第15話
「おはよう御座います、旦那様」
朝一番からツナミからの熱い抱擁と接吻を受け、気持ちのいい朝を無事迎えた。
「おはようツナミ……今何時?」
「朝の7時で御座います旦那様」
……寝過ごした。夜更かしをしてしまったのだから仕方ないが、朝食や弁当を用意する時間はもう取れないだろう。
「旦那様?朝食は無理で御座いますが、お弁当は私が用意しておきました。ですので登校の準備をしてきてください」
「おぉ……ありがとツナミ!」
ツナミが俺のためにお弁当を作ってくれていたとは、朝からとても幸せな気持ちを感じられた。
それでも時間は迫っていたので、慌てて朝の準備を済ませ家を出る。両親への朝の挨拶も忘れずに。
いつもの時間通りに駅に到着できたのは良かったのだが、今日はいつもより人の視線が多くなった気がする。
ツナミとのことで浮かれているからだろうか?
「おはよう雄大!……ってかお前イメチェンしたのか?なかなか似合ってんじゃん!」
「へっ?」
イメチェン⁉男として一皮むけただけでそこまで言う⁉
『旦那様?昨晩の途中から、旦那様の髪の一房が私と同じ髪色になっていましたし、瞳も同じ色になっておりましたよ?』
きっと種族が変わったことによる影響だろう。配色がツナミと一緒だと言うなら、そこしか疑う余地がないのだ。
「……あぁ、ダンジョンでちょっとな」
「ダンジョンで何があったんだよ……」
詳しく説明することはできないのではぐらかしておいた。
「竜司たちのダンジョン探索は順調か?」
話題を逸らすために、昨日が不調だったと聞いている竜司たちのダンジョン探索について聞いてみる。
「おう!階層型ダンジョンで十階のボスを倒せるくらいにはなったぜ!」
「おぉ~すごいじゃん!」
冒険者ギルドのサイトの情報によると、階層型ダンジョンの現段階での最高到達記録は十六階層のようだ。
それを考えると、竜司たちのパーティーは冒険者たちの中でも上澄みなのだろう。
「そういう雄大はどうなんだよ?そんなんになる体験って、よっぽどの事だったんじゃないか?」
同じダンジョンの話題なんだから逸らせるわけがなかった。
これはおとなしく吐くしかないか……。
「俺の決めた職業がさぁ……」
「お前それ言っていいのか⁉」
昨日自分で注意しておきながら、俺が自分の職業を打ち明けようとしたことにびっくりしたのか、竜司が慌てて大声を割り込ませてくる。
「職業はいずれ冒険者ギルドに登録しなきゃいけなくなるみたいだし、それぐらいならいいよ……俺ってテイマーでさ」
「おぉテイマーか!てっきり俺は釣り人みたいなのを選ぶと思ってたんだけど」
趣味が釣りの人間なんだからそう思われていても当然だろう。
「目の前にかわいいスライムがいてさ……つい衝動で」
竜司からはあきれの視線が飛んでくる。
「なるほどな……雄大らしいっちゃらしいか? でもテイマーがお前のイメチェンに関係しそうにないんだが……」
ラノベなどのテイマーに、主人公自体に影響を及ぼす職業というイメージがないから、竜司の言い分もよくわかる。
「職業自体っていうか、テイムした子が原因っていうか……」
「おぉ!めちゃくちゃ強い子をテイムしたのか⁉」
興奮した様子の竜司が、目を輝かせている。どんなごつい魔物をテイムしたのか興味津々なんだろう。
竜司はドラゴンとか好きだったはずだし。
『今度の休日にでも、竜司たちに紹介してもいい?』
『それは旦那様の彼女として、で御座いますか?』
竜司に紹介してもいいのか許可を取ろうとしたら、ツナミからかわいらしいお願いが飛んでくる。
『……お嫁さんってことで』
『うふふ……よろしいで御座いますよ』
『ありがと』
『プルゥ!(主!僕も~)』
念話でツナミとミナモの許可を得たので、今週末竜司たちパーティーと一緒にダンジョンへ行ってもいいか尋ねてみる。
「今週末一緒にどっかのダンジョン行かない?」
「急にどうした⁉」
頭の中の念話で話をしていたので、少し脈絡がなかったかもしれない。
「テイムした子を紹介しようと思ってさ」
「まじ⁉いいのか?」
竜司のこのいいのかは、きっと許可を取らなくていいのかってことだろう。まじめな竜司らしい気遣いだった。
「テイマーって、契約した子と念話が出来るんだよ。それでさっき許可とっといたから」
「わかった!俺の方もパーティーの面々に言っとくわ!」
そんなこんなで、教室にたどり着いた俺たちは、クラスメイトからいろいろと追及を受けるのだった。
俺は変わった瞳と髪色について、竜司はダンジョンでの功績が拡散されたようで、ダンジョン探索についての相談などを受けていた。
今日も平和に学生生活は過ぎていった。
そして昼休み、楽しみだったツナミの弁当を少し我慢して、別のクラスの竜司のパーティーメンバーを待っていた。
昨日からだが、竜司は昼休みをパーティーメンバーと過ごすようになった。
しかし今日は週末のことがあるので、俺もそこに参加しているのだ。
「竜司く~ん昨日の放課後ぶりだね~」
そう待つことなく、最後の竜司のパーティーメンバーが教室にやってきた。
その女子の印象を一言で言うなら、図書委員長ってとこだろうか。
黒髪のおさげに丸眼鏡、しかしその見た目に似合わず話し方はのんびりとしている。
「こんちわ、土岐先輩」
竜司の言う通り、彼女は俺たちの1つ上の学年の先輩なのだ。
名前は
話すべきメンバーがそろったので、竜司が三人に許可をとるために口を開く。
「実は雄大と一緒に今週末ダンジョン行こうって話になってさ……三人はそれでいいか?」
三人は特に拒否する必要性を感じなかったのだろう、快くうなずいてくれた。
「よし!それじゃあ週末、どこのダンジョン行くかはこっちで決めてもいいか?」
「あぁ、そっちに合わせる……いただきます」
竜司たちとともに潜るならどこのダンジョンでもあまり変わらないだろうからと、竜司に丸投げする。
そして待ちに待ったお弁当タイムである。
お弁当のふたを開けると、ご飯とオカズで綺麗に半分に分かれてあった。
おかずは金平ごぼうにミニトマト、半分に切られたゆで卵にロールキャベツ、それからご飯の上にはそぼろ肉で小さなハートがかたどられ、刻み海苔で『私を食べて』という文字が。
どこからどう見ても愛妻弁当です。すごく手間暇がかかっていておいしそうだ。
「雄大お前それ……」
「言うな竜司……」
肉汁あふれるロールキャベツに舌鼓を打っていると、横から弁当箱を覗いてきた竜司が何か言いたげだった。
それを黙らせ、食べることに没頭する。
そんなこんなで今日も無事昼の授業を乗り切り、下校の足のままダンジョン前の冒険者ギルドに向かう。
「ねぇツナミ?」
『何でございますか?旦那様』
俺がツナミの弁当を食べた昼休みからずっと考えていたことを、ツナミに提案してみることにした。
「明日の朝さぁ、一緒にお弁当づくりしない」
きっとそうすればもっと幸せな気持ちになれると思ったのだ。
『旦那様……喜んで、で御座います!』
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