第20話 どうする? どうしたい?
「……っす。ども」
インターホンを鳴らし、アカハナトナカイ宅配便です、とアドじいが名乗ると、ちょっと不機嫌そうな顔をした
せっかくのクリスマスの配達だけれども、何も特別なことは起こらないまま終わってしまった。懸賞が当たった、という設定だし、アドじいはただのサンタの恰好をした配達員さんということになっているから感謝の言葉が何もないのは覚悟してたけど。
「でもさ! クリスマス当日にこんっっっなベタなサンタが荷物を持って来たらだよ!? 多少はびっくりするとか、にこっとするとか、そういうのがあってもいいと思わない?」
腕を組んでぷりぷりと怒りながら、一応、開封後のリアクションまでしっかり見届けないとと、そりの上から部屋の中を見る。
「まぁまぁノンノ、怒らない怒らない。こんなのはね、よくあることだから」
「かもしれないけどぉ!」
うーっ、何でこんなにプレゼントの渡し甲斐のない人が選ばれたんだろ! ぶっちゃけそんなことまで考えてしまう。
だけどきっと、箱を開けたら喜ぶはずだ。だって、三尋木君が、彼自身が欲しがっていたものなんだから。トランプにすごろく、それからボードゲームと、もうとにかく色々。
詰めたプレゼントを一つ一つ思い出していると、大きな箱を持った三尋木君が玄関の方から歩いてきた。そしてそれを床に置いて、ゆっくりとガムテープを剥がす。そして、蓋を開けて――、
「え?」
またすぐ閉めた。
「えっ、あれ? 何か全然喜んでない! どうして!? だって、ちゃんと欲しいものを、私、めっ、メガネで! これでちゃんと!」
嘘、見間違えた? そんなことないよ。だって。
サンタ帽子に引っかけたままになっていた『どれどれメガネ』を手に取る。もしかしてレンズが取れてたとか? だとしたら見えてたのは私の幻覚とかになっちゃうけど!
あわあわしている私に、「落ち着いてノンノ」とアドじいが優しく声をかけてくれる。トナカイの姿だった三頭が、『三人』になって、のし、とそりの上に乗り、私を囲む。
「深呼吸しろ、チビ。大丈夫だから」
「花ちゃん大丈夫大丈夫。ほぉーら、吸ってぇー、吐いてぇー」
「こんなこともあろうかと、レディの好きなココアも持って来ました。どうぞ、飲んで落ち着いてください」
レラからは背中を
「落ち着いたか」
口の端についていたらしいココアを、服の袖で、ぐい、と拭われる。「ちょ、レラ。服が汚れちゃう」と言えば「どうせトナカイに戻れば毛皮だ」と返された。まぁそうかもしれないけどさ。
「ノンノ、びっくりしたね。でも、これもよくあることだから」
「そうなの?」
「そうだよ。人の心って複雑だからね。でも、『どれどれメガネ』で見えたプレゼントだから、間違ってはいないんだ。そこは安心していいよ」
「だけど」
だけどやっぱり何か引っかかる。部屋を見た時の違和感もずっともやもやと気になったままだし。せっかくのクリスマスプレゼントなのに。まぁ、三尋木君はそう思ってないかもだけど。
「あ」
もしかして、と思った。
違和感の正体、これかも。
「……三尋木君の部屋、クリスマスっぽいものが一つもない」
「うん? どうしたのノンノ」
「ツリーもリースも何もない」
ほら、と部屋の中を指差す。きちんと整頓された、きれいな部屋だ。だけど、そこに『クリスマス』は一つもない。
「まぁ、そういう家もあるよ」
「そうかもしれないけど。だって、三尋木君、毎年クリスマスは朝から晩までパーティーしてるって言ってたし」
「朝からって……もう十時ですよ?」
「まだ始まんないのかなぁ」
「いやいや、どう考えてもそいつのホラだろ」
「かもしれないけど。でも、ツリーも本物でリースも手作りだ、って」
「それも全部嘘だったんじゃない?」
「かもしれないけど! でも、お手伝いさんとかいるみたいだし、ツリーくらい飾ったりさぁ」
「それだってそこん家の自由だろ」
でも何か気になるんだもん、とカップを持ってない方の手を振って力説する。
と。
「ノンノ」
名前を呼ばれた。
隣に座る、大先輩のサンタクロースだ。にっこりと笑って、私の頭をぽんぽんとなでる。サンタ帽子がズレないように、優しく。
「一応プレゼントは渡したから、これで終わりにもできるけど、どうする? ノンノはどうしたい?」
どうしたい? って聞くということは。
終わりにしない選択肢があるということだ。つまり、裏のプレゼントを探って渡す、っていう。
はっきり言って、三尋木君は苦手だ。それでも欲しいと思ってるものをちゃんと渡したんだし、これで終わりにしたっていい。だけど、今日はクリスマスだ。私の勝手な押し付けになっちゃうかもだけど、クリスマスってもっと素敵なものであってほしい。三尋木君にとっても。
「わ――、私、三尋木君がもっと喜ぶプレゼント渡したい。まだ帰らない」
ぎゅっと拳を握り締めてそう言うと、アドじいはにっこりと笑った。
「それでこそウッキの孫ちゃんだ。あのね、ウッキもそう思ってた。ノンノが帰っても、ウッキ一人で残るつもりだったんだよ」
その言葉を聞いて。
やっぱりアドじいはサンタを続けるべきだと思った。
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