第6話 勇者召喚
受験生には気の休まる日というものはなく、日々を勉強に費やしては目標に向かってストレスと将来役に立つか分からない知識を詰め込む生活を送っている。
「はぁ……今回の模試はギリギリA判定だったけど、次は文句なしのA判定じゃないと怒られちゃうよねぇ。」
私の親はちょっと厳しいのだ。そして自分達の価値観を押し付けてくる。
「A判定以外は許さないとか意味わかんないよ。」
B判定だって十分合格圏内なのにね。進路は元々親に従って決定したものだから、不服申し立てをしたいくらいなのだ。
「裁判だったら控訴ものだよ。志望校だって自分の希望があるんだけどな……。」
両親は揃って良い大学を出ている為か、私にもそれを強要してくる。しかも両親の希望に沿わなければ学費は出さんのオマケ付き。
人生は大学で決まるものじゃないはずなんだけどね。
「学費を出してくれるのは有難いんだけど、一人娘の希望くらい聞いて欲しいものだよ。」
私は模試の結果もあり、家までの帰り道を不機嫌なオーラを振りまきながら両親への不満を口にし歩いていると……
突如、上下左右に浮かび上がる魔法陣のようなものに体が包まれる。
「何これ!?」
見た事もない模様と光に混乱してしまい、その場から逃げ出す事が出来ず……。
「異界より呼び出されし勇者よ。よく来てくれた。」
気が付けば目の前には王様が居た。
勿論確認したわけじゃないけど、王冠被ってマントを付けてたら王様だって普通思うでしょ?
「どちら様ですか?」
「ワシは偉大なるイットリウム王国の王だ。勇者に是非協力してもらいたく呼び出した次第。」
王様は偉そうな言葉とは裏腹に眉をへにゃりと曲げ、非常に申し訳なさそうに話している。
状況は全く理解出来てないけど、そんな話し方されると可哀想に思えてきちゃうよ。
「事情を教えてもらえませんか?」
王様の話では……
隣国との貿易摩擦により関係が年々悪化し、隣国国王が代替わりを果たしたタイミングでとうとう宣戦布告されてしまったようだ。
元々この国では食料自給率が低く、貿易による黒字で食糧を買い付けていたそうなのだが、隣国の民衆感情のはけ口としてイットリウム王国が利用されているらしい。
「いきなり戦争に参加と言われましても。そもそも私は帰れるんですか?」
戦争なんて怖いし行きたくないに決まっている。
「すまぬ。こちらが召喚した際に設定した条件を満たさねば帰してやれんのじゃ。」
それは困る。ハッキリ言って困ってしま……
「いや、行きたくない大学への受験勉強を逃れられる?」
「ジュケンベンキョウ? とはなんじゃ?」
「こちらの話です。」
この時の私は、受験勉強と親へのストレスで本当に馬鹿な考えを持ってしまっていた。
「ふむ。ジュケンベンキョウなる怪物がそちらには生息しているという事かのう……。」
変な勘違いをされているみたい。
「勇者でも手に余る怪物か。」
王様は変な方向に解釈しちゃってるけども、私にとっては両親との確執も相まって確かに怪物と言う表現は間違っていないのだ。
「勇者は魔法の力が大層強いと記録に残っている。是非その力でこの国を救って欲し……」
「頑張ります!!」
「お、おう……そうか。」
私の態度が急に180°反転したものだから、王様がちょっと引き気味になっているのは理解出来なくない。
でもさ……
魔法と聞いて乗り気にならない日本人なんているわけないじゃないか。
私は後に……この時の選択を後悔する事になる。冷静に考えれば分かりそうなものだが、戦争なんて碌なものじゃない。
どう考えたってまともな人間の取る選択肢ではない。頷かなければ、それはそれで帰れないのだから仕方がないんだけどね。
「アオイと言います。よろしくお願いしますレイベルトさん。」
「あぁ、任せておけ。勇者がどれ程強いのかは俺も興味がある。」
勇者の教育係になったレイベルトさんはイケメンだけど、少しだけ冷たそうな印象だった。
ちょっとだけ怖いかも。
挨拶が済んだと思った瞬間、レイベルトさんはいきなり木剣で打ち込んできた。
「きゃっ!」
手に持っていた木剣をその場に放り出し、辛うじて避ける事が出来た私は思わず悲鳴を上げてしまう。
「何だそのへっぴり腰は。本当に勇者か?」
いきなり攻撃してくるなんて酷い。教育係なんだから戦い方を教えてよ!
でも怖くて言い返せない。
こんな怖そうな人に言い返せるなら、親にだってとっくに言い返してる。
どうしよう。涙が出て来た。
「このくらいで泣かないでくれ。戦い方は教えてやる。」
あれ? 怒られない。
もしかして思ったより優しい?
「想像以上に酷いな。基本がなってないし、心構えも出来ていない……が、幸い本格的な戦いが始まるまでには少しだけ時間がある。」
淡々と事実だけを突きつけてくるレイベルトさん。
「戦い方をモノにするまでは俺と稽古だ。食事と睡眠以外は休憩なんてないと思え。」
前言撤回……。
この人は全く優しくない。ただの鬼だ。
私、女の子なんですけど?
そりゃあ、王様に口止めされてるから性別は明かせないけどさ。
こんなにイケメンなんだから、ちょっとくらいは察してくれるかと淡い期待をしていた自分がアホなのだと納得するしかない。
まぁ、甲冑付けてるから女だって気付く方が不自然なんだけどね。
全く……せっかくイケメンの教育係とまさかの恋!? なんて思ってた私の期待を返して欲しい。
「どこを見ている。」
「すっ、すみません。」
ついつい現実逃避気味に空を仰いでいたら叱られてしまった。
こんなに怖いイケメンなんて見た事ないよ。
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