第6話

 体操着に着替え、校庭に集合した俺たちを待っていたのは、異様な光景だった。


 朝礼台の前に高く積まれたいくつかの木製武器、それは木刀や木の槍、木でできた弓や斧、果ては木の棍棒まで。ありとあらゆる武器が存在していた。


「あれが政府から支給された武器ってやつか……もっとギラギラしたやつかと思ってたぜ」


 竜司がそう呟くように、俺も鉄の剣やら刀を想像していた。


「まぁ、でも流石に学生に殺傷力の高い武器を使わせられないんでしょ。それに今から倒すモンスターが、これくらいの武器でも十分って認識なんじゃない?政府からしたら」


 そう、これくらいの武器でも学生が倒せるほどのモンスターなのだろう、実習で相手するのは。


「あんな武器で子供が倒せるって、ラノベだとどんなのがいたっけ?」


 俺自身ではあまり思い浮かぶものがなかったので竜司に聞いてみると、すぐさまその答えが返ってきた。


「スライムだろ」


 ……え?


 スライム?ミナモの同族を倒さなきゃいけないのか……?それはなんだか気分が良くないんだが……。


『プルプル‼(僕たちスライム族はモンスターじゃないよ~)』


 気分が萎えていた俺の脳内に、今はプライベートルームにいるはずのミナモから念話が届いてきた。


 プライベートルームからも念話って届くんだ。……それよりモンスターじゃないって?


『プル!(モンスターってダンジョンが創った防衛用生物のことで、僕らスライム族みたいな神様に避難先を案内されたヒトたちは、向こうの人間から魔物って言われてたよ)』


 衝撃の真実、モンスターと魔物は全く違う生物だったのだ!……じゃあミナモみたいな魔物たちはダンジョンの外に出られるの?


『プルン!(そうだよ~、神様たちからは当分はやめてねって言われてるけど~)』


 じゃあなんでミナモはダンジョンから出てきたんだろ?でもまぁ今から倒しに行くのがスライムじゃないって分かっただけ儲けものだよね。


「ボーっとしてどうしたんだ?雄大」


 ミナモと念話していた俺の反応が薄かったから、心配した竜司が聞いてくる。


「あぁ大丈夫、スライムってかわいいイメージだったからさ……」


「あぁ……雄大ってかわいい物好きだもんな」


 駄弁って時間を過ごしていると、とうとう一学年の生徒がみんな集まったのだろう。朝礼台に学年主任の先生が登壇した。


「速やかな行動感謝する。……今回の実習で向かうダンジョンは、学校近くの自然公園の森の中にできた洞窟型ダンジョン、『花埃の洞窟』である。ダンジョン内には、フラワーダストと呼ばれる、浮遊する綿毛のモンスターが発生しているようだ。そのモンスターを、こちらにある好きな武器を使って倒してもらう。自衛隊がすでに潜り安全を確保しているので、皆には安心して実習に臨んで欲しい」


 ダンジョン実習と聞いて身構えていた俺たちに、学年主任の言葉は想定外だった。






 ダンジョンに到着した俺たちは、各々選んだ武器を携えて、4人一組の班を作った。


 俺はツナミの経験があるから木の槍を、竜司は使いやすそうだからと木の盾と木の片手剣を。


 そして班分けは、できるだけ男女均等になるようにと言われているので、パーティーには竜司と仲のいい女子二人を誘ってもらった。


 一人目は、竜司の幼馴染の大久保おおくぼかえでさん。

 アーチェリーをしていて、全国上位に名を連ねるほどの名手だとか。


 二人目は、大久保さんの親友でクラスのマドンナ的存在、白星しらほし京子きょうこさん。

 中学のころからそうなのだが、年に見合わぬ体つきで数々の男子を骨抜きにしてきたとか。


 大久保さんは木の弓矢を、白星さんは比較的扱いやすい木の棍棒を使うようだ。


「じゃあ前を男子後ろを女子の陣形で進むけど、異論ねぇよな?」


 班のリーダーをしてくれている竜司の指示で、陣形を組んで進んでいく。


 そしてダンジョンに侵入した瞬間、異様な光景を目にした。


「綿毛まみれだな」


「ほんとね」


「なんだか埃っぽくていやね~」


 フラワーダスト、その名の通り見た目はまんま埃の塊が空中に浮かんでいるものだった。……しかし心なしか、周りの空気が少し良い匂いがする。花の香りだった。


「これを倒せばいいんだよね? ほんとに簡単に倒せそうだ」


 試しにと木の槍を前方に薙ぎ払い、何匹か巻き込みながら攻撃してみる。


 すると、あっという間に靄となって消え去っていった。


「……簡単に倒せるみたいだし、早く終わらせてダンジョン出よ?」


 振り返ってポカンとしている三人に、モンスターを倒すように急かす。


 すると竜司は木剣で、大久保さんは木の弓矢で、白星さんは棍棒の一振りでフラワーダストを倒す。


 3人ともあの感覚が来たのだろう、体をこわばらせて武器を握りしめていた。


「雄大、よくこんなんなって平気そうな顔してたな」


「……別に、それくらい我慢できただろ?船酔いの方が気分悪いよ」


「それとこれとは別だろ……」


 少しはぐらかし方が甘かったか、竜司はなおも訝しげに訪ねてくる。


 しかし俺が話さないと察したのだろう、すぐさま引いてくれた。


「……それじゃあ雄大の言う通り、さっさとここを出ようか!」


「そうね」


「はぁ~い」


 簡単にモンスターを倒せたとはいえ、不安はぬぐえなかったのだろう、竜司の帰還の合図に一も二もなく賛同する女子二人。


「そういえば、今回の実習で組んだ班をパーティーとして登録してダンジョンに潜っていいって先生言ってたけど、三人はどうする?」


 政府としては一週間前から準備を進め、既に実習が終わって魔力が覚醒した者をダンジョンに潜らせる準備が整っているらしい。


 そしてダンジョンの探索はパーティー推奨だそうだ。


 しかし俺にはすでにミナモがいるし、これからも魔物の仲間は増える可能性が多い。誰かとパーティーを組むのは難しいだろう。


 ……元より一人行動が好みなんだけど。


「俺はパス、こういうのは一人でのんびりやりたいから」


「お前はそういうと思ったよ……二人は?」


「私は竜司とおんなじパーティーがいいかな、安心できるし」


「私も楓と一緒なら安心できるし楽しそうだから一緒に組も~」


 女子二人は、引き続き竜司と一緒のパーティを組むようだ。


「良かったな竜司、ハーレムじゃん」


「うるせぇ!」


 女性陣に聞かれないよう揶揄うと、竜司に背中を思いっきり叩かれた。


「満更でもないくせに」


 目をそらす竜司にいい気分になりながら、俺たちはダンジョンを後にした。

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