第19話
サクラに抱きかかえられ後頭部に柔らかな感触を感じながら、俺は先ほどツナミと大地の神様が話し合っていた内容について聞いていた。
「旦那様、先ほど大地のと話し合っていたのは、彼女も私たちの家族の輪にくわえてくれないかという提案を受けていたのです」
「君の魔力は甘露だ……あくまでそれ目的であるということは念頭に置いておいてほしいのだが……」
大地の神様がどこか言い訳じみた理由を話しているあいだに、ツナミがスススと俺の横に寄ってきて耳打ちしてきた。
「大地のはああいっていますが、きっと今彼女は旦那様が欲しくて欲しくてたまらない状態で御座いましょう……十年前の私と同じように。それに彼女の加護を得れば、更にまた旦那様の安全が保障されるので御座います。私一人の加護であれなので御座いますから……ね?」
それはまるで悪魔のささやきの様だったが、俺に断る理由が思いつかなかった。
大地の神様の様な健康的な美人に迫られて頷かない男子高校生がいるだろうか、いやいない。
「ところで大地の神様は、何を依代にするんですか?武具なんかはツナミが全部用意してくれてますし……」
顔を赤らめていた大地の神様に、受け入れること前提の話し方をしてしまったからだろう、少し体を硬直させて返事がもらえなかった。
数秒して硬直が解けたのか、大地の神様は驚くべき提案をしてきたのだ。
「私は依代などには頼らんよ……君はテイマーだろう?なら直接私に名をつけ、テイムしてくれ」
なんと直接のテイムを申し出てきたのだ。
ツナミは依代を経由して俺の魔力に直接触れ続け、いつの間にかテイムされていて知らなかったのだが、相手の了承があれば神様も直接テイムすることが出来るようだ。
「それじゃあ大地の神様……あなたの名前はファーティです。気に入ってくれたら、俺の手を取って魔力を受け取ってください」
サクラの時と同じく、ファーティに向かって魔力を込めた手を差し出す。
すると瞬きをする暇もないほどの速さで、ファーティが俺の手を取った。
「ふふふ……末永くかわいがってくれよ、雄大♪」
目を細めて笑いかけてくるファーティは、どこか獰猛な獣を思わせる雰囲気を醸し出していた。
「ゴホンッ!……さて旦那様、急に家族が増えたわけで御座いますが……ダンジョンの探索を続けますか?」
ついファーティに見とれていると、ツナミの咳払いで意識を引き戻された。
確かにプライベートルームに来て結構な時間がたっているから、そろそろダンジョンから出たほうが良いだろうか。
「ん~……今日のダンジョン探索はここまでにしておこうかな。時間もそろそろいい頃合いだろうし」
そして四人にはそのままプライベートルームにいてもらい、俺は急いでダンジョンから出て冒険者ギルドで魔石の換金を済ませる。
すると俺を担当してくれている受付のお兄さんから、少し話があるのでと引き留められた。
「河野様、貴方の魔力量の貢献度が一定に達しましたので、冒険者ランクをCランクにランクアップ致します」
それは冒険者ランクが上がったことの報告だったようだ。
しかしランクアップが早すぎやしないだろうか?本格的なダンジョン探索を始めてまだ三日目なのだ。いくらミナモやツナミの助力ありきとはいえ、さすがに早すぎる気がする。
「そんなにポンポン冒険者ランクを上げてもいいものなんですか?」
思い切って疑問に思ったことを受付のお兄さんに聞いてみる。
「えぇ、冒険者ランクはお上が決めておりますから通達に何も問題はありません。それに河野様は、ダンジョンが出現して一週間と経たないうちに数々の国のエネルギー問題を解決したお方ですので、順当なランクアップかと」
「もう魔石をエネルギーとして使い始めているんですか⁉」
受付さんが語ってくれた事によると、発展途上国や特に貧困の激しい国に低価格で輸出しているんだそうだ。それでこの数日のうちに、様々なエネルギー問題が解決しつつあるとか。
「その魔石エネルギーの七割が河野様の貢献によるものなのですから、このランクアップはむしろ控えめな方なのです」
政府は俺がまだ学生なのを考慮して、一段ずつのランクアップに抑えているそうだ。
この数日で世界がそこまで動いているとは、呑気にダンジョンに潜っていた俺は知る由もなかったのだが。
なんにせよ俺の目標は、ダンジョンで安全に釣りができるようになることだし。
それまではゆるりとダンジョンでのレベリングを続けるつもりだ。……レベルが上がって強くなっていくのが分かるのは楽しいしね。
新しく仲間になったサクラとファーティを交えて念話をしながら帰路に就いたのだった。
玄関を開けるとエプロンを身にまとった母さんが出迎えてくれた。
「雄ちゃんおかえり~。もうすぐ晩御飯できるから、着替えたらすぐ降りてきてね」
「わかった!」
そして俺は自室に戻って着替えを行いながら、ツナミからプライベートルームに変化があったことを教えられた。
『実は旦那様の異界についてなんですが、周囲に海があるのは私の加護に寄るものなので御座います。ですのでファーティの加護が加わった分異界に影響があったので御座います』
「どんな風に変わったの?」
『雄大、それは後のお楽しみにしようじゃないか』
『そうで御座います旦那様、自身の目で楽しみませんと』
気になって質問した俺を、ツナミとファーティが一緒になって悪戯そうな声音でいなしてくる。
「……なんか怪しいけど、まぁその通りか。後の楽しみに取っておくよ……じゃあご飯食べてくるね」
プライベートルームの変容を楽しみに、晩御飯を食べにリビングに降りる。
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