第20話

 晩御飯を食べ風呂に入り、今日は授業で宿題が出なかったので少しだけ授業の復習を熟し、いざプライベートルームへ。


 入り口を出しそれをくぐると、そこは明らかに一回り大きくなったプライベートルームだった。


 中央のサクラの木は何故かダンジョンで見たときよりも大きくなっていたし、地面には芝が青々と茂っている。


 そしてサクラの木の隣に豪邸がたっていた。


 ……なんで⁉


 地面が青々としているのがファーティの加護の影響なのは察しているのだが、あの豪邸は何だ?


「お待ちしておりました旦那様……さぁ、行きましょうか♪」


 あまりの変容具合に絶句している俺の隣にいつの間にか来ていたツナミが、俺の腕を取ってあの豪邸に向かっている。


「なんだかウキウキだね、ツナミ?」


「そうで御座いますか?」


 確実に何かを隠しているツナミの様子を怪しんでいると、豪邸の前でちょっと大きくなったミナモを腕に抱えたサクラが大きく手を振っていた。


「雄大さ~ん!こっちだよ~!」


『プルゥ!(主~!)』


 大きく弾むミナモとサクラに癒されながら、ついに豪邸にたどり着いた。


 それはサクラも十分に生活できるほどの大きさで、外装は楚々とした装飾が高級感を引き出している。


 玄関のドアには、ツナミとファーティと思わしき石像が置かれている。


 そんなファーティはというと未だ姿が見えていない。


「ファーティはどこにいるの?」


『プル!(おうちの中だよ~)』


 いつものサイズに戻ったミナモが、俺の頭に飛び乗りながら答えてくれる。


「ありがとうミナモ……それにしてもさっきは何で大きくなってたんだ?」


『プルプル!(サクラお姉ちゃんがおっきかったから、腕から落っこちちゃいそうだったんだ~)』


 なるほど、つまり元からミナモは大きさを変えられたということなのだろうか?


「もっと大きくなれたりするの?」


『プル!(できるよ~このおうちぐらいなららくしょうだね!)』


 ……豪邸レベルに大きくなれるらしい。今度ミナモにベッドになってもらって寝てみよう。


「この邸宅もそうなのですが、そろそろこの旦那様の異界にも名前を付けませんか?」


「名前はプライベートルームじゃないのか?スキル名はそうなんだし」


 ミナモベッドの妄想をしていると、ツナミからこのプライベートルームに名前を付けないかと提案を受ける。


 そして調べてみると、確かにステータスのこのスキルの欄に名前を変更する箇所があった。……一度きりしか変えられないようだが。


「……とりあえずこの家の中に入って、ファーティも交えてみんなで考えようか」


「そうで御座いますね」


「さんせ~い!」


『プルゥ!(そうしよ~う!)』


 元気な返事を背中と頭上から受けながら、大きな玄関の扉を開く。


 扉を開けてまず初めに眼前へと広がるのは大きな広間だった。

 中央には踊り場につながる大階段が、そして二手に分かれ二階へつながる階段は、綺麗な青の絨毯が敷かれている。


「すごっ……」


 あまりの美しさに開いた口がふさがりそうになかった。


「旦那様のお部屋でファーティが待っているはずで御座いますから、向かいましょう?」


 俺の腕へ抱き着いたツナミに先導され、階段を上がり玄関のちょうど上にある大部屋の扉の前へ案内される。


「ファーティさま~、雄大さんきましたよ~」


 サクラが扉をノックして、部屋の中にいるであろうファーティに声をかける。


「入ってくれ!」


 中からファーティの返事が返ったきたので、部屋に入ろうとすると、俺の後ろから腕を伸ばしてサクラが扉を開けてくれた。


「ありがとサクラ」


「どういたしまして~」


 大きな扉をくぐり部屋に入った俺を出迎えてくれたのは、俺の高校指定の体操着と紺のジャージを身に着けてくつろいでいるファーティだった。


「なんで俺のジャージ着てるの?」


「雄大の部屋にあるもので一番雄大の匂いが濃いものがこれだったんだ」


 それに俺とファーティの体格差が激しいから、体操着の丈が足りずに割れている腹筋が露出している。


「別にいいけど……明日体育あるんだから朝には別のに着替えてよ?」


「あぁ、分かっているよ」


 ツナミ曰く神様は汗をかかないらしいので心配はいらないだろう。


「それで?プライベートルームのスキルがここまで様変わりしたのはなんでなんだ?」


 大きな天蓋付きのベッドにみんな座ったので、このプライベートルームの変化についての話を切り出す。

 しかしどうしてみんなこんなに近いのだろうか……。


「ツナミの加護による影響はこの地の周囲を覆う広大な海原だろう?そして私の加護が与える影響は大地の豊穣……つまりは何もない地に草木が生えるというものなのだろうが、いまだ加護が微弱だから影響もそれに伴って小さいんだろう」


 加護の強弱で環境に差が出るのは分かったのだが、それじゃあこの家は何なのだろうか。


「この家は?ツナミでもファーティでもないならだれの影響なんだ?」


 神様の加護で変化するスキルであるなら、この二人以外にはいないのでそれ以上の変化はないはずなんだが。


「この家は私が造ったんだ……雄大がダンジョン探索中に休憩で使うスキルだとツナミに聞いてね。ゆっくりと休憩を取ってもらおうと張り切って造ったんだぞ?」


 つまり加護によって発生したものじゃなく、ファーティが俺のために造ってくれたものだったようだ。


「……それは、すごくありがたいよファーティ……ありがとう」


 覗き込んできていたファーティに向かって感謝の気持ちを込めて精一杯の笑顔を向ける。


 するとファーティにベッドに押し倒されてしまった。


「それでは報酬は体で支払ってもらおうか……」


 瞳を細め舌なめずりをする姿は妙にはまっていた。


「ファーティ、今日はダメで御座いますよ」


 しかしツナミが俺からファーティを引き離したしなめてくれる。


「旦那様の明日の最初の授業は体育で御座いますので、きちんと就寝して休息をとっていただかないといけないので御座います」


「んむぅ……それなら仕方ないか」


 ツナミの説得が通じたようで、何とかファーティは俺の上からどいてくれる。


「雄大さんは~こっちで寝るんですか~?私~雄大さんと一緒に寝たいな~?」


 起き上がった俺の背中から抱きしめてきたサクラが一緒に寝ようとお願いしてきたのだが、地球の方にいなくても大丈夫なのかな?


「それでは旦那様の形をした人形を、旦那様の自室のベッドに寝かせておきますね」


 俺の心配事をすぐに解決してくれるツナミ。


「それじゃぁみんなで寝ようか……せっかくこんなに大きなベッドなんだし」


「やったぁ~」


『プル~(わ~い)』


 ベッドで控えめに跳ねる二人を眺めながら、部屋の電気を消してベッドの上に横になる。


 配置は、一番下にサクラが仰向けに寝転んで、その上に俺とツナミとファーティが川の字に並び、ミナモが俺のお腹の上に乗る三段構成になった。


 少し心配になってサクラに重くないか聞いたのだが、


「全然余裕だよ~……みんなかるいし~幸せだから~」


 今まで長い間独りで過ごしていたからか、みんなで固まって眠れることがうれしいようだ。


 ……俺が幸せにしないなぁ。


「みんなお休み……」


 柔らかいぬくもりに包まれて、穏やかな眠りにつく。


 今日もいい夢が見られそうだ……。


 ……あ、そういえばプライベートルームの名前を決めるの忘れてた。

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