第23話 体育祭②
スタートの合図が鳴り響き一斉に動き出す。ただ焦ると絶対に転けるので走りだしは慎重に。
「お、隣のクラスの人が焦って転けちゃったねぇ。これはチャンスだぁ」
「このまま転けなければ最下位は回避出来そうだね。まぁ油断大敵だから気をつけて進んでいこうか」
途中からちょっと慣れてきたのでスピードをちょっとずつ上げていって、1ペア、また1ペアと抜かしていった。
ただ練習もしてないペアが最前線に混ざれるわけもなく、中間部からは順位が変わることが無かった。
「5位かぁ、臨時のペアにしては上出来なんだと思うけどぉ。なんだかなんとも言えない微妙な順位だねぇ」
「真ん中だからね、それじゃあテントに戻って次の出番が来るまで休憩しとこうかな」
奏音といっしょにテントに戻ると、怪我の手当てを終えた紅葉が観戦しに来ていたが、先程の蒼井のように俺の方を睨んできていた。
「紅葉にはまだ説明していたかったっけ?」
「いや、蒼井ちゃんから聞いたけどさ……別に吹雪を指定する必要なかったよね? 奏音はなんで他の仲のいい男子がいるのにわざわざ初対面の吹雪を指定したのかなぁ?」
「紅葉が白神くんの話ばかりしてくるからだけどぉ?」
俺が紅葉を家に泊め始めたのは高校が始まってすぐの頃からだがその時からスマホで俺の事ばかり連絡してたと考えると少し可愛い。
てか初対面なのに奏音が積極的に来た理由って紅葉が俺のことを伝え続けていたからなのでは? かと言って怒る訳では無いけど。
「紅葉、私に連絡をしていたのがダメだったねぇ。あそこまで良いって聞かされたらさすがの僕でも気になりぐらいはするよぉ」
そして偶然同じクラスになったので俺に頼んだとの事らしい。
とりあえず次の競技、俺が蒼井と出る騎馬戦までにはあと数競技あるので休憩時間という名の雑談時間はしばらくあるだろう。
「あ、私は次のリレー出ないといけないから行ってくるね。くれぐれも吹雪くんは誑かさないようにね?」
「……いやなんで?」
向こうから話しかけてくるのに、俺が誑かしてるみたいになってるのは納得がいかない。
というかそんなに俺の関係を気にする必要は無いと思う。蒼井が俺のことを好きな訳じゃないし紅葉とか奏音のと話していても別に良くないかとは思う。
それを言ってしまえば紅葉も結構気にしている気がする。
「ねぇ奏音、なんで蒼井は俺の女関係をそこまで気にしてると思う?」
「鈍感だねぇ……。紅葉も蒼井さんと同じだと思うけどぉ、とりあえず白神くんは自己肯定感をあげようかぁ?」
「それはつまり俺が蒼井に好かれてると思えということか? 俺のどこに好かれる要素があるんだ……」
奏音が「そういうとこだねぇ……」とちょっと呆れ気味に言ってきたが、俺みたいな一般男子高校生が蒼井みたいな美少女に好かれてると思うことは間違っているだろう。
ほかの男子にこのことを話したら絶対に夢見過ぎって言われると思う。
「うん、吹雪はもっと周りのことを見るべきだね。どこかで好いている人が居るかもしれないよ?」
正直守れる保証がないので彼女は作りたくない。怪我とかさせたら責任が取れないし、一人暮らしの俺にそんな余裕は無い。
そして何より……俺には心に決めた人がいる。
俺のことを好いてくれている人が居たとしても俺はその人に思いに応じることは無い。ただし、友達としてならやっていくだろう。
「紅葉には小学生の頃の話はしたでしょ? あの子が帰ってくるまでは俺は友達しか作らないから」
「吹雪はその人に一途だったねぇ、そういや。ただアメリカにいるんでしょ? 数年間帰ってきてないのに帰ってくるの?」
それは分からない、あおいは明確に帰ってくる日を言ってはいない、俺はあの時にいつまででも待つと言った、帰ってくるか分からないくても。
「まぁ、帰ってくるか分からない子で思い続けてる俺は馬鹿だとは思うよ。そのせいで他の人に興味を持つことは出来ないんだから」
「でもその人は幸せだと思うねぇ。ずっと自分のことを思い続けている男の子がいるんだからさぁ」
幸せだと思ってくれていると分かればどれだけ楽の事だったか。
結局、今のそんなことを考えても仕方ないので今この場にいる友達と一緒に楽しく過ごす。彼女のことは忘れられないまま。
(蒼井は本当に似てる、一瞬見間違えたくらいには。でも違うところも多すぎる)
リレーで順番待ちをしている蒼井を眺めながらそんなことを思う。
「ん?」
体育祭に見合ってない黒スーツの人を見つけて2度見してしまった。
怪しいと誰もが思うだろうが決めつける訳にはいかない、まだ何もしていないんだから。
と、思った矢先には校舎内に入って行ったので気になった俺は紅葉たちにトイレと嘘を言ってその人の後をつけて行った。
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