成り損ない

東かおる

あまりに綺麗な人

人間として生きるには些か綺麗すぎる人だったから、私はおまえが神さまにでもなるんじゃないかと信じて疑わなかった。

だからこうして眠るおまえが不思議なくらい美しいのも、もう二度と私の手の届かないところへ行ってしまったことも全部納得できるのだ。触れた指先に温度がないのも、もう私の呼びかけに応えることがないのも。


綺麗な人だった。この世の人とは思えない程に、美しい人だった。

絹のように艶めいたチョコレート色の髪も、白くほっそりとして器用に動くその指先も、いつだってあたたかな光を湛えた明るい茶色の瞳も。格別に美しいのは声であった。

高いとも低いとも言えず、柔らかい響きの中に微かに混ざる硬質な音。まるで金属を打ち鳴らしたかのような美しさと同時に、月の光のような静けさを持っている、と言えば良いのか。



そこまで言って、男はまるで針を飲み込んだようにひどく顔を歪めた。

暫くの沈黙の後、男は声を震わせる。


そんなに綺麗にならなくたって、私はおまえといたかったのに。


全く馬鹿で愛おしいね、と泣いているみたいに笑った。

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