遊嬉宴楽は誰でもできる!
小林六話
第1話 コーンスープコーラ事件
人生は楽しんだもの勝ち、というより、楽しいことを見つけた者勝ち。つまり、どれだけ自分の人生を笑顔と楽しさで染められるかということだ。
「なんじゃここは」
少女は休み時間の教室の様子に、そう呟いた。
彼女が入学した
さて、話は遊子に戻る。なぜ、彼女がこの高校に来てしまったのか、それは彼女があまり勉強好きではないことを知った両親が、試験方法がマーク式の高校を探し、中身も確認せずに高校名の響きだけで遊子に勧めてしまったからである。そしてその娘である遊子もその響きを気に入り、今に至るのだ。
「最悪だ」
遊子は頭を抱えた。入学初日でこんなにもこれからの高校生活が楽しくないと思わされるとは思わなかったのだ。それなら、マーク式に頼らないで、勉強を頑張ればよかったと後悔した。
「こんな感じなわけないもん」
入学初日だというのに、先生が教室から出て行ってもクラスメイトは友達作りをするわけでもなく、教科書や参考書を開いている。それがこの高校の普通なのだ。
「高校生活を楽しむには、その一、友達をつくることである。でも、無理じゃない?これ」
遊子は肩を落とした。休み時間とは思えない静かさに息が詰まりそうになる。仕方なく、遊子は教室を出ることにした。
教室を出たはいいものの、特にやることがなかった遊子が校内探検をしていると、職員室の近くに設置されている自動販売機の前に男子生徒が立っているのを見つけた。重たそうな前髪をしており、ただただ自販機のジュースを見つめていた。制服を見るに、おそらく新入生だろう。少し大きめな制服のせいで手が袖に隠れてしまうのが不本意なのか、袖口を折っている男子生徒は遊子の存在には気づく様子がなかった。
「なにしてんの?」
遊子は近づいて声をかけてみた。この時間に教室外にいるだけでレアキャラであるのだから、この人物は何か違うと考えたのだ。
「ジュース」
男子生徒は自販機を指さした。彼の指の先には遊び心満載の飲み物が入っているに違いない缶があった。
「コーンスープコーラって何色だと思う?コーンスープ色だったら、誰か騙されてくれるかな?」
真顔でそんなことを言う男子生徒に遊子は腹を抱えて笑った。
「誰を騙すつもりだったの?」
笑いながら尋ねると、男子生徒は真顔のまま答えた。
「生活指導の先生。俺の前髪が見ていて暑いって言われた。校則違反じゃないけど切れって。むかついたから」
「ふーん、なるほどね。じゃ、あたしが買ってみるわ。何色か見てみようよ」
遊子は笑いすぎて出てきた涙を拭いながら、コーンスープコーラを買い、開けてみた。
「色はわかんないなぁ、どうなんだろ?」
二人は中を覗き込んだが暗くてわからない。そこで、遊子は飲んでみることにした。
「うえっ」
あまりの不味さに遊子は顔を顰めた。冷たいコーンスープの炭酸でちょくちょくしつこくコーラが顔を出すような味だ。
「俺にも飲ませて」
「いいよ」
コーンスープコーラを受け取った男子生徒は口に含んだ途端、そのままコーンスープコーラを噴き出した。かなり口に含んだのだろう。口からは大量のコーンスープコーラが噴射された。そして、その噴き出したコーンスープコーラはたまたま職員室から出てきた生活指導の教師にかかった。コーンスープコーラを顔面で浴びた生活指導の教師の目が鋭くなった。
「何をするのだ!お前達!」
生活指導の怒号とともに休み時間終了のチャイムが鳴った。怒り狂いながら、女性教師に渡されたタオルやらハンカチで顔を拭く生活指導を見て、男子生徒は真顔のまま遊子を見た。
「大成功」
「わざとかい」
この時、遊子は巻き込まれた不運よりも良い仲間を見つけた嬉しさに顔を緩ませていた。その表情を生活指導に見られて遊子は「何を笑っているのだ」と怒鳴られることのなるのだが、嬉しさでいっぱいの彼女はそれどころではなかった。
《作者コメント》
新作『遊嬉宴楽は誰でもできる!』を読んで頂きありがとうございます。不定期ではありますが、これからまた楽しんで頂けるように頑張りますのでよろしくお願いいたします。
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