まりこ的『ハーフ&ハーフ』1
嘉田 まりこ
問①【あたしと仕事、どっちが大事?】
ボクは人生の分かれ道に立っていた。
右に曲がれば会社への道、左に曲がれば彼女の自宅。
「ねぇ、関川君、ここでハッキリさせて。あたしと仕事、どっちが大事なのよ?」
また無茶な二択を……答えはどっちも大事に決まってる。
ちなみに真ん中にあるのは塀、行き止まりだ。
時として女性は残酷な二択を突き付けてくる。
「もちろんキミに決まってるさ、でもね……」
「でも、はナシ。よく考えて答えてよね、返答次第じゃあたしにも考えがあるから」
ボクが働くのはキミのためでもあるんだよ、という答えは門前払いらしい。
彼女は腕組みして僕の答えを待っている。
二の腕を指先でトントンしながら待っている。
「さぁ、関川君。仕事とあたし、どっちを選ぶの?」
🌱🌱🌱
まさか、彼女の口からそんな言葉が出てくると思ってもみなかった。
彼女は某化粧品会社で、看板商品を扱う部署のマネージャーとして、そら、もうバリバリのバリキャリなのだ。
同じ質問を彼女にしたならば、1秒もかからず、何なら食い気味で「仕事!」と答えるだろう。
そんな彼女が『仕事かあたしか』なんて、桜の下で焚き火をするくらい異質だ。
「ねぇ関川君、黙ってないで早く」
確かに今日の土曜日は、二人で早起きして出掛ける予定ではあった。何処かは聞いていなかったが、行きたい場所があると言う彼女に付き合う予定だった。
けれど、アラームのように鳴る後輩からの泣きの電話を受けて、仕事を優先させるのは仕方がないことじゃないか。
「キミらしくないよ。行きたい場所なら明日の日曜に付き合うからさ」
無茶な二択をスルーしようと代替案を出したつもりでいたのだが、彼女はフルフルと首を振ってからもう一度僕に投げかけた。
「あたしと仕事、どっちが大事?」
どっちって……。
困り果てていると、彼女はゆっくりと右手で真ん中にある塀を指差し言った。
「ここに着いてきて欲しいの」
へっ……?
ボクはゆっくりとそちらに目をやった。
毎日のように通るこの塀の前、自らに関係なかったからか、今の今まで気に留めたこともなかったのだが、その影に大きな入口があった。
かのう産科婦人科
「……明日は休診なの」
彼女は強くて、自らの気持ちも考えもいつも真っ直ぐに言える人だ。
そんな人が、今日行きたい場所すら僕に言えずにいたのは、きっと大きな不安を抱えていたのだろう。
『まだ結婚していないのに』
『これからの仕事どうしよう』
……それと、きっと。
『僕が喜んでくれるかどうか』
僕は胸元からスマホを取り出し後輩へ電話をかける。
――あ、遅くなって悪い……
それを『答え』だと勘違いした彼女は寂しげに背を向け一人きりで歩き出してしまうものだから、通話状態のままなのに思わず叫んでしまった。
「一生大事にするよ!」
弾かれたように振り返った彼女は「答えになってないよ」と笑った。
僕は彼女の手を取り、病院の扉を開けた。
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