終末のメスガキ

終乃スェーシャ

プロローグ

便利屋はメスガキの夢を見た

「ざぁこ♡ シショーのロリコン♡ 誘拐犯♡」


「――――ッ!??」




 夢のなか響く少女の艶やかな声に寒気を覚え、飛び起きた。


 ズキリと頭を突き刺す痛み。エストは顔を歪めて黒い髪を掻く。


 ……悪夢だったはずだ。ぜぇはぁと息が切れる。周囲を一瞥した。


 錆びた窓から見える灰の曇天。淀んだ朝日が青い瞳に映り込む。


『頭痛に悩む朝に健全な起床を。ウェイクウェイカーを一錠飲めば元気が――』


 二十四時間流れる陰鬱な薬品コマーシャルを節目にすぐに荷仕度を整える。拳銃の整備、問題なし。緋色の刀身を磨いて鞘に戻す。手榴弾をベルトポーチに数個。


 ……この仕事を続けていくなかで予知にも近い直観を一つだけ得た。


 今回も例外ではないらしい。味気ない完全食を飲み込んだ直後、端末がコールを鳴らした。


『た、助けて欲しい。【緋刃】にしか頼めない。もう前払いは済ませた。研究所が襲われる。薬品サンプルを奪われたらお終いなんだ。間に合わなければ可能な限りデータを破棄してほしい。場所はエスコエンドルフィア製薬の――――』


 悪夢を見た日は必ず仕事の依頼が来る。


 しかし、あの憎たらしい声は誰だったのだろうか。考えると、今までになく嫌な予感が背筋を撫でる。


「……師匠なんて言葉は二度と聞きたくなかった」


 夢にぼやいて、傷だらけの相貌をガスマスクで覆う。

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