を元に戻したと公表すれば済む話でした。それを、ノリでシンデレラ・パーティを催し、どうでもいいエミリとアレキサンドラ嬢に激怒して、牢屋に突っ込んだ。政務をほったらかして、あなたと一緒に三時間もしゃべりっぱなし」


いやいやいや。それは殿下の自己責任……。


「しばらく、殿下には会えないかもしれませんが。何しろ代替わりした宮廷など様々な勢力が跋扈ばっこしているものです。イアン殿下は、着々と味方勢力を増やして、生き生きとしてますけど。殿下の方が、陰謀を仕掛ける側になっちゃってると言うか……」


老練な伯母も、イアン殿下の精力的な活動には協力する余地がないらしい。すごい……いや、怖い。


「王太子妃に決まった以上、あなたが今後はフリージアの貴族社会の頂点に君臨することになります」


は……?


私は、マグリナの魔術ギルドに戻って、新薬の……?


「忙しくなりますわ。まずは、ロビア家主催の正式なお茶会を開催しなくては。主催者にお父様が生きておられればよかったのだけれど……」


フリージアの王家なんかどうでもいい……わけにはいかないのか。


イアン、あなたのために私は社交界に乗り出すのでしょうか?





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