第51話 覚悟してください

「覚悟してください」


 土煙の中からアオイが飛び出し護符を振り、遠距離からいくつもの光文字を放つが。


「そう来ると思ったのだね」


 ダ・ヴィンチは攻撃を予見していたのか、薙刀を回転させてすべての文字を消滅させ。


「まったく、バカの一つ覚えかね」


 直後、真後ろから来たミカの拳を、面白くもなさそうに片手で持った絵筆で受け止めた。

 それにもめげず、ミカは拳や蹴りをダ・ヴィンチに連打していくが。


「数撃てば当たるというのは、圧倒的な実力差の前では迷信になるのだね」


 ダ・ヴィンチは片手をアンドロイドの首に触れたまま、ミカの攻撃をいなしていた。


「さらに言えば、同時攻撃すればいいという発想も甘いのだね」


 アオイもさらに護符を振って攻撃を当てようとするが、アンドロイドは薙刀を器用に操って粉砕していく。


「ふむ。お仲間の男達はどこなのかね?」


 攻撃してくるのが女性二人だけであることにダ・ヴィンチが訝しげに尋ねると、アンドロイドがグラリと傾いた。


「なるほど。足を狙いに来たかね」


 ダ・ヴィンチはよろけつつもすぐに体勢を立て直し、アンドロイドに足元を払うように薙刀を振らせる。

 そして土煙で見えなくなっていた地面を露呈させ、リクとユイトの姿をあぶり出した。


「アンドロイドを倒そうとしても、その程度の攻撃では無理なのだね」


 刀と小太刀を持つ二人を見下ろし、そんな武器では巨木にナイフで挑むようなものだと、ダ・ヴィンチは嘲笑う。

 実際、二人がかりで斬ったにも関わらず、アンドロイドは大した問題でもないとでも言うように、しっかりと地面に立っていた。


「さて、貰った恩は返すのが人としての礼儀かね」


 ダ・ヴィンチが至極真っ当に聞こえる意見を口にすると、アンドロイドは右手に薙刀を持ち、左腕を上げ手のひらをアオイに向けた。


「──ッ!? 皆さん逃げてください!」


 何かに気づき、慌てて叫ぶアオイの声が響いた直後、アオイが弾かれるように吹き飛び、ビルの壁に衝突した。


「アオ──」


 突然のことに驚き、仲間の名前を呼びかけたリクの体に衝撃が走る。


 意味がわからず、地面に倒れ込んだ自身の体を起こそうとする。

 しかしさらに二回三回と、何かを撃ち込まれたような衝撃が続き、リクはガラスを突き破りながら近くのビルの中へと弾き飛ばされた。


「……くっそ、何が起きた?」


 何かの攻撃を受けたことは理解できたが、何をされたのかまったくわからず、未だに破砕音が響く外をリクは入り口越しに覗いた。


「何も当たってねぇのに、ビルが勝手に壊れて……」


 アンドロイドが手のひらを向けた先にある建物が、砲撃されているかのように次々と吹き飛んでいる光景が目に入る。


「まさか!? レーザーすら透明化できるのか!?」


 見覚えのあるアンドロイドの動きと破壊の光景に、リクはその可能性に思い当たる。公園でも袖口から銃口を出してレーザーを放っていた。今の動きもそのときとまったく同じに見えた。


「そっちがそう出るなら」


 予測から最善の道を考え、リクはダ・ヴィンチがこちらを見ていないのを確認すると、静かにビルを抜け出す。そして足音を立てないように、わずかに地面から浮きながらアンドロイドの真後ろへと移動した。


「これぞ、見えざる光の雨! まるで神の所業なのだよ!」


 激しい爆撃音の中、ダ・ヴィンチは悦に入っていてリクの動きに気づいていないようだ。

 それならばと、リクは刀を腰に据えてアンドロイドの左袖を見上げ、音も立てずに一気に空を駆けると、背後からすれ違いざまに刀を一閃した。

 そして腕に硬い物を斬った感覚が届くと、何かが地面に落ちる音がして銃撃が止んだ。


「ふむ。やってくれたのだね」


 リクが離れた位置から振り向き様子を窺うと、ダ・ヴィンチはつまらなそうにアンドロイドの左袖を見つめていた。


「武器やレーザーを透明化できても、存在まで消えるわけじゃねぇ。なら、武器そのものを壊しちまえばいいって話だろ?」


 見込みが当たったことで気持ちが高揚し、リクは得意げに言い放つ。最終形態は武器が薙刀だけになったものと思っていたが、ダ・ヴィンチは一言もそんなことを口にしていなかった。


「リク先輩!」


 そこに、弾き飛ばされたはずのアオイが地面から声をかけてきた。


「アオイ、大丈夫か?」


 急激に減ったSPに比例して蓄積した精神的疲労を押さえ込むように、リクは心にムチ打ちながら仲間のもとへ行きSPバーを確認する。

 リク自身は三発喰らったせいで残り半分程度まで減っていたが、アオイは一撃だけだったのか八十パーセントは残っていた。


「私は大丈夫です。ミカ先輩とユイト先輩も、心霊現象ポルターガイストで攻撃を上手く躱したみたいです」


 アオイがそう告げると、二人も近くのビルの陰からリクに駆け寄ってきた。

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