第7話 独り
今日は台風の日だった。さすがのあおいも山には来てないし、そもそも外に出てる人ですら少ない、そんな日だった。
「あおいと遊べる大切な夏休みが1日無駄になっちゃうのか……。でも今は風だけで雨は降ってないから外に出ようと思えば出れるのかな」
俺は合羽だけを着ていつもの山に向かって歩き始めた。
風真さんからあおいが海外に行くと聞いて、それではいそうですかと鵜呑みにできるほど俺は大人じゃない。
子どもは子どもらしく、もっとわがままで強欲で……言いたいことを言うべきだ。
「夏休みが終われば元通り……か。誰とも遊ぶことなく独りで過ごす生活が戻ってくる、でもまぁ俺からしたらそれが普通の生活なんだからいいか」
あおいに出会ったことが奇跡で、そんな奇跡は長く続かない、今回で理解出来たさ。
雨が強くなり始めた、最初は静かだったもののだんだん強くなっていくと同時に合羽に雨粒が突き刺さる。
「ヤな音だなぁ……」
今までずっと独りだった俺があおいと出会って初めての友達になって、これからもっと仲良くしようとしてたのにこれでお別れなんて。
またね、なのかバイバイ、どっちになるかなんて今の俺には分からない。案外すぐに帰ってくるかもしれないしずっと海外生活なのかも知れない。
合羽から流れ落ちてくる雨粒が前髪を濡らす。
「……あおいが普段から祈ってるこの神社で俺も祈ってみるか。せめてあおいが早く帰ってくるように」
この願いが何より強欲だってことはわかってる、でも子どもだからこそ願うことが許される。
「あおいと出会ってから本当に変わってしまったなぁ」
いままで独りで人間節気味だった俺が簡単に人を信用して遊ぶようになるなんて。本当に学校の奴らもあおいのことを見習って欲しいくらいだ。
でも人はそれぞれ違う、十人十色。この世に同じ人なんて絶対に居ないんだから。
※※※
どうしてだろう、吹雪くんとはまだ出会って1週間ちょっとしか経ってないのに、会えないことがこんなにも辛い。
私を認めてくれた唯一の人。……だからなんだね、吹雪くんは私にとって大切な人だから。
「蒼井、窓の外なんか見つめてどうしたんだい? もしかしてだけどこの台風の中外に出るなんて言わないよねぇ?」
「吹雪くんが外にいるっていう確証があったら私はすぐに出てたと思う。でもこんな台風の中で吹雪くんが外に出てるわけないよ、だって向こうにはちゃんと親が家にいるんだから」
「でも向こうもまだまだ子どもなんだ、わがままを言って外に出てる可能性だってある。もしくは親が家にいないことを利用して外に出てるかもしれないねぇ」
よく考えたら前だって吹雪くんは雨でも来てくれたんだから……。それに雨だけならこの前より弱い、ただ風は強いけど。
「すっごい、風つよいね……。でも行かなくちゃ、まぁ怪我しても夏休み中には治るでしょ。いやそもそも私が怪我をして悲しむ人はいないから関係ないかな」
ジャンプしたらそのまま空へ飛んでしまいそうなくらい風は強いけど、私は1歩ずつ山道を進んでいく。ここの山道がそんなに急斜面じゃなくて良かったとあらためて思う。
山を登った先には見慣れた神社と、合羽を着ている人が1人……。でも合羽のせいで顔がよく見えないけど、ここに吹雪くん以外の人が来るだろうか? それもこんなに台風の日に。
「吹雪く……」
私は声をかけようとして途中で辞めた。そもそもあそこにいるのが吹雪くんと決まった訳では無いし、何よりお祈りの邪魔はダメということは何より私が理解している。
あの人のお祈りが終わるまで私はここにいるつもりだが、雨は段々と強くなるし風も強くなってきた。
(余程強い願いがあるんだねあの人は。あの人がいつからここに居るか知らないけど普段の私よりお祈り時間が長いなぁ)
ここに吹雪くんが居るかなぁと思ってきただけなのでもう帰ろうとして神社を背にした。
「さすがに台風の日じゃあ来るわけないよね」
神社側から足音がする……あの人のお祈りが終わったのだろうか。でも私には関係ないので山道を下ろうと1歩踏み出した時に私は足を滑らせてしまった。
前のめりに浮いた私の体は地面に叩きつけられるとすぐに理解した。覚悟を決めて受身を取ろうとしたけど、私の体が地面に叩きつけられることは何秒たってもなかった。
「え?」
「大丈夫か? こんな台風の日でもあおいはここの神社へお祈りに来たのか」
聞き慣れた声に見慣れた銀髪、紛れもなく私の手を掴んでいるの吹雪くんだった。
「今日は……お祈りに来た訳じゃなくて、吹雪くんがここに居るのかなぁと思ってここに来ただけ。でも吹雪くんがいて良かった」
「俺に会いに来てくれるのは嬉しいけど怪我したら元も子もないでしょ。とりあえず戻るよ、風真さんの家まで送るから」
吹雪君は私が転けないように手を繋いでくれてる。ふふっ、片方が転けたら2人とも一緒に転んじゃうかもしれないのにね。
風真お姉ちゃんの家まで送って貰って吹雪くんとはそこで別れた。
「手、繋いじゃった♪」
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