第6話 青髪の少女

「………………へ?」


 突然グリフォンが雷に撃たれて倒れるという展開に、リクは状況が飲み込めず間抜けな声を漏らす。


 普通、雷は空から落ちてくるものだが、今は真横から飛んできた。

 ましてや空は雲一つない晴天。


 どう考えてもあり得ないことが起きた現実に、リクの思考は空転していた。 


「リク先輩、大丈夫ですか!?」


 焼け焦げ倒れた後、空気に溶けるように消えていったグリフォンを見て、アオイ達が急ぎリクのもとへと駆け寄ってくる。

 しかし無事だったことよりも、状況が急転したことに呆けて、リクはよろよろと立ち上がることしかできなかった。


「何よそ見してるです! まだ終わってないです!」


 先程聞こえたのと同じ声が四人に届き、ぼーっとするなと危機感を煽る。


 そのまだ幼さの残る声にリクが視線を送ると、白銀の胸当てを着た、へそ出しミニスカートの青髪少女がこちらを見ていた。


「スライムが来るよ」


 ユイトの警告に振り向くと、まるで報復しようと躍起になっているように、黒い水滴達が勢いよく跳ねながら迫ってきていた。


「いや、倒し方なんて知らねぇよ!」


 再開された恐怖に、リクは身を引きながら叫ぶが、少女が何かしてくれる気配はない。

 スライムといえばRPGでは雑魚中の雑魚とされているが、どれだけ攻撃されたらアウトかわからない以上、一撃たりとも喰らうわけにはいかなかった。


「敵のいない所へ!」


 ユイトの指示に素直に従い、四人はグリフォンのいなくなった方向に逃げる。するとスライム達もバラバラと四人を追ってきた。


「どうやって倒すんだよ!?」


 リクは敵から距離をとってから、青髪少女に向かって対処法を問う。

 相手のスピードはさほど早くはない、このまま逃げきることも可能だ。


 しかし、逃げた先で他の化け物に襲われる可能性もある。だからこそ、倒す方法があるなら知っていそうな人物に教えて貰うしかなかった。


「頭の中で〝装着セット〟と唱えるです。霊力の籠った武器なら、相手を倒せるです」


 唱えることで何が起きるのかリクにはさっぱりわからなかったが、言われた通り頭の中で〝装着〟と呟く。


 すると手のひらの上に黒い柄が現れ、そこから伸びた刃がギラリと陽光に輝きを放つ。

 リクが手にしたのは、刃渡り八十センチほどの、切れ味抜群そうな鋭い刀だった。


「これならイケるんじゃね?」


 一気に気分が高揚したリクは、追ってくるスライムに向かって刀を構える。


 刃物を武器として振り回したことはなかったが、妙に手に馴染む感覚に、リクは確信を持って刃を振り下ろし大きく飛び込んできた一匹を縦に一閃する。

 と、普通なら振るのにかなりの筋力を使う刀のはずが、何故かほとんど重さを感じず、まるで柔らかいゼリーを斬るように、スライムは軽々と真っ二つに切り分けられ地面にプルンと流れた。


「おおっ、倒せた! 武器があれば戦えるぜ!」


 青いバーが一瞬で空っぽになり、グリフォンと同じく空気に溶けていくスライムの姿に、リクは興奮ぎみに感嘆の声を上げる。


「あのバーを削りきれば倒せるってことだね。そういうことなら」


 今度はユイトが両手に紺色柄の小太刀を持ちながらスライムに迫っていき、飛び込んできた一匹を避けると、すれ違いざまに上下に重ねた前腕サイズの刃で相手を斬り抜いた。


「ミカ、アオイ。一撃入れればちゃんと倒せる。焦らず相手をよく見て」


 どこかで修業でも積んでいたのかと思うような鮮やかな刀捌きに、リクも「すげぇ」と感心する中、ユイトは女性陣にも戦うよう声をかけた。


「こ、これで殴ればいいのよね?」


 手の甲を覆う深紅の手甲を身に着けたミカが、戸惑いながらも足を止め拳を腰前に構え、眼前に着地したスライムにビビりながらも、思いっきり力を込めて相手を殴りつける。

 すると黒い水滴は面白いように空高く吹っ飛び、空中分解するように霧散した。


「あっ、ちょっと楽しいかも」


 まるで巨大風船を殴るかのような感覚に、ミカはもう一匹にアッパーを見舞った。


「こ、これはどう使えばいいんですか?」


 使用方法がわかりやすい三人の武器とは対照的に、アオイは手にした白い紙の札の使い方がわからず、オロオロとしているうちに二匹のスライムに囲まれた。


「相手に向かってその護符を振るです!」

「わ、わかりました」


 青髪少女が大声でアドバイスを送ると、アオイはそれに応える形で護符を横薙ぎに振る。

 直後、紋様の描かれた護符から光文字が出現し飛来したかと思うと、スライムに直撃した瞬間に爆発を起こし、水が弾けるように二匹は消えていった。


「よっしゃ残り四匹!」


 倒す手段が見つかり、リクは〝よくもやってくれたな〟とセリフを吐きそうな勢いで、刀の腹を手のひらにペシペシと打ちつけながら接近していく。その姿に、残ったスライム達は無いはずの腰を引くように後退していった。


「倒せるなら遠慮する必要はないよね」


 ユイトもにっこりと微笑みながら、両手の小太刀を素振りしつつ歩く。


「受けた恩は過剰なお礼で返さないといけないわよね」

「他に被害者が出る前に、ここで倒させて貰います」


 皮肉を交えるミカと意気込むアオイに、四匹は身を寄せ合って震えた。


「さて、どいつから倒そう……か?」


 〝形勢逆転したな〟とリクが剣先を向けると、怯えていると思っていたはずのスライム達の体の境界がくっつき、次第に曖昧になっていき。


 僅か数秒で、象すら飲み込めそうなくらい巨大な、一匹のビッグスライムへと変化した。

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