第7話
ダンジョン実習が終わったクラスは、通常通りの授業に戻っていった。
かく言う俺たちも、昼休憩で弁当を食べた後は体育の授業があった。その授業は本来、ハードル走の予定だったのだが皆の身体能力が上がったことで難なくこなすことが出来てしまい、時間が余ってしまった。
そこで機転を利かせた教師が、ダンジョン探索に生かせるだろうと、実習で選んだ武器の素振りをしようと言い出したのだ。
「ハァッ……それにしても冒険者ギルドだったっけ……政府にもラノベオタクがいるのかもな」
「名前がまんまそうだもんなぁ……もしかしたら異界の神とやらの入れ知恵かもしれないけど」
互いの武器を素振りしながら、竜司と駄弁る。いくら身体能力が高くなったと言っても、竜司は少し息を切らしている。
幼馴染とパーティーを組むことが決まったからか、竜司はとても張り切っていた。不安をかき消すために必死なのだろうか。
「力入ってるね竜司、そんなに気を張ってたらすぐ体壊すよ?」
心配の声をかけたが、竜司は止まる気配を見せない。
「強くなるに越したことねぇだろ!やれるときにやっとかないと!」
竜司の決意を聞いた直後、クラスの他の連中が言い合いをして剣呑な雰囲気になっている場所があった。今にも手に持った武器で、戦いに発展しそうだ。
「何やってんだあいつら……」
「止めなくていいの? クラス委員長殿?」
俺が発破をかけると、竜司が素振りをやめて仲裁に行った。
竜司は責任感が強く、中学のころからクラス委員になりがちな男だった。主人公みたいなやつだよなぁ~と改めて思う。
「一人になったことだし、そろそろミナモとおしゃべりできそうだ」
『プルル!(主呼んだ~?)』
少し声に出しただけでも反応してくれる、ミナモはとてもいい子だ。
「退屈だと思うけどごめんね? 今日の放課後からダンジョン潜っていいみたいだから、たくさん一緒に冒険しよ?」
『プルン!プル!(全然退屈じゃないよ~、主の中気持ちいいし、ダンジョンにいたときよりずっと快適!)』
俺の中……つまりプライベートルームは快適らしい。
『プルゥ!(それにツナミお姉さんもいるから寂しくないよ!)』
ミナモから告げられた衝撃の事実に、俺は二の句が継げなかった。
『旦那様、ご挨拶遅れて申し訳ございません。あなたの愛槍、ツナミで御座います』
そして全く聞き覚えのない声が、念話に割り込んできた。
それは、声だけで姿がぼんやりと思い浮かぶくらい色っぽい声だった。
『うふふ……人の姿での対面は、今夜寝台の上ででも……』
ぞくりと体が震えるほどにツナミの声は官能的だった。
「……プライベートルームで、ミナモと一緒にね」
『あら、いけず』
おそらく俺をからかっていたんだろう、笑みを浮かべているのが想像ついてしまった。
「……とにかく! 放課後までもうすぐだから、もうちょっと待っててね」
『プル!(はぁ~い!)』
『えぇ、お待ちしております』
何とか会話を断ち切り、煩悩を晴らすために素振りに打ち込む。
そしたら体育の授業はあっという間に過ぎていった。
「んじゃまた明日、竜司」
素早く帰り支度をして、竜司に挨拶をする。
「おうまた明日……なんかそわそわしてないか?」
「そんなことないよ……じゃ!竜司も色々頑張れ!」
気が少しはやっていたのを気づかれたらしい、しかし竜司をからかいつつ、逃げるように教室を後にする。
「まさかダンジョンで釣りができるなんて考えもしなかったじゃん」
それは体育の後の数学の時間、問題を解き終わった後などにミナモとツナミと念話で会話をしていた時のことである。
なんと海があるダンジョンが近くにあるらしい。
どんなものが釣れるのか気になって気になって、そして釣り竿召喚の使い心地を試したくて、そわそわしてしまっていたというわけだ。
家に帰ってきたので、さっそくダンジョンに向かうための準備を始める。
まず武器はツナミがあるのでいらない、防具はダンジョン前に設営されている基地で支給してくれるそうだ。これもいつかダンジョン内で自分だけの防具を持ちたいところだ。
次に食糧、一応火魔法と水魔法が使えてお湯が作れるそうなので、コンビニでインスタントラーメンなどを買い込んでアイテムボックスに詰め込んでおく。
そして最後に、今日学校で配られた冒険者IDで冒険者ギルドのサイトにログインする。
このギルドのサイトに探索予定ダンジョンを申告することで、ダンジョン探索を行うことが出来るようになるそうだ。
この申請をしていないとダンジョン前で止められるらしい。
いざ母さんに事情を説明してダンジョンに向かおうとした時、ツナミから念話が届いた。
『旦那様、ウキウキのところ申し訳ありませんが、少し話したいことがあるのでプライベートルームに来ていただけませんか?』
それは有無を言わさぬお願いだった。ここまで来てお預け食らうの?
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